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これは小さな恋物語  作者: ココココ
第一章:遊戯の章
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2.趣味


目が覚めると、自分の部屋のベッドの上に転がされていた。 ついでに体が女になっていた。 ただ遊ばれた様子はないので、柔らかい物が欲しかっただけのようだ。 恐れていた筋肉痛は無い。 時刻は朝の六時少し後、腹は凄く減っている。 ベッド横のテーブルに置いてある柴犬の小物とステンドグラスのランプを目に留めながら、ベッドから這い出た。 朝ごはん食べに行くか。 まだ着ていた礼服を着替え、軽く顔を洗って部屋を出た。 


食堂に着くと、昨日言い訳に使わせてもらったジェーンが居たので寄っていった。 友達というか、懐いてくる近所の子とも言える。 たまに部屋に潜り込んでくるので一緒に寝たりもしている。 まだ幼いけれど色々あったらしく、若い身なのに眷属で、私と同じくここに住んでいる。 事情は知らない。 彼女が言いたくないようだから、私も聞いたりしない。 

「おはよう、前いーい?」

「あ、ヨル。 良いよー」 彼女が私の名前を呼んだ。 元のはとりあげたけれど、自分以外には人形と呼ばせたくない持主様に適当に考えられた名前。 多分時刻が朝だったらアサに、昼だったらヒルになっていただろう。 アサはまだいいけれど、ヒルは至極嫌なので自分の幸運が恐ろしい。 実は結構気に入っている。

彼女も食べ始めたばかりのようだ。 13歳だからなのか、食べる量も私の半分ぐらい。 いや、私が多すぎるのか? とにかくキューティクルがふんだんに光を反射する、その嫋やかなウェーブの若い黒髪が少々妬ましい。

「聞いたよー、災難だったね。 痛い事された?」

「んーん疲れてただけみたい。 あ、でも一緒に焼いたクッキーは食べてくださったよ」

「良かったじゃーん」

「でも不機嫌の原因もわからないし怖いよー」 大盛りの焼肉風炒め豆腐~キャベツを添えて~を頬張る。 今日は料理長が気まぐれに植物の日にしたようで、朝昼晩と野菜メニューになっていた。 そこそこ嘆きの声が聞こえてきている。

「あー聞いてないんだぁ?」

「えっなになに? 何か知ってるの?」

「あのねー」ジェーンが囁き声まで音量を落とした。 聞かれちゃ困る事らしい。 「エリアンデル様が誰か連れて来てたの」

「どういう事だよ……誰だったの?」 ため息が漏れた。

エリアンデル、愛の王が自分につけたらしい名前。 同じ闇陣営だけれど、性格がストレートで底抜けのポジティブ思考。 持主様がよく「雑食ハーレム野郎」と普段の口調を崩されて罵っておられたりする。 でも、とても仲が良いのであいつが来たってだけじゃああはならない。 仕事の話だったらしくてさっさと帰ったらしいけど、その知らない誰かに問題があったんだろう。 そういう事されると本当に困る。

「わかんない、見た事ない男の人。 そんなのよりエリアンデルに抱き上げられた事の方がインパクト強くって覚えてない」

「マジかー、どうにかできないのかなーあいつ」

基本的に愛の王は全員に塩対応されている。 自分の眷属達にも冷めた目で見られているから、プライベートでもああなのだろうしめぼしいものには必ず手を出すのだろう。 私にも触ろうとしてくるから、あいつだけには迎撃を許可されている。 ダメージは通らないけど、拒否するという過程が大事なんだ。

「あー、もう最悪。 誰かわかんないんじゃ無理ー」原因を屠ろうと心に決めたはしたけど、対象がわからないならそりゃ無理だ。

「えーなになに?」

「いやー持主様の機嫌さらに悪くした奴の腸抉りだそうって自分に誓ったんだよねー」

「そりゃ無理ね」

「でしょー」 

「あ、ヨルちゃんの盾使わせてもらえないか聞いてみたら?」 私が自由だった頃に使っていた、私の力を具現化したもの。 見た目が盾なのでそのまま盾と呼んでいる。 それで前やっていたようにぶん殴れと言いたいのだろう。 

「そこまで命知らずにはなれないかな、てか探知なんてそんなできないし」 おかずと白ご飯を交互に口に運び、たまにジャガイモの味噌汁を啜る。 フルに力を開放させていただいたとしても探知範囲は周囲だけだし、限定的でもいちおう神位相手でも傷ぐらいなら負わせられるので、多分話題に上げただけで躾られる。 今でさえそこの回路だけは常に管理されている。 それは彼が必要と判断した時のみ許されるものだ。

「やっぱ叱られる?」

「叱られるだけで済めばいいかな」

「あーそんなレベルなの」 じゃあしょうがないねと至極残念そうにつぶやく彼女は、実は内心すごく苛立っていたようだ。 その気持ちはとてもわかる。 まあ彼女は持主様が世界一大好きなだけだけど、原因許すまじという気持ちはおんなじだ。

ふと、時計を見た。

「ねぇ、そろそろ学校行く時間じゃない?」

「あ、そうっぽい」 さっさと食事を掻き込むと、少女はバッグを持って立ちあがった。

「私片づけとくよ」

「あ、いいの? ありがとー」 可愛らしい笑顔でお礼を言うと、彼女は優雅に去っていった。 

今日は仕事がないのでゆっくり食べる。 終わったら久しぶりに掃除でもしよう。





自分の部屋に戻った。 持主様がここで暇つぶしなされる事もあるため、キッチネット程度とはいえ調理できる環境を整えてもらってるので、ついでに趣味の物も置いてある。 数種類のティーポット、コーヒー用のハンドドリッパー、そしてどんどん増えていく沢山の茶葉とハーブとコーヒー豆。 良いの見かける度に買っちゃうから、増える一方だ。 少し自重しようと思いつつ毎回欲に負けてしまう。

ヤカンに水を入れ、火にかける。 その間に流し台の上の戸棚を開け、左の方に置いてあるコーヒー豆の袋をいくつか選んだ。 右の方の茶葉類からは、柑橘系のハーブティーを一つ取る。 味と香りを厳選し、ローストの仕様に拘った豆たちを今日の気分で混ぜた。 今日はフレーバー付きにするので、深煎りの比率を多めにして蜂蜜で薄く甘味をつけよう。 牛乳は……貰ってくるの忘れた。 今日はいいか。 

グラインダーで豆を挽く。 ガガガガという音が、ガーーーとなるまでの過程が地味に好きだ。 ちゃんと挽けたらとりあえず放置しておく。 本当は煎れる直前に挽くのが良いのだけど、自分用なのでそこまではしない。 そして耐熱ガラス製の計量カップに大匙1のハーブティーを入れる。 ミリリットル単位の目盛りがついていて、凄く丈夫にできているのでとても使い勝手がいい。 

沸く前に、袋を全部しまって戸棚を閉めた。 深いコップを一つ出して、横の戸棚に置いてある蜂蜜を選ぶ。 今日はクローバーにするか。 コップの底に目分量で蜂蜜を入れて容器をしまい、陶器製のドリッパーをコップに乗せ、その上に粉を乗せたフィルターを設置する。 いい感じにセットができた所で、お湯が沸いた。 火を止めて蓋を開けてもまだ元気よく鳴いているそれをコーヒー一杯分だけ計量カップに注ぎ、一分程待つ。 抽出温度が低いと酸味が強くなるけれど、深煎りを多めにしてるしあまりそこは気にしない。 その間にセットしたコップを温めるためにコンロ付近に置いた。 本来はお湯入れて温めるのだけど、そこまでするのはめんどくさい。 良い頃合いになったら粉の上に満遍なく少しだけかけて、三十秒程蒸らす。 これがあるのとないのとじゃあまったく違うのだ。 完全に浸み込んだように見えたら抽出開始となる。 

ゆっくりと円を描くように、丁寧に操って粉の上に余す処なく途切れずかける。 疲れで震えてくる手を宥めつつ注ぎ終わると、頃合いまで待ってからフィルターをゴミ箱に放り込む。 水分がなくなるまでドリップしてると雑味が出るらしいので、とりあえずこうしている。 スプーンで混ぜて蜂蜜が解け切ったら、最低限だけ片づけて一口飲む。 

今日の味も完璧だ。 周囲を見回して、持主様が居ないかを確認する。 たまに完成した直後に取ってかれる事があるんだ。

晴れやかな心のまま、コップを持って机に置く。 真横に本棚を置いてあるから好きな本がより取り見取り。 まあほぼ漫画なんだけど、小説もあるっちゃある。 ただしジェーンからのお願いでゲーム攻略本もあるし、他の眷属達から要請された置き場所のない本も並んでいる。 いうなれば節操がない。 とりあえず読みかけの青春恋愛ものを引っぱり出した。 こんな青春過ごしたかった気持ちはあるけど、もう遅いから疑似体験で自分を満足させるための物。 なんていいつつ甘酸っぱさともどかしさに嵌ってしまって、もうこの作者のはこれでコンプリートしてしまった。 この巻じゃまだまだ終わらないと聞いたので、次巻の発売が期待されている。


読み終わって、心地いい読後感に浸ろうと思ったらほぼ昼だった。 まだ掃除のその字もしていない。 慌てて小物の棚だけ埃を叩いて、食堂に食べに走った。


来週まで一週間につき二話更新します

その後は一週間に一話更新となります

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