表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になるには弱すぎた。  作者: あぢわ
8/153

第七話 大きな動き

 ヘラクレスは優音と別れた後、急ぎ足で校舎の方に向かう。

 目的の場所まで近づくと、そこには二人の男女の姿があった。一人は知ってる顔のランタと、ヘラクレスとは初顔の舞だ。


「お前達が案内人か?」


「ええ、そうです。私とこちらの女性と二人で案内します」


「初めまして。茅野舞です。それではこちらに」


 二人は軽く会釈し、案内を始める。


「ヘラクレスさん。予定の時刻より少し遅かったですが、何かありましたか?」


 時間の遅れが気になったのか、ランタがヘラクレスに聞いていた。


「ああ、アヴェンジャーと遭遇してな」


「アヴェンジャーと? それはどちらで」


「この森の中だ」


 森の方を指差し説明を始める。


「俺が戦闘したアヴェンジャーはジョーカーだ」


「ジョーカーというのはまさか」


「そうだ。お前もよく知っているあのジョーカーだ」


 ランタはジョーカーがアヴェンジャーの一員だと聞いて、表情が険しくなる。


「その人ってもしかしてランタ先生の先輩だった人ですか?」


「え? あ、ああ。はい。そうです。僕の先輩にあたる人です」


 ランタは少し反応が遅れながらも答える。無理もない。ランタにとってジョーカーは、憧れの人であり尊敬する人物だ。


「そうなんですか。それはなんと言うか……」


 舞はバツが悪そうな顔をして下を向く。


「あ、いえ。気になさらないでください。昔は慕っていましたけど、今ではもうなんともないですよ」


「そうですか? そう言ってもらえると助かります。ちなみにそのジョーカーって人は昔から強かったんですか?」


「そうですね。昔は強かったですよ先輩は。今はどれくらいの強さかわからないですけど……。ヘラクレスさんは先ほど先輩と戦ったんですよね?」


「ああ、昔より遥かに強い。間違いなく英雄に匹敵するほどの力を持っている。さすが元英雄の事だけはある」


「え? えぇぇ!? 元英雄だったんですか!?」


「そうだ。当時は階級Jの英雄だ」


「と言うことは今は別の方がやってるんですね」


「……そういうことになるな」


 ヘラクレスはチラッとランタの方を見る。

 ランタは二人の会話を聞きながら校舎の外壁を触り、隠し扉を開ける。


「ヘラクレスさん、こちらに」


「ああ」


 三人は隠し扉から校舎の中に入っていく。中に入るとそこは狭い通路になっていた。そのまま奥に進んでいくと扉があり、開けると普段生徒達が利用する渡り廊下に出た。三人が廊下に出たことを確認した後、ランタが扉の鍵を閉める。

 ヘラクレスが扉の上を見るとそこには、職員会議室Bと書かれた札があった。誤って生徒達が出入りしないようにしているのだろう。

 ランタが鍵を閉め終わると、三人は再び歩き始める。


「ランタ、俺はこのまま付いていって大丈夫なのか? 生徒に見つかったらマズイんじゃ?」


「それは大丈夫です。今日は早めに生徒たちを帰していますからね。それに見つかったとしても問題はないでしょう」


「……? それはどういう―― 」


 意味だ、と聞こうとした時、前にいた二人は大きな扉の前で立ち止まる。


「着きました。さぁどうぞ、中へ」


 ランタは扉を開き、ヘラクレスに中に入るように促す。どうやら目的に辿り着いたようだ。

 ヘラクレスは中に入り、部屋にいた人物を見つけ声をかける。


「よぉ、相変わらず適当にやってるみたいだな」


「ああ、皆のおかげで楽をさせてもらってるよ。まぁこちらに座りたまえよ。舞、このデカブツに茶でも出してやってくれ」


「あ、はい。すぐにお持ちします」


 舞は室内に置いてあったお茶セットで準備に取り掛かる。


「本当昔から口が悪いよな、お前は」


「ああ、口が滑った。英雄様」


 そう言ってこの部屋の主、白露鏡子――白露学園校長はソファに腰かけた。


「お待たせしました」


 舞がお茶を用意して持って来たので、ヘラクレスもソファに腰かけ、お茶を受け取る。


「それで、俺たちを呼び出した理由を聞こうか」


 鏡子は出されたお茶を一口飲んだ後、ゆっくりと口を開いた。


「実はな、アヴェンジャーがかなり大きな動きをしているという情報を掴んだ」


「なるほど。だからあんな所にジョーカーがいたのか」


「ジョーカー? 何のことだ」


「敷地内にある森でジョーカー……アヴェンジャーの一員に会ったんだよ」


「何!? 詳しく説明してもらおうか」


「ここに来る途中の森の中で、ジョーカーに会ったんだ。理由を聞くために拘束しようとしたんだが、少しトラブルがあってな。その後すぐに……エースが現れた」


「「……!!?」」


「……?」


 エースという名前を聞いて、鏡子とランタは驚く。舞は頭の上に疑問符を浮かべていた。


「どういうことだ。エースとはあいつのことを言っているのか?」


「ああ、当時表には姿を出さなかったが、影で俺たち英雄を支えていた、元魔術協会会長兼階級A補佐のエース・エイヴァリーだ」


「そうか……あいつは生きていたか」


 説明を聞いた鏡子は目を細めて何か考えていると、横から舞が疑問を投げかけてきた。


「生きていたとはどういうことですか? まるで死んでいたみたいな言い方ですけど」


「ああ、舞は知らないか。あいつは五年前にアヴェンジャーとの交戦中に行方不明になってな、状況が余りにもひどいんで助かる見込みはないと判断されたんだ」


 エースが生存していたのには驚いていたが、それよりも鏡子には嬉しいことがあった。


「それにしても、戦力が増えてくれるのは助かるよ。相手が相手だからな。生半可な戦力じゃ太刀打ちできやしない」


 鏡子が胸を撫で下ろしていると、ヘラクレスから予想外の言葉を聞かされる。


「それがだな、エースはジョーカーと同じアヴェンジャーの一員らしい」


「何だと!? それはどういうことだ!!」


「理由はわからん。だが間違いなくエースはアヴェンジャーの一員だ」


「生きていたのには驚かされたが、まさかアヴェンジャー側についていたとは。これはかなり厳しい状況になったものだ」


 そんなことを聞かされ、困り果てた鏡子にヘラクレスは本題を切り出した。


「それで、さっき言っていた大きな動きとはなんだ」


「ああ、それはだな。アヴェンジャーが近々この学園を襲撃してくるという情報が入ってきた」


「その防衛のために呼ばれたのか。だがわざわざ俺たちが出る必要があるのか? 今までの相手の動きからして、この学園の教員で十分なはずだが」


 白露学園は世界でもトップクラスの学校であるため、教員の実力もかなりのものだ。

 最近のアヴェンジャーの様子を見る限り、教員だけでも防衛することは大して難しくはないだろう。


「本来ならこちらの教員でも問題はないのだが、最低でも四人の英雄がアヴェンジャーの一員と判明した」


「……!? それは本当か?」


「事実だ。そして今回の襲撃の指揮を執る者が英雄の誰かだ」


 大犯罪組織アヴェンジャーに手を貸す英雄が最低でも四人いる。

 すなわちこれは世界の均衡が破られることを意味していた。


「なるほどな。だから俺たちの力がいるってわけか。それで、どの英雄が手を貸しているかはわかっているのか?」


「それは今だ不明のままだ」


「大丈夫なのか? 俺たちを呼んだのはいいが、その中に裏切り者がいるかもしれないんだぞ」


「問題はそこなんだが、まぁ何とかなるだろ。信頼できるやつと単純なやつを厳選して呼んであるからな」


「俺は当然前者なんだろうな」


「さぁね。どっちだったかな」


 鏡子はタバコを咥え、火を点ける。

 そのままタバコの煙を吸って吐き出し、ふと思い出す。


「ん〜。そういえばなんか言っていなかったか? トラブルがあったって」


「あ、ああ。そのことなんだが……」


 ヘラクレスは少し言い渋る。

 生徒にアヴェンジャーとの戦闘の現場を見られ、多少なりとも巻き込んでしまったことを。


「なんだ、言えないことなのか」


「いや、そういうことじゃなくてな。言いづらいんだが、アヴェンジャーの戦闘の時に一人生徒を巻き込んじまった」


「ん!? ゴホッ、ゴホッ!!」


 鏡子はタバコの煙で蒸せ返る。

 タバコを灰皿に置き、お茶を一気に飲み干す。


「なんだって!? 生徒は無事なのか!?」


「大丈夫だ。怪我もしてない」


「そうか。それならよかった」


 ホッとしたのか舞にお茶を注いでもらい、再びタバコを吸い始めた。


「それでその生徒の名前とかはわかるか?」


「ああ。名前は秋月優音。二年らしいぞ」


「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ!! な、なに!?」


「え? 優音くんですか?」


「まさか優音くんだったとは」


 秋月優音という人物はそんなに有名なのか。

 リアクションは違えど、驚いている三人を見てヘラクレスは疑問に思っていた。


「なんだ、みんな知ってるのかあいつのこと」


「え、ええ。私は優音くんの担任ですので」


「僕は一年生の頃から色々と面倒を見てきましたから」


「私はこいつが進級できるかどうかの賭けをしていたからな」


「お前本当に校長なのか?」


 舞とランタは苦笑いをし、ヘラクレスは呆れた顔をする。


「それで、秋月はどうした?」


「とりあえず俺が英雄であることを知られた。が、誰にも口外しないと約束させたから大丈夫だろ」


「そうか。ならいい。全校生徒に英雄の存在がバレて、外部にでも漏れればアヴェンジャーに対策されかねんからな」


 アヴェンジャーにこちらの思惑を知られてしまったら白露学園に勝ち目はない。

 負けてしまったら学園諸共近くの街も制圧されてしまう。そうならないように鏡子は慎重にことを進めているのだ。


「そういえば他の英雄たちはどこだ。すでにどこかにいるのか?」


「いや、お前が一人目だ」


「他のやつはいつここに来る」


「わからん」


「何だと!? 一体どうなっている」


「こちらに向かっているそうだが、いかんせん自由気ままなやつらばかりだからな」


「……人選間違ってないか?」


 ヘラクレスは額に手を当ててため息を吐いた。

 その横でランタは鏡子に質問した。


「鏡子さん。英雄はあと何人来てくださるんですか?」


「あと四人だ。あ、そうそう。思い出した。今日の夜中にはこちらに着くって言っていたな」


 鏡子は最後にタバコの煙を吸って灰皿で火を消し、吸い殻を捨てる。


「だが、無事にここまで辿り着けるかどうかだな」


「一体誰が来るんだ?」


 ヘラクレスは期待せずに聞く。


「天然方向音痴娘だよ」


「お前それって……」


「ああ、階級A。アーサー王だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ