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英雄になるには弱すぎた。  作者: あぢわ
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第一話 進級

 カチ、カチ、カチ。

 時計の音だけが響きわたる。

 目の前には椅子に座り怪訝した様子で手に持っている用紙を眺める女性。この人は白露(しらつゆ) 鏡子(きょうこ)。この白露学園の校長先生である。


「体力や筋力、知力、魔力も何もかも全てが平均以下、あるのは根性くらいか……」


 用紙を見終えたのか肩を竦めてタバコに火をつけ、ふうっと一息。


「よく進級できたな、残念だ」


「残念!? おかしいだろ!!」


 なんで残念という言葉が出てくるのか。休み返上して頑張ったのに!


「私は落ちる方に賭けていたのだよ」


「俺の進級できるかどうかを賭けんなよ!」


  全く酷い人だ。この人が校長だなんて信じられない。

 しかもなんで落ちる方なんだよ。


「まぁいい、とりあえず進級と言うことでお前も晴れて二年生だ。入学式は……」


「……終わりましたよ。校長が進級の確認をしている間に」


「そうか。それじゃあさっさと出ていけ。私は忙しいのでな」


 この(アマ)おもいっきり揉みしだいてやろうか……!


「なんだその顔は。ぶっ飛ばすぞ」


「失礼しましたぁぁ!!」


 目をギロリとさせ殺気を放ちながらこちらを見てきたので、逃げ出すように部屋を出た。

 にしても表情が余りにも怖すぎるだろ……。


「まぁとりあえず教室にでも行こうかな……って新しいクラス知らねーぞ」


 校長室に戻って聞こうとも思ったのだが、殴られるかもしれないのでやめた。

 適当に廊下を歩きながら考えていると、前から目を細めながら早歩きで誰かがこちらに向かってきた。

 髪は長く、腕には生徒会の腕章をしている。あれ? もしかして、姉ちゃん?


「あ、優音(はると)! なんで入学式にいなかったの! 全生徒出席のはずよ!」


 やっベー、めっちゃ怒ってる。


「進級できたか確かめにいってたんだよ。出席できなかったのはそのため」


 校長がもっと早く確認してくれれば行けたんだけどね。って校長も入学式に参加してないけどそれはいいの? そっちのほうが問題な気がするんだけど。


「そう。それで進級できたんでしょうね?」


「まぁなんとか進級できたよ」


「なら早く教室に行きなさい。もうすぐHR(ホームルーム)が始まるわよ」


「それなんだけど校長に聞きそびれて教室がわかんないんだよね」


「あんたねぇ……」


 呆れながら手に持っていたファイルを開き、手際よく探している。

 流石、生徒会長 秋月(あきづき) 晴海(はるみ)。頼りになる姉ちゃんだ。


「……っと、あったわ。クラスは二年C組。教室は去年私がいたとこと同じだから場所はわかるわね?」


「サンキュー、姉ちゃん」


「それじゃ、私も教室に行くわ」


 教室の場所を聞いた俺は、ふと姉ちゃんの首に掛けられているペンダントが目に入った。首には掛けていないが俺も同じペンダントを肌身離さず持っている。

  俺たち三人兄弟の証みたいなものだ。

 ペンダントを見ているとある想いが込み上げてきた。返ってくる答えはわかってはいたが、どうしても聞きたかった。


「……なぁ姉ちゃん。そのファイルに遥風(はるか)、秋月 遥風の名前は載ってないのか?」


「……載ってないわ」


 もしかしたらと淡い期待をしていたが、やはりここにいるわけはなかった。

 秋月 遥風。数年前の出来事があって以来、行方がわからなくなった俺と姉ちゃんの妹。


「悪いな、変な事聞いて。じゃ行くわ」


 そう言って早足で教室に向かっていった。



 ******



「ギリギリ間に合ったー」


 場所を知っていたのでHRが始まる前に教室に着いた。

 扉の前で呼吸を整えていると、教室の中で声が聞こえてきた。気になったので中には入らず、扉の小窓から少し顔を覗かせる。


「遅い! 遅すぎる! なんであのバカはまだ来ないわけ!?」


 教室の中で誰かが声を張り上げていた。声の正体は神崎(かんざき) (あゆみ)

 不機嫌そうに鮮やかなピンク色の髪をクルクル指で回している。声を上げたせいか少しみんなから注目を浴びてしまった。それでも構わず不機嫌そうにずっと指をクルクルさせていると急にあたふたしはじめた。

 ……回し過ぎて指に髪が絡まって取れなくなってる!


「まぁまぁ、あんだけみんなで勉強を教えたんやし。大丈夫やろ」


 隣では茶髪でいかにもエセ関西人みたいなやつが、のほほんとした表情で言っていた。

 東条(とうじょう) 啓介(けいすけ)。一応俺の親友……いや、悪友のほうが近いかもしれない。


「心配しなくてもいい。絶対に来る」


 歩の後ろの席に座っているのは、見た目は幼女体型にしか見えないがこれでも同級生で幼馴染でもある神宮寺(じんぐうじ) 未子(みこ)

 自分の体型については「胸がない分素早く動けるからなくてもいい」とか言ってたけど目が据わってたなぁ……。


 この三人は一年生の頃からずっと一緒にいた。歩だけは入学式から三ヶ月後からだったけどな。また同じクラスになれてよかった。

 もうそろそろ先生も来るし、中に入るかな。ここはカッコよくいこうじゃないか。

 グッと扉に手を掛け、勢いよく中に入った。


「みんな! 進級でぺポッ……!」


 勢いよく殴られた。


「遅っそぉぉぉおい! どんだけ待ったと思ってるのよ!」


 い、痛い! 出鼻をくじかれた! 俺はサンドバッグじゃないぞ!


「まさか教室に入ってすぐ廊下に戻されるとは思ってなかったやろなー」


 そう言いながら啓介が扉の前にいる歩の隣まで来ていた。

 くっ、まさか即場外に叩き出されるとは。ふ、ほ……た、立てない。

 仕方なくほふく前進で進み始めると、横からバタバタとした足音が聞こえてきた。その足音はどんどんこちらに近づいている。手にはノートやら教科書やらが顔の高さまで積まれており、何か言っている。


「……するぅぅ!」


 よっぽど慌てているのか何を言っているのかわからない。というよりちょっと待ってほしい。このまま走り来られたら完全に直撃コースだ。


「ちょ、ま、ストップ! ストーップ!」


 慌てて止まるように言ったものの聞こえてないのか、その足は止まらずどんどん近づいてきた。


「遅刻するぅぅ!」


「うわああぁぁぁぁあアペッ!」


 勢いよく顔を踏まれた。


「わっ! 何か踏んでしまいました」


「先生が踏んでのは優音やでー」


「え? えぇぇ!? だ、大丈夫ですか!?」


 先生は啓介が言った事に驚き、手に持っていたノートやらを廊下に置き心配してくれる。

 教室にいた他のみんなも何事かと扉の前に集まり始めた。


「……大丈夫じゃないです。立てません。誰でもいいから手を貸してくれ」


 顔だけ上を向き助けを求めた。

 すると、未子が集まった人を掻き分けて歩と啓介の前に陣取った。

 そしてビシッと手を差し出す。


「私に任せて」


「気持ちはありがたいんだけど、お前じゃ無理だろ」


 未子の小さな体では、俺を起き上がらせることはできないだろう。


「そ、そうよ。だから変わりにあたしが手を貸してあげるわ」


「私がやるから歩は手を貸さなくていい」


「あんたじゃ無理なんだからそこを退きなさい」


「ムゥ……」


 ……ここで言い争いをするのはやめて。

 さっきからスカートの中のパンツが見えるから。くまさんと水玉がバッチリ見えちゃってるから!


「眺め良さそうやなー、優音」


 ちょ!? おま、気づいて…!?

 恐る恐るスカートより上を見上げてみた。

 未子は普段と変わらないが、歩は肩をふるふると震わせていた。


「別に私は気にしない」


「こ、この、変態があああぁっ!!」


「啓介ぇぇえぇ!!」


 目の前にあった歩の足が片方、俺の顔面を勢いよく踏みつけた。

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