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ゾンビなオシゴト

ゾンビなオシゴト~Case of Ted~

作者:

 ゾンビの朝はとても早い。


 基本的に、人間の皆様とは真逆の生活を送る(生きてはないけどな)俺達は、朝は月が昇りきる前に出勤し、日が昇る前に墓へと帰宅する。


 何の仕事をしているかだって?それは人間の皆様同様、ゾンビも人それぞれだ。


 墓に引きこもるヤツもいれば、夜な夜な町へ繰り出し、踊り明かす輩もいる。  俺みたく真面目に働く者もいれば、それに集ってのうのうと食事にありつこうとするゲス野郎もいたりする。


 昔はそれこそ、仕事がなかった時代。金はないが町を自由に歩けた分、喰うに事欠くことはなかった。


だが今の時代は違う。


 過去これまでにない、空前ゾンビブーム到来のお陰で、職に困ることは少なくなった。

むしろ俺みたいな働き者は、各方面から引っ張りだこなくらいだ。金だってもちろんある。

まぁ、金があったところで残念ながら使い道はないのだが。

とりあえずは、会社の賄いで空腹は満たされているので吉としよう。

 

おっと、ごちゃごちゃと説明している間にも会社についちまった!

さて、今日も1日頑張りますかー。


「お疲れさ~ん」


 最初に言っておくが、ゾンビの挨拶は人間の皆様のように『おはよう』とは言わない。

朝であろうと、夜であろうと、ほとんどの場合『お疲れ』で済む。

ゾンビはいつだって疲れているのだ。

だから人間の皆様は、もう少しゾンビである我々を労っていただきたいと、常日頃から思っているのだが……


まあ、それについてはまた改めて議論するとしよう。


 地下にある事務所のドアを開くと、先に出勤していた同僚がこちらを見て手を挙げる。


「ようっテッド!どうした、今朝はやたら早いなぁ」


 事務椅子の上に体育座りをし、くるくると回るのが趣味だというこの男の名はアンジェロ。

毎朝誰よりも早く出勤し、気に入りの椅子を回すのが彼の日課。

今日も相変わらず、そのファットな見た目にはそぐわない軽やかさでくるくるしている。

 たまによろめく様がとてもシュールであるが、本人はそれがまた楽しいらしい。


うん、悪く言うと単なるバカ。

良く言っても変わり者だろうか。


 普段は特に気にもとめないのだが、最近の事務椅子も随分と丈夫な作りになったものだぁと感心する。

いや、そんなことよりも今日の俺は少し寝不足。見ているだけで目が回りそうだ……。


「いやぁ、昨夜な、隣の墓が建設中で騒音が酷くて」


「あぁ~そりゃたまんねぇでなぁ。お前んち、新設の集合墓地だもんなぁ。まだまだ新築も多いでぇ」


暗に寝不足だから気を使えよと示すも、アンジェロはお構いなし。

まぁゾンビなんてのは、みんな眠そうな顔してるやつらばかりだから、気付かないのも仕方ないのだが。


「そうそう、聞いたかテッド?」


「何を?」


「明日、新入りが来るらしいぜ!しかも、ただの新入りじゃねぇ!べっぴんさんだとよぉ♪」


俺に気を使うどころか、小さく鼻歌まで歌い出すアンジェロ。

……ノッてきたのか、さっきよりも回転速度が上がってやがる。

(うっ……目が回る……)


 ここはゾンビ専門に斡旋業を営む、Z.O.M株式会社(通称ZOM)

巷ではそこそこ有名な老舗企業である。


 社員は俺ら2人を含め5名。他は登録派遣社員が数百名。

 派遣先というと、ゲームでの演出をはじめ、音楽PV出演、映画出演などが大半を占める。

最近ではテーマパークのイベントなど短期的な案件もあり、仕事がてらに流行りの遊園地を楽しみたいという、ミーハーなゾンビ達からの競争率が激しさを増している。


 随時登録者は確保してはいるのだが、中には殉職するものも少なくなく(いや、もともと死んではいるのだが)、社員を含めて慢性的なゾンビ不足だ。

なので、ここに来ての新入りは、正直とても有難い。

(まあ、ゾンビのべっぴんだなんて、たかが知れてるが……)


──翌日。


「近くの集合墓地に入りましたイルダーナです。今日からお世話になります」


社員全員の前で深々と丁寧にお辞儀をするのは、昨日アンジェロが言っていたべっぴんの新入りだ。


 確かに他の女ゾンビと違い、イルダーナは綺麗な顔立ちをしている。

肩までのブロンドヘアだって、まるで蜂蜜を被ったように艶々だ。


 全くもって期待などしていなかった俺だが、こいつはホンモンかも知れねえと思った。

 その美しさを、人間の皆様にも分かりやすく伝えるならば……


『こいつ本当に死んでんのかと疑いたくなるほどゾンビ離れした容姿』だ。


 おかげでアンジェロなんて、テンション上がり過ぎたのか超高速回転してバターみたいになってやがる。

いやバターは言いすぎか……そんな良いもんじゃない『腐ったみたい』のほうが近いだろうか。

ゾンビだから元々腐ってんだけどな。


それぞれ自己紹介を終えると、すでに社内のアイドルと化したイルダーナが近づいてきた。


「あの、テッドさん!テッドさんってもしかしてKK墓地のF21のテッドさんですよね」


「え?そうですが」


イルダーナ!何で知ってるんだー!?


「やっぱり~。実は私、昨日テッドさんが出かけるとこ見かけたんですよね」


「す、ストーカーなのかぁ!?イルダァーナッ!」


思わず声に出てしまっていた。


「えぇっ?違いますよ~。わたし、昨日お隣のF22に入居したばかりなんですから」


「隣……B22に?」


お、お前かぁぁー!!

俺の睡眠を妨げるのはっ!イルダーナッ!


こうしてZ.O.M株式会社で働く俺に、新しい部下、兼お隣さんができたのだった。


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