ながれのなかのにゃー。
昨夜辺りに見た悪夢より。
ふと気が付くとにゃーは柔らかな陽射しの中、にゃーのために助教授の人が作ってくれた特製の自転車を押して澄みきった水の流れる河の土手を歩んでいた。
「あにゃ?にゃー、確かおこたで丸くにゃっていたはずにゃんだけど……」
まったく見当がつかにゃい。そんなにゃーの脇を小学生らしき子供たちが歓声をあげながら走り抜け追い越していく。
「……それにしてもここはどこにゃのにゃろ」
周りには文明を示すような建物はまったく見当たらず、ただ、ただ広い原野に見たこともないような色彩の、鮮やかな、そして心安らぐような花畑が広がるばかりである。
「にゃー……いい天気だにゃぁ……」
またも隣を家族連れや学生などとおぼしき集団の声が通り越していく。
「……………あにゃ?誰もいにゃい?」
ふと、にゃーは気がついてしまった。声は確かに今も聞こえる。楽しそうな声が。にゃのに、辺りを見回しても誰の姿もみえにゃいのだ。にゃんだこれは。にゃんにゃのだ。ここはいったいどこにゃのだ。にゃーはどこへいこうとしているのにゃ?
「うにゃっ!?足が、とまらにゃいにゃ、にゃぜにゃ!?」
気づけばいつの間にか澄みきっていたはずの河の水は濁流に変わっていて陽射しは翳り、辺りは沈黙が支配している。前方の更に奥の方からは聞くに堪えない様々な叫び声のようなものが渦巻いて本能的に近付いてはいけないと分かっている。……が、分かっているのに足が止まらない。
「いきたくにゃい、いきたくにゃいにゃぁ……どうしてにゃのにゃぁ……」
にゃーは完全に混乱しパニックに陥ってしまい、次に気がついた時には相変わらず自転車を押したまま土手の終点で濁りきった波が押し寄せ引いていく砂浜にいた。これ以上はまずい。危険にゃ。いってしまう。ながれに飲み込まれたら帰ってこれにゃい。冷や汗とともににゃーの脳裏に警鐘が早鐘のように鳴り響く。
ふと前を見ればそこには全身を泥まみれにした小学生の一団が引いていく波に飲み込まれて消えていき、背中に家族を背負った大人や半裸の学生たちが黙々とながれに身を投じていく。
「にゃ、にゃー、にゃぁぁっ、うにゃー!」
足が止まらにゃい。いやにゃ、まだにゃーは助教授の人とやりたいことがたくさんあるのにゃ。まだ死にたくにゃい。だれか、だれか助けてにゃぁぁぁあああ!!
「おい。にゃんでお前がここにいるのにゃ?」
「にゃ!?」
「まったくしょうがにゃいやつだにゃ。にゃんのためにその自転車にはベルがついているのにゃ、早く鳴らせにゃ」
「にゃ、にゃ、にゃ……にゃんでお爺ちゃんここにいるのにゃ!」
「にゃんでといわれてもにゃ。ともかくお前、早く帰れにゃ。後で枕元に立てたら教えてやるにゃ」
はよ自転車のベルを鳴らせと言われてあわてて鳴らすと既に腰まで浸かっていた濁流は瞬く間に消え失せていき意識も遠のいていくのが感じられた。
「お前がここにくるにはまだはやいにゃ。とっとと帰れにゃ」
「にゃっ」
「にゃーちゃん!ようやく気がついたか、まったく心配したんだぞ?炬燵で眠ったまま意識が戻らなくなるとは」
「うにゃぁ……お爺ちゃんに怒られたのだけは覚えているにゃ……」
「まったく。ほれ、とりあえず飲め、特製ドリンクだ」
「……と、く、せ、い?」
「私に心配かけたさせた罰だ。いやとは言わせないぞ?」
「うにゃぁぁぁ……」
そしてにゃーは再び気を失った。
「…………ふむ。味にやや難あり、か」