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数奇な巡り会い

「おいバーナードか?」


 歩きながらスマートフォンを見ていたバーナードは不意に前方から声をかけられ立ち止まる。駅まであと数百メートルという所で聞き慣れた声に呼び止められた。バーナードはスマートフォンから目を離し顔を上げる。と、そこには同僚のジム・ターナーがマウンテンバイクに跨ってこちらを見ていた。


「朝からtwwは危ないぜ」


 サングラス越しに彼を笑いながら注意してきた。アフリカ系アメリカ人の彼はジーンズに黒のTシャツというラフな格好で真新しいマウンテンバイクに乗っていた。


(ああ朝からうるさいのに会ったな)


「ご忠告どうも。それよりお前は自転車なんだから急いだ方がいいんじゃないか?」


「大丈夫さ、俺にはこいつがついてるからな。」


 そう言って自慢げにmontague社のマウンテンバイクを撫で回す。


「また変えたのか、本当に自転車好きだなお前。」


 バーナードは呆れた様子でジムを見つめる。


「家にストックしてあるのだけで6台はあるけどまだまだだよ」


「何がまだまだなんだよ。ところでこんな所でお前は何してるんだ?」


「俺か?俺はあいつを待ってたんだよ。」


 そう言ってジムはコーヒーショップを指差す。すると扉が開き中からカップを持った男が出てきた。彼は何やら険しい顔をしてコーヒーを運んでいる。そしてこちらに気がつき、顔をほころばせた。


「おいバーナードじゃないか。」


 男は嬉しそうにバーナードに駆け寄る。バーナードは大きく溜息をつきながら目を細めた。


「ルイスか、通勤時からお前の顔を見るなんて今日はついてないな。」


「よく言うぜ同じ部署で働いてるくせに。」


 そうルイス・t・サマーズは言うなり彼に向かってニヤリと笑いかけると肩を肘で突いた。


「いつもならあと一時間位したら会うのにな。この時間に会うなんて珍しいな。寝坊でもしたか?」


「まあそんな感じだな」


 バーナードは適当に相槌を打つ。何を隠そうこの男はバーナードが夢で夜な夜な魘されると相談した友人だ。そして馬鹿にした張本人でもある。


「そこで丁度ルイスに会ったからスターバックスでコーヒーでも奢ってもらおうとしてな。」


 ジムは黒い肌から白い歯を見せながら高らかに笑った。


「そうだな、お前にはこいつで十分さ」


 そう言ってルイスは缶コーヒーをジムに投げ渡す。


「は?まじかよお前。何で缶コーヒーなんだよ。」


 ジムは慌てて受け取るとルイスに不満を漏らす。


「ハハハよかったなジム、缶コーヒーで。俺なんかこの前甘ったるいコーヒーとは呼べない代物を飲まされたよ」


 バーナードはジムの肩に手をかけフォローをする。


「嫌なら自分で買ってきな、俺はコーヒーよりカフェオレの方が好きなんでな」


 ルイスはジムを鼻で笑うとカップに口をつけ勢いよく胃に流し込む。


「うるせーお前のはカフェオレでも何でもねえよこの糖尿病が。」


 とジムは喚き散らすと自転車をだそうとする。


「おいおい買ってやったのにその言い草はないだろ」


「ああ分かったよ覚えとけよこの味音痴が」


 そう言ってジムは自転車を漕ぎだす。漕いでいる間器用に片手で缶を開けると、あんなに不満を漏らしていた缶コーヒーを口にしながらfuckと呟いたのが聞こえた。


「片手運転は危ないぞー」


 バーナードは彼に向かって叫びながら忠告した。ジムは缶を持っている手をヒラヒラさせながら手を振り、職場である庁舎に向かって行った。


「お前も電車の時間大丈夫かよ。なんなら送ってやろうか?」


 ジムを見送るとルイスはバーナードに尋ねてきた。


「ああ、お前がいいなら頼むよ。」


「OK、たまには一緒に行くか。そういやお前朝食は食べたか?俺はまだだから一緒にどこかコンビニでも行くか?」


「あ〜、いやいい。俺はいつもの行きつけの店があるんでそこで買うよ。」


「そうか。なら俺もそこで買うとしよう。その店はどこにあるんだ?」


「すぐそこだよ。そうだお前車をどこに停めてるんだ?」


「ここのスターバックスの駐車場だよ。」


「なら歩いて行くか」


 二人は肩を並べて通りを歩く。


「そういえばお前カイルの優勝祝い何を買った?」


 不意にルイスはバーナードに問いかけた。カイルは

彼等の部下で、先週行われた地元の射撃大会で優勝をした男だ。


「いいやまだだ。しっかしあいつ本当腕は立つよな」


「大口叩いてたセドリックとマイルズはあいつに勝てなかったもんな」


 あいつらの落胆した顔は傑作だったよとルイスは不敵に笑った。


「ハンナも一緒に出てたな、確かいいとこまでいってなかったか。」


「嫌だね〜最近の若いのは。公共の場でいちゃつくんだから。俺らみたいな独身のおっさんに見せつけてんのかね。」


「大丈夫だ、彼らは健全だ。お前の考えが捻くれてるだけだ。」


 バーナードはフッと笑いながらルイスに言った。


「確かハンナはもうすぐ誕生日だろ。カイルの野郎トロフィーをプレゼントしてやるとかぬかしてたぜ。」


「あいつらも付き合って長いしな、いいことじゃないか。ところでお前はどうなんだ?この前女性と一緒にいただろう。あの人とは付き合ってるのか?」


「知るかよあんなビッチ、クソくらえだ。」


 ルイスは唾を吐きかけるように呟いた。


「お前はいつも関係が上手くいかなくなったらそう言うな。そこがお前の悪い癖だ。いい歳なんだしそろそろ身を固めたらどうだ。」


「お前に言われたかねーよ。お前こそ早く相手を見つけろよ。第一免許持ってるのになんで車に乗らねーんだよ、そこ大事だろ。」


「関係ないだろ。それとこれとは。…まあ俺が車に乗らないのはいろいろあるからだよ。」


 そう言ってバーナードは言葉を濁す。


「いろいろねえ。そのおかげで俺はいつもお前の運転手だけどな」


「ああ、悪かったな。」


「どーれ、今日は帰ったらカイルの優勝祝いの準備でもするか。」


「また俺の家でか?」


「そりゃそうだろ。ニールがあんな調子だからもうずっとお前の家だろ。これから先もそうなるな。無駄にでかい家に一人暮らししてるんだし別にいいだろ。」


「分かったよ。だがお前達が帰った後一人で片付けるこっちの身にもなってくれよな。」


 バーナードは肩をすくめる。酔っ払って片付けないんだからお前らはとバーナードは愚痴をこぼした。


「ああここだよ、俺の行きつけの店は。」


 そう言ってバーナードは店を指差す。


「あまり良さそうな場所じゃないな。」


「…まあ否定はせんよ。」


 バーナードは店のドアノブに手をかけると扉を引いた。


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