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最後の朝食


 ギラつく太陽にうだるような暑さ。人々は日光を避け、路上のコンクリートからは陽炎が蠢めき、乾いた風が頬を撫でる。ここオレゴン州ポートランド市でも7月に入り、例年通りの暑さが続くだろうと予想されていた。しかし今年は稀に見る冷夏であり、7月中は殆どが曇っていた。近年は温暖化のせいか最高気温が年々上がっていただけに朗報のように思える。だが唯一降水量が低い夏がこうも連日雨が降っており、平均気温が15度を毎日下回っていては、住民達も異常気象ではと不安になるのも無理はない。しかし皆雨には慣れており気にはするが、今日もいつも通り友達と仲良く学校に行き、同僚たちと愚痴を言い合いながら仕事をしている。そんな平和な田舎町に事件は起こった。



「‥何だこれは‥‥」


 一人の男が眉間に皺を寄せながら何やら独り言を言っている。ここはライトリール駅前の売店。比較的他の駅よりは人の行き交いが多いので、ここではいろいろな店が立ち並んでいる。そんな長閑な風景にガタイのいい黒服の男が、店の商品を睨みながら唸っている。彫りの深い彼の顔は少し顰めっ面をするだけで迫力満点だ。買い物をしていた客は彼に怯え、会計を済ますと関わらないように足早に店を去って行った。しかしレジにいる店員は怯えるどころか少し不満を表しながら彼に話しかけた。


「ちょっとお客さんあまり他の客に迷惑をかけないでおくれ。」


 しかし彼は店員の忠告を無視し尚も睨み続けている。店員はため息をつき、無駄だと分かったのかそれ以上話しかけなかった。幸いこの店は毎日使っているからだろうか、彼を怪しく思ったり警戒する様子はなかった。彼は通勤前にここのサンドウィッチを買っていき、オフィスで食べるのが日課だ。


そんな彼がいつもは気にしない菓子パンコーナーを通っていると、ある食パンが目にとまった。その食パンは袋に不気味な葡萄の絵と「a destructive raisin bread (破壊的なレーズンパン)」とパッケージに書かれていた。しかもその食パンは生地全体がドス黒い紫色に変色しており、所々にし赤みを帯びたレーズンが埋め込まれていた。彼はその食パンを手に取ると


「こんな物を買う奴の気が知れない。そうだろジャクソン?」


 と後ろでスナック菓子を中腰で選んでいた、彼の部下であるジャクソンに同意を求めた。


「え?あぁ、そうですね。う〜ん。」


 ジャクソンは気の無い返事をすると、チラッと彼の方を見た。ポケットに手を突っ込み、いかにも不満な態度を表して返事を待っている。しかも何が彼を苛立たせているのか、顔はずっと顰めっ面のままだ。


(これは相手をしないとまずいな)


 そうジャクソンは長年の彼の部下としての経験から推測した。中腰の姿勢から彼の方に向き直ると、食パンを受け取り、綺麗な黒髪の頭を左手で掻きながら考え込んだ。向かい合うとジャクソンは、186cmと決して小さくはない彼よりも頭1つ分ほど高かった。


「見た目はあれですけど食べてみると案外美味しいかもしれませんよ。」


 とジャクソンは微笑を浮かべながらも店側にフォローを入れて上司に返した。


「いやこれは絶対不味いね」


 彼はパンを受け取りながらジャクソンのフォローを無視するかのように断言した。


「カーターさんはそれを食べたことがあるんですか?」


 ジャクソンが不思議そうに尋ねる。カーターは実はこの食パンを食べたことはない。が、彼は何故かそう決めつけていた。


「いいや、ない。だがこいつを見てみろ。」


 カーターは食パンのパッケージを指差す。そこには不気味な葡萄のキャラクターが笑みを浮かべていた。


「こいつの目はイカれてやがる。」


 熟した葡萄から目と口が生え、充血した目を見開かせながらこっちを見つめている。おまけに片方は腐ったのか下に飛び出している。口は目元まで裂けており歯並びもガタガタだ。売る気があるのかと製作者に問いたいほど悪意に満ちたキャラクターがそこにはいた。ジャクソンは今度はフォローをせずに素直に笑っていた。


「ははっ、確かにそうだ。‥でも絵は確かにあれですけど味は一流かもしれませんよ?なんならもう今日はサンドウィッチじゃなくてそれにしたらどうですか」


 他人事のように彼は言った。しかし直ぐにカーターは否定した。


「それだけはゴメンだね。しかし俺は食べたことはないがこれをどっかで見たことがある。その時にとても不味そうだったのは覚えているが、それが何処で何故だったかのかが思い出せない。う〜ん、考えても思い出せない。まあもういい、こんなふざけた物は関わらないのが一番だ。ろくな事がない。ジャクソンさっさと買って電車に‥‥‥」


 カーターは入り口に視線を向け、固まった。と思うと


「あぁ、そういえばあいつだったか。」


 と言うと何故か納得したような表情を浮かべていた。


「どうしたんですか?」


 そう言ってジャクソンが振り返ると2人の男が入ってくるところだった。しかもその2人は同じ連邦捜査局ポートランド支部で働くFBI捜査官だった。

思いつきで書いている。後悔はしていない。やり始めたのなら最後まで終わらせなければならない。例えそれが誰にも見られず、一人寂しく書いていても。面白くないつまらないと罵られても。自分には続ける義務がある。


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