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06

「ねえ。本当に彼女に【記憶】が憑いてるの?」

『ええ、間違いないわ。反応は弱かったけど、確かに私は感じたもの』

 家に帰ってきた僕は自分の部屋で横になっていた。本来ならばリビングのソフを使いたいのだが、兄妹たちが全員集合していた。楽しく一家団欒している家族、それは僕にとっては、苦手な空間。

 リビングを占領された僕は、大人しく自分の部屋へ逃げ込むしかない。

 扉を閉じれば、静かな自分の空間になる。

「そっか。でもさ、いざとなれば〈直結リンク〉すればいいよね?」

『何言ってるの。あれは本当に奥の手の奥にある手よ。そんなホイホイ使っていいモノじゃないの!』

「でも……」

『でも、じゃない』

 珍しく厳しい口調のメロ。僕の意見を全く聞こうとしない。それほどまでに〈直結リンク〉が嫌なのだろうか? 

 僕ならあれくらい大丈夫なんだけどな。 

『でも良かったじゃない』

「へ?」

 話題を変えて、誤魔化そうとするメロ。

『蛙声 由衣の連絡先ゲット出来たじゃない。初めて異性の連絡先手に入れたわね?』

「……」

『どう、早速連絡しちゃう?』

 確かに僕はクラスメイト達の連絡先を知らない。高校三年生になり心機一転新しいスマホに買い替えたが、もとよりそれはスマホのゲームをやりたいが為に購入したのであって誰かと連絡するために買ったのではない。

 ゲームをやる目的を果たしている。故に、連絡先などどうでもいい。

 これは強がりでは無く。本気だ。

 でも、

「一応、卯月の連絡先は知ってるけど?」

 唯一のクラスメイトの連絡先だ。あんまり連絡はしえないんだけど。

『他には?』

「あとは家族の……お姉ちゃんと父さん以外は知ってるし」

『他には……って、え? 家族のも知らないの?』

「うん」

 今まで連絡する機会なかったし。母さんと兄には割と連絡している――兄の場合は一方的な連絡が来る。

『あら、そうだったの』

 蛙声 由衣の名前は僕の携帯の電話帳の中のトップに表示されている。秘密を知られたからには協力しなさい――だそうだ。

「蛙声 由衣」

 僕が彼女について知っている情報を、PCを使って書き出していく。普段は余り使わないノートパソコンではあるが、頭の中を整理するときには良く使用している。手書きよりもすっきりした感覚になるのは、表示される文字が機械的に統一出来るからだろうか。

 蛙声 由衣。

 クラスメイト。

身長は女子にしては高い方であるが、体は細い。

クラスの誰かがスタイルが良くて、モデルみたいだなと言っていた記憶あり。

 友達は多い方ではないが居ない訳でもない。

 異性からは告白されているらしいが――誰かと付き合ったと言う噂は聞かない。恐らくこれは、恋より夢を優先しているからだろう。

 学校と休日では、大分印象が違っていた。

『うん。それはいい事ね』

「何がだよ、メロ」

『違っていたと認識することよ。固定概念は人との間に垣根を作ってしまうわ。垣根を作るのは自分であって相手ではないのよ?』

 メロがどこか悟った目で、名言らしき言葉を発する。らしきでは無くて名言ではあるが――それはかの有名な哲学者が言った言葉であって、メロの言葉では無い。

 僕なら気付かないと馬鹿にしているのか?

『え……知ってたの?』

「知ってるよ。馬鹿にしないでもらっていい?」

 僕の覚え違いでなければ、後世に残したのはアリストテレスだった気がする。そのくらいの名前は、僕でも覚えているさ。

『嘘よ! 憶はアリストテレスは二人で一人だと勘違いするくらいのおバカな子なのよ?」

「した事ないよ、そんな勘違い!」

 そんな小学生みたいな間違いしてたまるか。そんな関西でもしないようなボケを何んで僕が言わなければいけないんだよ……。

『アリスと?』

「テレス! じゃないって!」

『もしくはアリストテレスの中にテトリスの四文字を見つけて、「縦棒を見つけた」とか言っちゃう、痛い子だったはずよ?」

「なんで、会って二か月のメロが、中学時代の僕の黒歴史を知ってるんだよ……」

  中学のマイブームは、人の名前から単語を作る事だったりする。 

 何で知ってるのかもなにも、メロは一応僕の記憶見ている。

それもまた〈直結リンク〉の影響だけど――余計な部分を覚えてくれてるな。

『憶の黒歴史は塗りつぶしてあげるわ……』

「塗りつぶすも何も、掘り返したのはメロだからな」

『とにかく、その学校とのギャップが答えに近づく鍵かも知れないわね』

「ああ」

 【物語の記憶】に憑かれた人間が、ある行動をする事で【記憶】に支配されて行ってしまう。その行動を【鍵】と呼んでいる。

 例えば二か月前に出会った【吸血鬼の記憶】を持った青年。

 彼の目覚めは【処女の血】を飲むことであった。その標的になったのが卯月であり、その現場に居合わせたのが僕だった。

 『今回の【記憶】はそんな強力じゃないみたいだから、前回の様にはならないと思うけど』

「そうなる事を祈ってるよ」

『ただ一番はこのままその【鍵】を開けないでいるのが一番いいんだけれど……』

「いいの? その【物語の記憶】とやらをメロは集めてたんでしょ?」

『ああ、いいのいいの。この星の【物語の記憶】は凄い綺麗で純粋だから、沢山持っていこうとしただけなんだから』

「そんなお土産気分で、僕は、あんな目に合ったのか」

メロ達の言う【記憶】とは物語を読んで面白かったと思ったり、悲しくなったりする人の感情である。

 そんな感情を食料として生きていたらしいのだが、遂に地球と言う星を発見したらしい。数少ないメロの種族は、先遣隊としてメロを送ったらしいが――結果は最悪だ。

 だが――何よりも最悪なのは、同じ【物語の記憶】を何個も集め回っていた。日本全国だけでなく世界を股にかけたメロの冒険。

 その濃縮された一つの物語の思い。

 それを吐き出した結果――本来なら生まれるはずの無い新たな人種が出来上がった。

 それが【記憶憑き】だ。

『何言ってるのよ。あんな目って、まだまだ序の口よ。ファイト!』

「はあ、」

 メロを睨みつけて僕は【物語の記憶】フォルダーに、蛙声 由衣のテキストを保存する。正直まだ【記憶】については分からない事が多い。

だからこうして、さまざまな情報を保存しておく。

 人の記憶はひどく怪しい。

何でも記憶の空白を嫌ってみてもいない物体を思い起こさせたりする。

「さてと、その結果これから毎週日曜日――蛙声さんに会いに行かねばならなくなた訳だ」

『何よ、嫌なの?』

「僕は基本休日は家から出たくないタイプの人間なの」

 休みの日は休むから休日なのであって、その休みの日に体を酷使し、翌日授業に集中できないなんてもってのほかだ。

『けどその休みの日にしかできない経験が将来きっと役に立つのよ?』

「将来? 残念だったなメロ――。僕は将来など遠の昔に諦めた!」

『そんな自信満々に言われてもね』

 世の中は才能だ。

 才能の無い人間がどう足掻いたって結末は見えている。平穏な人生なんて詰まらないとか言ってる人間がいるが、それはたいてい成功者だ。成功するまでに何回も苦しい思いをしたと言っているが――最終的には勝者になっている。

 勝者の言葉ほど敗者には届かない。

 敗者の気持ちを勝者は考えられるかも知れない。

けど、その逆は不可能だ。

 だから自分の才能を理解している僕は流されて人生を生きると決めている。だから将来なんてあやふやなモノは諦めた。

「これは自信じゃないよ」

『ふーん。ま、私は今の憶も好きだから別にいいけど』

「へー、嬉しい事言ってくれるね」

『でしょ、でしょ!』

「さ、じゃあ今日はもうお休みしますか」

『え、それだけ……?』

 メロがぽかんとした。

 それだけって、一応今の段階で可能な限りの情報の整理、見直しを行ったんだ。これ以上やれる事は無いと思うんだけどな。

「もしかして、他にも情報があるとか?」

『そうじゃないわよ!』

「あ、ちょっと……メロ!」

 メロは僕の部屋に備え付けられた鳥かごへと籠ってしまう。自分で器用に扉を閉めて鍵をする。

 球状の格子。

 これは両親がメロの為に買ってくれた鳥籠である。メロを普通の鳩だと思っている両親からの優しさ。

 しかし、メロは普通の鳩ではないので、世話をする必要はなく、普段は出しっぱなしで寝たりしていが――機嫌が悪くなったりするとこうして自ら鳥籠の中に籠ってしまう。

「ちょっと……」

『寝るんでしょ!』

「何で籠の中に入ってるんだよ。いつもは一緒に寝てたじゃん」

『う、うるさい。もう話しかけてこないでって言ってるっぽ!』

 籠の中から視線を感じる。

 寝るとか話しかけるなとか言われたんだけど……凄い気になってしまう。

「あのーメロ?」

『ぽっ』

「鳴き声で威嚇するの止めてもらっていい?」

『ぽぽぽぽぽ』

「鳴き声で寝たふりは無理があるから!」

 全然寝てるようには聞こえない。恐らく本人としては、Zの繰り返しを意識したのだろうけど。

『もーうるさいなー。しつこい男は嫌われるよ』

 籠でバタバタと飛び回る。

「あー、ちょっと毛が舞う毛が舞う! 片付けるの大変なんだからな!」

『いーだ』

「もう、分かったから暴れないで!」

 僕は夜遅くまで部屋の片づけをしていた。

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