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05

「失礼、取り乱してしまったわ」

「いいよ。気にしなくて」

 僕は公園に置かれていたボロボロの自動販売機からスポーツドリンクを購入して蛙声に渡した。「ありがとう」と頭を下げて受け取る蛙声。

 どうやらいつもの冷静さを取り戻したようだ。

「で、笑うなら笑いなさいよ」

「へ?」

「悪かったわね、こんな身形で声優なんて目指して」

「悪い訳ではないよ。ただ意外だっただけで」

 まさか、あの大人びたクールな蛙声があんな子供みたいな声を出せるなんて全く思わなかった。

「あんな可愛い声出せるんだね」

「可愛い? そんな訳ないじゃない」

 スポーツドリンクの蓋を開けてスポーツドリンクを飲む。その仕草も精錬されていると言うか様になると言うか。

 可愛いと言うよりはカッコイイ。

 そんな感じだ。

「本当だよ。正直もう一人子供が隠れてるんじゃないかと探したくらいだもん」

「え……。じゃあキョロキョロしてたのは」

「うん。その子供を探してた」

「そんな……」

 その場で固まってしまった蛙声。

「じゃあ、黙ってれば気付かなかったのね?」

「そうなるね」

「先に言ってよ。そうすればあなたの頬を叩かなくても済んだのに」

「勝手に話し出したのは蛙声さんだよ……」

 僕の質問を遮って語りだしたのだ。普段はすぐに謝る僕だけど、こればかりは僕は悪くない。

「ばれちゃったのなら仕方ないけど……」

 蛙声さんは立ち上がって改めて僕の方を向く。

「どうかこの事は内緒にしてください」

「はあ……」

「声優になりたいって親にも伝えてないし、クラスの皆にも誰一人教えてないの。だから、伯耆くんにも黙ってて欲しいわね」

 深々と頭を下げる蛙声さん。

 別にそんな深く頭を下げなくても別に誰かに離したりしない。本当は話したいが話す友達がいない。

「……」

 友達なんていらないとは思っていたのになー。

 あ、でも卯月がいるか。

 卯月も自分の夢の為に頑張っているんだから相談相手になってもらえるかもしれないな。同じクラスだし、女の子同士、全く話した事がないわけではないだろう。

 そんな余計なお節介を考えていた僕。いつの間にか頭を上げた蛙声は僅かに俯いて泣きそうな声で提案する。

「そうよね。何もしないで約束を守ってなんて都合がいいわよね……分かったわ」

「うん?」

「とぼけないで」

「……」

 この流れは嫌な流れだ。

 蛙声さんは勉強の成績は良いはずだから馬鹿ではないと思うが――そうか、僕と同じで友人がいないから空気が分からないのか。

「何でも言う事聞いてあげるって言ってるのよ」



 何でも言う事を聞く。

 それを女子から言われるのは男子ならだれもが憧れる状況ではあるだろうが、生憎だが僕は紳士だ。

 別にひそかに上空を舞っていたメロが鋭い嘴を向けてスタンバイしているから断るとかそう言う訳ではない――いなくても断っていた。

「いや、別にねぇ」

「駄目よ! じゃなきゃあ信頼できないもんね」

 もんねって、一昔前の少年漫画か。

 しかもそれは蛙声さん、自分の都合ではないですか? と思うが、今のこの状況下手に何か行ったら、どんどん暴走してしまいそうだ。

 だとすると――確か女性と仲良くなるには秘密を共有すると効果があると、子供のころに見たテレビで言っていた。

 ならば、僕も秘密を蛙声さんに差し出せばいい。

「じゃあさ」

 僕はありもしない自分の秘密をカミングアウトする――はて? こういう場合はカミングアウトと言っていいのか。嘘をカミングアウトってセーフなんじゃ?

 まあ、例え嘘でも今のこの状況を打開できるのなら――アウティングするだけ。

「僕が鳩を飼ってるのも秘密にしてくれない?」

「え……」

「僕もさ、ほら、ミステリアス男子を目指している身だから。鳩を飼ってるなんて知れたら、笑われちゃうよ」

 お願いとわざとらしく手を合わせる。別に知られてもいいのだけれど、実際に見た事の方が信用できるだろう。自分の目で見た物は信用できるかもしれないが――所詮内側は見えない。

 内側は見えなくても、表面が見えれば信用できると言うならば存分に見せてあげようではないか。

「だから僕こそお願いします!」

僕は追い打ちをかけるべく、深々と頭を下げる。

「ええ、いいでしょう。あなたの秘密――しかと胸に秘めてあげるわ」

「本当ですか!」

 僕は勢いよく頭を上げた。

 ここまですれば信用してくれるだろう。

 僕が望んでこうなるよう話の流れを作りはしたんだけど、でも、蛙声さん。簡単過ぎやしませんかね?

「ただし、秘密を共有した者同士――これからもこうしてお会いしましょうよ」

「……」

 僕の予想を上回る提案、信用してくれてはいるみたいだけど……面倒だ。

 大体、何故そんな偉そうなんだ?

 同じ条件での秘密の共有を目指したんだけどな。 

『あら、いいじゃないの』

一段落したのを見計らってメロが僕の頭に着地した。

 




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