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03

ねえ、本当にこんな場所にいるの?」

『私の第六感シックスセンスがそう言ってるわ、間違いない』

「なんだよ、第六感って。それって要するにカンみたいなもんだろ?」

『何を馬鹿な。私をそこらにいる鳩と一緒にしないで欲しいな』

 それは当然分かっている。会話をしている時点で、十分に普通の鳩ではない。だけど、それを根拠にメロの言い分を受け入れらる訳には行かない。僕はこれまでの18年間、第六感とか信じて生きていない。

 そうは思ったが、メロがそこまで言うなのだ、ここは信じてみてもいいかも知れない。

 しかし、信じるとなれば、それなりの根拠を見せて貰わなければならない。

『根拠?』

「ああ。僕の信条は【人を信じる意味はない】だからね」

『それじゃ、誰が何を言っても意味ないじゃないの』

「そう。だがしかし、この信条には続きがあるんだ。【意味はないから見返り求めろ】。これが僕の信条です」

『最低!』

 僕の住む町のおおよその面積は34k㎡。

 人口約19000人。

 三つの町が合併してできた市。その一番上に位置するのが記忘町だ。

 それほど大きくはないこの町ではあるが、特徴としては東西が山に囲まれている事だ。

 そんな山の中の一つ。

 比較的――と言うよりは、小学生でも簡単に登れる小さな山。

 そんな遠足向けの山を僕とメロは登っていた。

 雨の中の山登り――舗装はされてはいたが、上り坂は普通にきつい。

「冗談だ」

『なんだ、冗談だったの。そうよね、憶がそんな信条を掲げるなんてあり得ないわよね』

「いや、僕に対する評価高くない!?」

 今、僕とメロが登っている山――海抜60メートル程度の山だ。この山頂付近には公園が作られていて、幼稚園児の遠足などに利用されていた。何故こんな山の中に公園が作られたかは謎だけど。

 子供が帰る時間を1時間程度過ぎているからか、流石に、もう空が暗くなり始めている。

メロがいるとはいえ、薄暗い山は不気味だ。

『なんかやけに憶、口数多くない?』

「そうかな? 僕は常日頃からおしゃべりだよ。学校では無駄なエネルギーを使わない為に喋っていないだけだ」

 省エネは大事だからね。こうした小さな気遣いが世界を変えていくんだ。だから、学校には授業の為に通ってるのであって、友人とおしゃべりするためでは無い。その目的をはき違える、愚かな同級生たちと一緒にしないでほしい。

『じゃあ、今も山登りに集中してればいいんじゃない』

「そうは言っても今日は休日。休みの日だからと、エネルギーを使わな過ぎるのも体に毒だ。じゃあどうするか。メロのつまらないお話に付き合ってやるかと、相手してあげてるんだよ」

『あっそう。それはありがたいわね……でも、私は別に――飛んで先に様子を見に行ってもいいんだけど?』

「……っ」

 それはまずい。

 こんな街灯も建てられていない、今はもう雨は止んだが、ぬかるんだ地面には泥だらけ。泥を踏む感覚が、足元から僕をすくませる。

 こんな中に一人では居たくない。

『やっぱ、怖いんじゃないの?』

 メロがピョンピョンと飛び跳ねて笑う。脚力だけでジャンプしているあたりが、完全に僕を馬鹿にしていた。

「ああ、怖いよ! 小さい頃ね、冒険……とはまた違うんだけど、とにかく、山で迷ってしまってね、それ以降木々に囲まれた暗い場所がどうも苦手なんだよ!」

 光が入れば多少は平気なのだが、少しでも薄暗いとアウトだ。

『本当に苦手なのね……意地悪してごめんなさいね』

「別にいいよ、気にしないで」

『そう言ってくれれば、別に今日でなくても良かったじゃない』

「でも……早くしないと【物語の記憶】が暴走して、その人の人格がなくなってしまうかもしれない」

 僕はそれだけは絶対に嫌だ。

 人を助けられるだけの力――メロがいるんだ。僕は精一杯頑張りたい。

「それにさ、メロだって早く【物語の記憶】集めないと」

『それはそうだけどさ』

「だったら余計頑張んなきゃ」

『ぽっ』

 また鳩の鳴きまねなんてして。

 そんなこと、しなくてもいいのに。

でも、心なしかメロの頬が赤い。メロもなんだかんだで暗いのが怖いのかな。

「それで、どう【記憶憑】の気配は?」

『うん、もう少しね。位置的には、公園のある当たりかしら』

「了解。それじゃあ、もう少しだね」

 メロはそう言って服の内側に隠れた。

 公園にいるとなると子供なのかな? でも、もう暗いし雨だったし、その可能性は低いような気もする。

 それか、あれかね。子供は五時に家に帰ると思ってる僕は古いのかな。子供用のスマホとか普及しているみたいだから、案外自由なのかも知れないな。

 そんな事を考えながら山を登る。

 目的の公園に近づくにつれて――可愛らしい女の人の声が聞こえてきた。女の人と言うよりはこれは女の子の声かな?

 舌っ足らずな感じがする。

 こんな夜遅くに子供一人で危ないよね。

「お……ん。ねえ、……、よ」

 そんな声の方へ向かっていくと公園の隅に一人の女性が居た。公園の中心に立てられた電灯一本だけではあたりはまだ暗い。

 錆びたブランコ。

絶対に滑らないであろう滑り台。

バランスの取れていないシーソー。

三つだけの遊具が置かれた公園。

女性が一人でいるには相応しくない。

もしも変な人がいたらどうするつもりなのだ。

 と、思ったが子供のお守りかな?

 良かった、女の子一人だったらどうしようかと思ったよ。

「……あのー」

 長く綺麗な黒髪の女性。

後姿ではその髪の毛に隠れてしまって服装も表情も見ることはできない。 

 僕は取りあえず、恐る恐る声をかけてみた。ビクリと肩を震わせた女性は、ホラー映画の様にゆっくりと振り向き、

「きゃあああぁああ!」

 悲鳴を上げられた……。


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