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02

『美味しい~』

 メロが小さな嘴で美味しそうにバナナケーキを食べていた。バナナケーキはシフォンケーキにバナナを混ぜて焼き上げた口どけの軽い触感。バナナの風味を生かすために、甘さを控えたクリームが絶妙にマッチしていた。

 顔中をクリームまみれにしながらがっついているメロは幸せそうだ。

 初めて会った時を思えばまさかこんな風に生活を一緒にできるとは……。だがそれは何も起きていないからだ。

 もしも、またあの時の様な事件が起きれば――二か月前の様な悲劇が起きればどうなるのか。

 【記憶憑きおくつき】。

 それが――僕たちが探すべき相手だ。

『なーに憶。プリンタルト食べないなら私に頂戴!】

 考え事をしていた為に、箸が進んでいなかったのだが、その隙を付いて、

「あ、ちょっと。ケーキの最初の一口は誰にも渡さないってポリシーが……」

 目をキラりと鷹のように光らせたメロが――さながら銃弾の様にプリンタルトへと放たれた。

 その弾丸を阻止しようと手を伸ばしたが、僕の腕はメロを掴むことなく空を掴んだだけだった。

『いただきます!』

「あぁ……」

 絶望だ。

この世界には悪しかないのか。

 柔らかく、それでいて濃厚な【S・Rock】のプリンタルトは滑る様にしてメロの口へと吸い込まれていく。

 カカカカカッ。

 それはマシンガンの様に、首を動かしケーキを食べていく。鳩と言うよりキツツキだ。

 その小柄な鳩の体。そのどこにそんな食欲が隠されているのだろう。

『ほら、早く食べないと無くなっちゃうぞっ!』

「無くなるって分かってるなら、メロが食べるのを辞めればいいだけの話でしょ」

『はっ……。それもそうね』

「と、言いながらも何故食べるのを辞めないっ?」

「それは、このプリンタルトが悪いんです。こんなに美味しいから。だから私はこのプリンタルトが憎い。私はこの憎しみを晴らす為に食べているのです』

「いや、悪いのは明らかにメロだと思うよ!?」

 僕はメロの首を掴んでバナナケーキへと戻す。

全く。

欲しいならしっかり言えば後で分けたのに――なんでがっつくかな。

『うーん、お腹いっぱいね』

「それは良かった」

『やっぱり【S・Rock】のケーキが一番よね】

「それは否定しないよ」

 僕は食べ終えた皿を片付ける。

 日曜日だと言うのに家には誰もいない。僕の家族は六人家族。

 両親。兄、姉、僕、妹。

 両親は仕事一筋なので休みなく働き、兄もそれを見習い休日は自発的に色々な後援会へと足を運ぶ。

姉は毎日大学で遊びほうけていたから、きっと今日も遊んでいるのだろう。双子とは思えない性格の差――と、言いたいが、二人とも怒ると怖い共通点がある。

 妹はまだ中学生。

 今日は試合があるとかなんとか言っていたな。三年生になって初めての公式試合と緊張していた。無事に終わっていれば良いが。

 だけど、やっぱ、一軒家に一人だと静かでいいよね。

「さてと」

 僕は紅茶を入れて一人リビングのソファに腰を下ろす。

「【物語の記憶】か……」

 【物語の記憶】とは地球上の伝説・逸話・物語などの作り上げられたモノ――つまりは人の頭で考え、描かれたモノを指す……らしい。

 メロは今でこそ白い鳩の姿をしているが本当は宇宙人だか異世界人。

メロの力であれば、人の姿にもなれる様なのだが――この町、記忘町へ訪れた際に力を失ってしまった。

それが原因で鳩になってしまい――それ以降僕と共に行動をしている。

 『私が集めた【物語の記憶】が飛び散ってから三か月。そろそろ動き始めるころだと思うわね』

【物語の記憶】。

 人によって作られた話ならば、別にそれならば問題は無いと僕も思っていたのだが違うらしい。

 【物語の記憶】は今の状態だと――人に影響を与えてしまうほどに強いらしいのだ。人格とは記憶である。

 それ故にこの町に放出されてしまったメロが集めた【物語の記憶】。

 【物語の記憶】に影響されてしまった者を【記憶憑きおくつき】と呼んだ。

「はあ、またあんな怖い思いしなきゃダメなのか……」 

『ノンノン。彼らは――組織はまた違った存在だから大丈夫』

「何が大丈夫なんだよ。それって手間が二倍になるって事でしょ」

『まあ、のんびり行きましょうよ』

「それは分かってるけどさ、やっぱりこうして一人でいると考えてはしまうよね」

 卯月にはああ言ったが――実際は割と不安だったりする。何で僕が選ばれたんだろう。メロは偶然と言っていたが。

 しかし一度引き受けたのだから最後までやり遂げよう。

 再びそう決心した時――メロが何かを感じ取ったようだ。

『【記憶】が目覚めた……』


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