事の発端
魔王と姫が出逢うに至る話です。
残酷な表現が含まれますので、そういったものが苦手な方は、※印以降をスルーして続きをお待ちください。
大陸には、一つの大帝国があった。
その名をソルヴィエール。
太陽の名を冠する帝国は、侵略帝と謳われたソルス十六世の手腕により、大陸一の国土を有する大帝国へとなった。
だが、絶大なカリスマ性と武勇、知勇をほこる侵略帝の没後、百年と経たず、その権勢は翳りを見せた。
そして、その堕ちた権威を復権せんと無謀にも魔王領へと手を伸ばしたのが間違いだった。
時の侵略帝ですら手を出すことを躊躇ったと言われる魔王領への侵攻は魔王ただ一人によって捩じ伏せられた。
※ ※ ※ ※
「そこの無礼者共は、サッサと国へ帰りやがれ」
結界に多数の感知がひっかかり、もしやと思い国境へと向かってみれば、馬鹿な軍隊が越境していた。
今ならば不問にしてやる。
言外にそう言い含めたにも関わらず、相手が一人と見るや話す余地など無いと言わんばかりに馬上から剣を掲げた。
「薄汚い魔族が、国を持つなど我等が王は御許しになった事はないっ!魔王等と呼ばれて王族にでも名を連ねたかのような傲慢な振る舞いは正されねばならん!即刻、道を空けよ!」
「ククク……、貴様等は、魔王を討つつもりなのか」
笑える。
嘲笑える。
「魔王位が、人界の習わしに準ずる血筋による世襲だとでも?……勘違いも甚だしいな」
「何をぶつくさと、邪魔立てするつもりならば容赦せぬぞ!」
「嘲笑わせてくれるっ!」
ゴゥ
と、風が吹き荒れ黒衣をはためかせる。
「き、貴様……」
「討つべき相手の顔も知らんとは、御粗末に過ぎるな」
「!……まさか……っ!?」
紅の髪は足元から生まれた風に流され、その顏を露にした。
褐色の肌に、特異な金色の瞳。
整ったシャープな面差しに同様の切れ長の瞳を不快げに、かつ獰猛に歪めて、嘲笑った。
そして、先程から五月蝿く囀ずる男に指を向けると二度、縦に揺らした。
「もう一度聞かせて貰おうか、誰が、誰を討つって?」
「っぐ、ぁぁぁぁぁあああっ!!!」
ガシャリと、二回音がして甲冑の腕部分がスッパリと斬れ落ちると、男の肩口から勢いよく血が吹き出し、急激な失血と激痛によって白目を剥いて馬上から転げ落ちた。
「な、なにが……!?」
何が起きたのか、理解出来ない。
だが、理解出来なくとも、唯一人立つ目前の黒衣の男がかの魔王だと、それが判れば、それを討てばよい。
何せ、先遣隊とはいえ、百からの兵がいるのだから、押し潰せば勝利だ。
ゆえに
「相手は魔王といえど唯一人!首級をあげろ!」
「「「ぉぉぉおおおっっ!」」」
魔王の所業が見えていた者は顔をひきつらせつつ、よく見えなかった者は、ただ武勲が転がり込んできたと声を上げて魔王に突撃した。
誰かが殺られてる間に剣を突き立てれば、褒美は思いのままだと。
「バカが、力の差も分からんとはな」
阿鼻叫喚の宴が始まった。
魔王が腕を振るう度に血風が巻き起こり、誰とも知れぬ四肢が首が冗談の様に斬れ落ち、身体が縦横無尽に切り裂かれた。
剣戟の音など無く、ただ甲冑毎身体を切り分けられては地面に落ちる音と、湿った音、苦悶の声が辺りに響き、それもほどなく静かになった。
「魔力も扱えない人族が、真っ向勝負で勝てるわけねぇだろうに……」
やれやれと溜め息をこぼして血でぬかるむ地面をまるで気にするそぶりもなく歩く。
しばらくグチャグチャと不愉快な足音をさせつつ歩き、“丁度一人だけ活かしておいた”人族の前にしゃがみこむと、へたりこんだその兵の頬を軽く張ってやった。
「…………ぁ……」
「よう、話を聞かせろよ」
「ひぁ……た、た、たしゅけ……」
「あーあー、助けてやるから、こっちの聞きたい事を言え」
ガクガクと身を震わせて失禁しつつも、ブンブンと首を縦に振って肯定する兵によしと頷く。
「とその前に……とりあえず、ここはちょっと換気しとかねぇと餓鬼共が邪魔になるな」
パチンと指を鳴らして辺りを焼き払い、風を使って灰を吹き散らす。
その出来映えに満足するとさて話をしようか。
と怯える兵に向き合った。
「ま、こんなもんか。んじゃ、まずは……」
「………………」
兵は白目を剥いて気絶していた。