第八話
しばらく行き詰まってしまって、更新が遅れました。
申し訳ありません。
8月に入り、夏休み開始から2週間が経った。
夏も本番で暑さもたけなわ、常に屋内に居るがいい加減うんざりしてきた。
店の方は俺なんかおかまい無し、相変わらずの大盛況だ。
「花火…ですか?」
「うん、明日やるの、神社で屋台も出るから一緒に行こ〜」
「おいおい、店があるだろうが」
「恭介に言ってないよ〜、有紗さんに言ってるんだよ〜」
くっ…
大盛況で、今も夕方の混雑時だが、俺と品川さんは結構余裕だ。
こうして夕飯を食べに来た由としゃべりながら配膳をこなしている。
品川さんがアルバイトに入って2週間、慣れてきた彼女は俺顔負けの手際の良さである。
「でも、私はお店があるので…」
「お店は恭介にやらせておけば大丈夫だよ〜」
ちなみに由と品川さんだが、いつのまにか仲良くなっている。
最初はツンツンしてた由も、悪意が有るわけじゃない品川さんにお姉ちゃん状態でなつきだした訳だ。
「いろいろ突っ込みたいところだが、行ってきなよ品川さん」
独断で勝手に言ってしまったが、俺が残れば問題あるまい。
「そんな…私だけ行くなんてできません」
「俺はいいよ、去年も行けなかったし」
「恭介は中一くらいからずっと行ってないよね」
「別に柄じゃないし、見ようと思えば店からでも見えるしな」
「と、とにかく、私も行きません、恭介さんお願いします!」
必死に懇願されてしまう。
「わ、わかったよ…」
「残念だな〜」
「ごめんなさい…桂さん…」
品川さんが働きだして2週間。
最近になって気付いたが、彼女はやたらと店に居たがる。
お客が少なくて早上がりしていいよって言っても、『お給料要りませんから最後まで働かせて下さい』とか…
土日は忙しくないから休んでも大丈夫だよって言えば『お給料要りませんから土日も働かせて下さい』とかだ。
…………
普通じゃなくね?
まぁ俺は品川さんと一緒に居れるからいいんだけどさ…
そして次の日
「お客さん来ないねぇ…今日はもう閉めちゃおうかねぇ」
ガランとした店内で、お袋がぼそりと呟く。
「いいのか?まだ7時半くらいだぞ」
7時代に店を閉めるなんて初めてだ、どんなに早くても8時までは開けていたのに…
「構わないよ、どうせ常連のみんなも花火に行ってるんだろうさ」
あのいかつい漢どもが花火?
「丁度いいから、あんた達も花火見に行って来な?まだ間に合うだろ?」
「はあ?」
聞き間違いか?
お袋が妙な事を言っている。
確かに花火大会は9時までだからまだ十分間に合う。
現に今も遠くからの轟音が響いてきている。
「片付けはいいから品川さんと二人で行ってくるといいよ」
バッと品川さんの方を向く。
「えっ?」
店の入口付近で待機していた彼女は軽く驚いている。
「行く?」
「えっ、花火ですか?」
「俺と花火見に行く?」
「えっ、あっ……………はい……」
ぃよっし!!
嬉しい!
別に花火はどうでもいいが、彼女と行けるってだけで嬉しかった。
「あの…私、ここから見たいです……」
「えっ?」
「えーと…片付けは私達でやりますので、おば様達で行ってくるというのは……如何でしょうか?」
えっ?
何を言ってるんだ…
「な、何言ってんだい!それじゃせっかく…」
??
とっさに口をつぐむお袋。
「まあいいじゃないか…母さん、彼女のお言葉に甘える事にしよう」
厨房から親父が出てきた。
「しかしだね、あんた」
「いいから…」
ぐいぐいとお袋の手を掴んで出て行く親父。
「恭介、ちょっと来い」
「えっ?あ、ああ」
ぼお〜っと展開を見守っていた俺を店外に呼ぶ。
品川さんは不安そうにおたおたしていた。
「気を使ったつもりが逆に使われてしまったな」
ため息混じりに言う親父。
「どういう事?」
「昨日、由ちゃんと花火の事を話していただろう?だから母さんが昨日の内に常連達に根回ししたんだよ」
「あ…なるほど…」
7時代に常連が居ないなんておかしいと思った…
品川さんに気を使わせずに花火に行かせる為か…にしても、常連に店に来るなって言ったって事か?
「まあ、どういう訳か彼女はこの店を、いたく気に入ってくれてるみたいだ…彼女の言う通りにしてあげよう」
「…同感…わかったよ、じゃあ店は任せて行って来なよ」
「ああ、久しぶりに夫婦でぶらついて来るさ、行くか?母さん」
「あ、待っとくれよ」
おお…親父……渋いぞ。
お袋が何も言えなくなってる。
「ついでに言うと、恭介、お前もなんだけどな…」
「俺?俺もって何が?」
「さっきの話だが…まあいい……自分で考えろ…」
??
さっきの話?
首を傾げる俺を残して、親父達は行ってしまった。
…………
考えてみたら、俺達が行かないのはいいとして、どうして親父達が店を出て行く必要があったんだ?
店内に戻ると品川さんが出た時と同じ様子で待っていた。
「親父達は行ったよ」
「あ、はい…すいませんでした…」
「どうして謝るの?」
「いえ、恭介さん…花火…行けなくなってしまいました…」
「いいよ、そんなの。ここからも見えるし、柄じゃないって言ったろ?」
それに品川さんと見れれば、どこでもいいよ…
なんて言えない…
「……はい…ありがとうございます…」
嬉しそうに微笑む顔を隠す様にうつ向く。
俺も同じ様な顔になってしまっていたので、丁度よかった。
ドーンドーン
響いてくる轟音を聴きながら、窓際の席で花火を眺める彼女。
昼間の暑さが嘘の様に涼しい、優しい風が彼女の髪を揺らす。
会話は無い。
花火の轟音と遠くに聞こえる喧騒だけ。
俺は花火なんてちっとも見ていない。
ずっと彼女の横顔を眺めている。
窓から見える景色は知っている、花火は建物の隙間から僅かに見えるだけだろう。
でも彼女は魅入られた様に視線を止めたまま動かない…口も開かない。
少し心配になるくらいだ。
「…綺麗…です…」
「えっ?あ、ああ…そうだね…」
ようやく口を開いた彼女…視線は外に向かったまま。
「でも……儚い…ですね…」
「…………」
何も言えなかった。
彼女の横顔が…
綺麗で……
儚かったから………