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第七話

朝8時。由と義人と一緒に朝食を食べている。

夏休みの為、学校のある日より遅めだ。


「恭介、恭介ってば!」


「えっ?」


「訊いてるの〜?さっきからぼ〜っとしてるけどさ〜」


「ごめん…訊いてなかった」


昨日の品川さんの事が頭から離れない。

惚けていたら由に怒られてしまった。


「旅行の事だよ〜、宿が取れないんだよ〜」


「今年はちょっと出遅れちゃったからね…」


そう言って二人は、うなだれてしまう。

お盆の旅行の話だったらしい。


「…………」


二人には悪いがその事よりも、俺の頭の中は品川さんの事でいっぱいだった。


俺と品川さんは出会ってまだ一週間も経ってない。

彼女の昨日の行動は何だったんだろう…


清楚の見本の様な品川さん…

俺なんかとは違う、懸け離れたハイソな生活を送って来たに違いない。


彼女の行動は理解為かねる。


でも…



「ごちそうさま恭介、じゃあ僕達は行ってくるよ」


「――えっ?どこに?」


「本当に今日はどうしたんだよ?私は補習、よっしーは部活だよ」


「あ、あぁ…そうだった、行ってらっしゃい」


そういえば二人とも制服を着ている。

首を傾げたまま出かけて行く二人を見送ると、また思慮に耽る。


品川さん、品川さん…


……………



「おはようございます」


声の方を向くと、品川さんが居る。


「ああ、おはよう……って、えっ?あれっ……今日は早くない?」


彼女の事ばかり考えていたからか、微妙にテンパる俺。


「いえ、いつも通りの時間ですよ」


時計を見ると11時になっている。

どうやら義人達が出かけてから、時間を忘れて惚けていたらしい。


「…もう大丈夫なの?」


昨日の今日なので、彼女の具合を訊いてみる。


「はい、昨日は申し訳ありませんでした。それと…ありがとうございました」


頭を下げてくれる、流れた髪から漂う彼女の甘い匂いに昨日の事を思い出してしまう…


急速に顔が熱りだす、彼女をまともに見れない…


「…うん、よくなって……良かった…」


駄目だ…完全に意識してしまっている。

俺ってこんなに単純だったのか…




開店してからも、俺の目は彼女を追い掛けてばかりだった。

彼女の声やちょっとした仕草に嬉しくなってしまっている。


それだけ見ていれば、目が合ってしまう事もある…というか頻繁に目が合う気がする。

視線が交差する度に笑いかけてくれる品川さん…

そんな笑顔を見せられたら、俺の顔は当然緩む。


「へへへ…」


ぶん

ガンッ


「んがっ!」


中華鍋が飛んできた!痛い!


「いやらしい顔してさぼってんじゃないよ!変態息子!」


くあぁ…お袋…超満員の店内で息子を貶めんでくれ…

鍋を食らった背中をさすりながら、品川さんを見てしまう。



目を細めて優しく笑ってくれていた。



嬉しかった。







「今日はもう終わりにしようかねぇ」


夜8時過ぎ。めずらしく店内にお客の姿は無い、こういう時は早めに店を閉めてしまう。


「品川さん、時間も丁度いいし上がっていいよ。ご飯は食べて行くかい?」


「いえ、夕方の混雑前に頂いたので大丈夫です。」


いつも品川さんには8時頃まで働いてもらっている。

8時を回るとお客も捌けてくるので、俺ひとりで大丈夫だからだ。


「片付けは俺達でやるから、そのまま上がってよ、品川さん」


「いえ、お手伝いします……それで…恭介さん…」


もじもじと口ごもる品川さん。


「?…どうしたの?」


「また…送って頂いても…よろしいでしょうか?……やっぱり一人だと怖くて…」


「えっ…うん、いいけど…」



嬉しい…

彼女を送ってあげたい…

頼られるのが嬉しい…


こんな気持ちは初めてだ。



ポンと肩を叩かれる。

振り向くと親父が親指を立てていた。


「片付けは任せろ、行ってこい息子よ」


ナイスガイな笑顔だった。





前の日と同じ様に並んで歩いている。

もちろん昨日みたいに腕を組まれている訳じゃなく、ちゃんと離れて歩いている。


「…………」


「…………」


そして今日も無言。

どうにか話題を探しているが、浮かんでくるのは下らない事ばかりで話すに話せない。


「今日もここで大丈夫です。ありがとうございました」


結局、無言のまま昨日別れた所まで来てしまった。


「あ、ああ、お疲れ様…」


「はい、お疲れ様です」


歩きだす彼女を今日も見送る。


離れて行く彼女を見て考える。


いつか義人に対して俺自身が言った言葉。


『出会いは突然、そして必然』


馬鹿な事を言ったと思う…

ありがちなクサイ台詞をいい加減に言っただけだったけど…


今は、いい言葉だと思った。










次の日も、その次の日も俺の目は彼女を追い掛けていた。


彼女が居ない時も彼女の事ばかり考えていた。



俺の中で彼女がいっぱいになるまで、そう時間は掛らなかった。

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