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第六話

「日替わり定と唐揚げ定よろしく〜」


「はいよ〜」


「こちらも日替わり定食です、よろしくお願いします」


「はいよ〜」


せわしなく店内を動き回る俺と品川さん。

厨房のお袋達も忙しそうに動き回っている。

定休日明けの木曜日、今日も藤村食堂は大混雑だ。


昨日の事を品川さんに訪ねたら、わからない、知らないとはぐらかされてしまった。


やはり見間違えだったのだろうか…


「あっ…」


品川さんの事を考えていたら、品川さんを見てしまっていた。

こっちを見た彼女と目が合う。

で、なんとなく目を逸らす俺。


「恭ちゃーん、注文いいかい?」


「あ、はーい」


とにかく今は混雑時だ、仕事仕事っと。





午後1時を回ると客脚も緩やかになってきた。

手持ち無沙汰になってしまった俺は、常連の武藤さんと高校野球を眺めている。


「久しぶりに来たらバイトの女の子が入ってるとはね〜」


武藤さんは工場や港の仕事ではなく、道路工事などをしている建設会社の人だ。

だから仕事の空いた時、たまにしか食べに来れないらしい。


「お水をどうぞ」


品川さんがお水のおかわりを持ってきた。


「あれっ?ええっ?有紗お嬢さん!?」


「えっ?」


は?知り合い?


「武藤さん…」


品川さんも意外そうな顔で驚いている。


「知り合いだったんスか?」


「ああ、社長の娘さんだよ、ずいぶん久しぶりだけどね」


「はい、お久しぶり…です…」


社長の娘…やっぱりお嬢様だよ。

そういえば品川建設って聞いた事あるし。


「しかし驚いたよ、有紗お嬢さんがアルバイトかい?」


「は、はい…えーと…」


何だ?


何やら挙動不審な品川さん。


「どうしたの?品川さん」


「いえ…あの……ごめんなさい……食器、洗ってきます…失礼…します…」


「あっ…行っちゃった…」


そそくさと厨房の奥に消えてしまった品川さん。

残された俺と武藤さんは困った顔を見合わせてしまう。


どうしたんだろうか…





その後の品川さんはおかしかった。


元気が無くて夕方からの混雑時には、みんなに心配されていた。


「有紗ちゃん、どうしたの?」


「恭ちゃんに何かされた?」


「いえ…そんな…大丈夫です」


苦笑いで答える品川さん。

口々に品川さんを気遣う常連達…


「っていうか俺は何もしてねぇし!品川さんもちゃんと否定してよぉ」


「あ、あ、ごめんなさい…」


ずーんと暗くなる品川さん、昼までは普通だったのに…


「品川さん、本当に大丈夫?具合が悪いなら上がっちゃっても大丈夫だよ?」


「いえ!そんな!大丈夫です!」


何やら必死に強がる品川さん、俺には無理をしてるようにしか見えない。


「恭介の言う通りだよ、今日は上がっちゃいな」


お袋だ。

いつのまにか、お袋が隣に居た。


「だ、大丈夫です、おば様」


「いいから今日は帰りな、恭介、送ってあげな」


ぴたっと品川さんの動きが止まった、すがるような目を俺に向けてくる。

やはり調子が良くないのだろう…


「いいけど、俺が抜けちゃっても大丈夫か?」


俺が抜けると、配膳をやる人が居なくなる。今も店は超満員だから二人じゃ大変なのは明白だ。


「構わないよ、今からセルフサービスにしちゃうからね。どうせ品川さんが居ないとわかれば、みんな長居はしないさ」


そんなんでいいのか?

でも、品川さんを一人で帰すのは不安だ。


「わかった、品川さんもいいよね?」


「は、はい…よろしくお願いします…」


申し訳なさそうに恐縮する品川さん、







俺達の住んでる久住ヶ丘は、駅を挟んで古い住宅地と高級住宅街に分かれている。


藤村食堂は古い住宅地側。

品川さんの家は、やはりというか駅の反対側らしい。


「…………」


「…………」


これといった会話も無く、二人とも無言で歩いている。


うぅ…何だか緊張してきた。

由で慣れていると思っていたが、さっきからどうしても意識してしまう。


田舎道の為、街灯が少ない。

その少ない街灯の下を通る時に彼女を見てみた。


―――目が合う。


「…な、なに?」


アホな事に思わず視線の理由を訊いてしまう。


「あ、あの……寄りかかっても…いいですか?」


「えっ?……………ええぇぇー!!」


俺に?

俺にって事?

俺に寄りかかるって事?


「あっ、いや…その、やっぱり調子悪いみたいです…ですので……」


「う、うん、いいよ…どうぞ」


近付いて彼女に肩を寄せる。


俺の左腕を抱き締める様に取る彼女。


――えっ?

なんか違くない?


「なっ…ししし品川さん?」


「…………」


俺の腕に体を埋めたまま、黙り込む彼女。


結局、そのまま二人無言で歩きだす。


心臓が早鐘を打つ、彼女に聞こえているに違いない。


なんなんだ!

なんなんだこの状況は!


っていうか、当たってる!


胸当たってるよ!


由とは違う女の子の感触と匂いに、俺の頭の沸点はとっくに振り切っている。


落ち着け…

落ち着け、恭介。

品川さんは具合が悪いんだ。


妙な下心は品川さんに失礼だ!


ごくっと唾を飲み込む。


頭でわかっていても、どうしても左腕に全意識を集中させてしまう。


しばらく歩いて、何度目かの唾を飲み込んだ時。


「ここで……大丈夫…です…」


すっと俺の腕から離れる品川さん。


「えっ、…近いの?」


「はい、ありがとうございました」


「大丈夫?」


「はい、もうすぐそこですので…では…また明日に……」


街灯も無くて、彼女の表情は分からない。

でも喋り方の感じからして、しっかりしてる様に思える。

もう大丈夫だろうか…


俺に頭を下げて、行ってしまった彼女の後ろ姿を視線で追う。


左腕に残っていた彼女の熱が冷めていく。


「…………」


冷静になって考えるとおかしい…


異性に対しての免疫が由くらいの俺でも分かる。

からかられたのか、誘惑されたのか分からないけど…



さっきのはわざとだ…



既に見えなくなった彼女の後ろ姿を見つめたまま、そう思った。



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