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最終話



あれから一ヶ月が経ちました。



まだまだ暖かいですが、夏の余韻はもう薄らいでしまいました。



私にとって長い…



とても長い夏が終わりました……



暑くて……



楽しくて……



悲しくて……



優しかった夏が終わり……



季節は秋へと移り替わろうとしています………









私の心の傷もようやく癒えてきたのが実感出来てきた秋口……


秋晴れに恵まれた優しい陽気は私の心を弾ませてくれます。



「おはようございます、アルベルトさん」


「おお、これはお嬢様…おはようございます、本日もお美しゅうございます……ふむ…はて…?」


何時もの様にとっても紳士的な態度で朝のご挨拶をしてくれるアルベルトさん…

私のしている格好を見て首を傾げています。


「お嬢様…お仕事に行かれるにはまだまだお早いですが如何なされましたか?」


アルベルトさんの言葉の理由は私がエプロンを着て髪を結っているからです。


「お店に行くにはまだ早いのですが…えーと…暇なので…お掃除のお手伝いをしようかなと思いまして」


引き込もっている時にはこの様な事は考え付かなかったのですが、今の私には自然な欲求でした。


私の為に優しくしてくれる人に応えたい…


私を包んでくれる優しさを私も返したい……



「ううむ…お嬢様にその様な事をさせる訳にはいきません………と…言いたいところですが…ふむ…お願いしましょうかな?」


あくまで紳士的に優しく、そして少しだけいたずらっぽく微笑みながら了承してくれるアルベルトさん…


とても嬉しく思いました。


この人は本当に私を安心させるのが上手です。


今までの私はアルベルトさんを少し苦手としていました…

お母様の幼少時から品川に仕え…お母様に一番身近な品川の使用人だったからです。


思えば何時でも私の為に優しく見守ってくれていた人でした…





……………


「有紗様…そろそろお出掛けするお時間です」


お掃除をしている私に大好きな声が掛りました。


「レオナさん、解りました、ここのお掃除だけ終わらせてしまいますね」


「はい、ご一緒したいのでお手伝い致します」


優しく微笑みながら私のお掃除を手伝うレオナさん。


レオナさんと居るだけで心がぽかぽかしてしまいます。


優しくて綺麗な私のお姉さん…


敬う様な丁寧な言葉遣いは変わりませんが、それは私も同じ…

それに言葉遣いなんて関係ありません…

私とレオナさんはお互いに顔を合わせるだけで優しくなれる関係なのですから……







……………


レオナさんと二人で藤村食堂に向かいます。


もちろん出勤する為です。

あの日の後、心を取り戻した私…

精神科のお医者様の診察は今も続けていますが、もう必要無いと仰って下さる位まで回復しています。

心臓の病気もお薬を飲んでいれば、発病する心配は無いそうです。

学校に戻る事も薦められましたが、復学は春から…という私の我が儘を通してしまいました。


我が儘のついでに食堂のアルバイトに復帰する事をお父様に了承して頂きました。



「有紗、レオナさんも、藤村食堂に出勤かな?」


お父様です。


「はい、お父様もご出勤ですか?」


正直言ってしまうと余り似合っていないスーツ姿のお父様…

あの日以来、お父様は屋敷によく帰って来て下さる様になってくれました。


「うむ、都市計画の会議…視察…まあいろいろだ…」


新都市化計画、あの日の後もお父様は毎日をその計画のお仕事に費やしています。


お母様の遺された優しさ……

お父様はその優しさを完成させたいと仰っていました。


でも、私だけの為ではありません、道路、病院、学校等この町の為に……お母さんの為に……お母様の願いを叶えたいと仰っていました……


私はそんな優しいお父様が大好きです。


「頑張ってくださいね、お父様」


精一杯の笑顔を車に乗り込むお父様に贈ります。


「…う、うむ…有紗も頑張ってきなさい…レオナさんも有紗と頑張ってくるのだぞ」


真っ赤になって答えて下さるお父様、ちょっとかわいいです。







……………


「お嬢!レオナ殿」


屋敷の敷地内で声を掛けられました。


近衞警備の柳沢さんです。


「あ、あ、あの…こ、こ、これを届けて頂きたく…!」


カクカクした動きで小さな封筒を渡してくる柳沢さん。


「……これは?」


「い、い、いや、その、つつつつつ土屋殿におおおおお渡し願いたく…!」


殺気すら感じてしまう雰囲気の柳沢さん。


「義人さんにですか?」


「いかにも!」


殺気じみた雰囲気だけどお顔は真っ赤です。


「レオナ殿でも構いませぬ!」


「弟様ではないと誤解は解けた筈でしたよね?」


事情を知っているらしいレオナさん。


「違うのだ!もちろん解っている!それは、それは………こここ恋……文………し、失礼する……よよよよよろしく頼むであります!」


風の様な早さで駆けて行ってしまう柳沢さん。


???


渡された古風で小さな封筒を見ると『果たし状』と書いてありました。





義人さん……


恭ちゃんの一番のお友達です。


恭ちゃんに負けない位に優しい笑顔の男の子です。


でもその優しさの大半は由さんに向けられている事を私は知っています。


私がそう思ったのに気付いたのか、義人さんは言いました。


『…待つんだ……』


『えっ?』


『今はまだ……見守っていたいんだ……』


独り言の様に呟いた言葉はとても切なくて綺麗な言葉でした……


真っ直ぐな瞳を彼女に向けながら…決意の様にはっきりと言っていました……







……………


「オオ、プリンセスアリサ、ゴリョー、オデカケデスカ?」


外壁警備のマイケルさんです。


「はい、ご苦労様です」


「オオ、オフタリトモベリーキュート!サンキュー!キヲツケテイテラシャイ」


かなりの片言のマイケルさん、外国人の方ですが日本生まれの日本育ちで海外での傭兵経験は二ヶ月らしいです。


「行ってきます」


「ユイニモヨロシクデスヨ」





由さん……


私の一番のお友達です。


この前の日曜日には二人で遊びに行きました。


とにかく元気で一緒に居るだけで楽しくなってしまいます。


本当に素敵な女の子です。


でも、あの日からの恭ちゃんを見る寂しい瞳は私の心を締め付けます……



由さんは言いました。


『有紗さんは優しいね』


『そんな事……無いです……』


『ううん、違うよ、有紗さんは優しいの…だからいっぱい…いっぱい我慢して来ちゃったの…』


『我慢……です…か?』


『うん……でももう大丈夫……恭介なら大丈夫…!いっぱい甘えて……いっぱい安心して?………ね?』


瞳を潤ませながら優しい笑顔を向けてくれた由さん……


この言葉は私を本当の意味で救ってくれた気がしました。


『……由さん……ありがとう……』







……………


レオナさんとお店に続く道を歩いています。


足取りは軽く、自然に顔が綻んでしまいます。


「有紗様、ご機嫌ですね?」


そういうレオナさんもニコニコと嬉しそうに尋ねてきます。


「はい、ご機嫌です」



特に何かある訳ではありません。

でも毎日が優しくて、暖かいんです。

私を包む環境はこんなにも優しかったのです。


人も……

町も……

嫌いだった屋敷も……

煩わしかった品川の名前でさえも……


優しい……


お母様の優しさに包まれています。








……………


「おはようございます」


レオナさんと一緒にお店の扉を開きます。


「有紗ちゃん、レオナちゃん、おはようねぇ」


おば様とおじ様が優しい笑顔で迎えて下さいました。


早速レオナさんと開店準備を始めます。


実は今ではレオナさんもここの従業員の一人です。


すっかり過保護になってしまったお父様の要望で、レオナさんは私の護衛兼同僚として毎日一緒にお仕事をしています。


おば様達は私だけで大丈夫と仰っていましたが、レオナさんに会いたくてお店に来るお客様が後を絶たず、要望に応えると混雑率が上がってしまい、結果採用となりました。

お客様達に言わせると常にメイド服のレオナさんは『めいどもえ』のお客様達には堪らないらしいです。


それにレオナさんの様なマルチプレイヤー(恭ちゃんの様に配膳と厨房両方をこなせる)はお店としても嬉しい存在の様です。

皿洗いくらいしか出来ない私としてはちょっとだけ複雑です。


…レオナさんとお仕事出来るので、嬉しいのが大半ですけどね。







私の夏休みが始まったあの日……



絶望の淵からすがった私にとって最後のクモの糸……



その細く垂れ下がった一縷の望みは私にとても大切な事を気付かせてくれました……



藤村食堂……



恭ちゃん……




私の見ている世界は変わっていない筈なのに、全てが光輝いています………




ありがとう………




私は今、幸せです。








「有紗ちゃん、もう表でお客さん待ってるみたいだからのれん出しちゃって」



「はい!」




夏休みの間は恭ちゃんのお仕事でしたが、最近では私のお仕事です。


今日は平日、開店待ちをして下さるお客様がいらっしゃるなんて今日も忙しくなりそうです。


恭ちゃんは学校…私が頑張らないといけません。


慣れてきた手付きでのれんを出して、お客様をお迎え入れます。

いつもの常連さん達です。




私は心からの笑顔を添えて言います。




「いらっしゃいませ」



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