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第二十七話

「――は、はい、突然に申し訳ありません、はい…はい、実は有紗お嬢様の……いえ、そうでは無くて……」


姿勢を正してぺこぺこ頭を何度も下げながら、電話口の向こうに恐縮しているレオナ……

あ〜イラっちぃ!


「貸してくれ!」


レオナの手から携帯を奪い取る。


「えー…こんにちは」


自分でも驚いている。


俺にしてはかなり大胆な行動をしている。


『……君は…誰ですか?』


有紗の親父の声だ。


何やらおどおどした様な声だ。


「俺は藤村恭介、有紗の……彼氏やってる」


自分で言っておいて、何を言っているのかと突っ込みたくなる。


『有紗の?…………そうか…それで…何用ですか?』


………さして興味も無いと言った様な声色……

少し苛ついた……


「…電話じゃ駄目なんです、俺達の所に来てくれますか?」


『………ずいぶん急ですね…申し訳無いが今は手が離せなくてね…後日にして頂けませんか?』


……面倒をかわす様に受け流そうとする有紗の親父…


「…いや、有紗の為なんだけど、どうしても来て欲しいんすよ、ほら有紗の…」


俺の声は怒りに奮える一歩手前だった。


『申し訳無い…大事な商談中なんだ、後日にして欲しい、どうしてもて言うなら他の者に行かせよう』


ブチッ


「―――いい加減にしろ!有紗のトラウマはアンタなんだよ!てめぇの娘が苦しんでんのに呑気な事言ってんじゃねぇ!!」


『………切らせてもらうよ……』


「なっ!ちょっと待てよ!」


「貸せ」


ひょいっと携帯を引ったくられる。

親父だった。


「あ〜〜品川有紗嬢のお父上様でよろしいか?」


腰に手を当てて、宣言する様に高らかに言う親父。


みんな呆然としてしまった。


「お宅の娘は預かった、返してほしくばお父上一人で来られたし!」


「「「はあ!?」」」


巻くし立てる様に食堂の住所を言ってから、あっさり通話を切る親父。


「ちちちちちちょっとちょっとちょっと親父?さっき何て言いやがった!?」


パニック状態の俺、多分回りのみんなも同じ状態だと思う。


「いや、お宅の娘は預かったって……」


「ち…ちょっと完全に誘拐じゃねえか!」


「そうだな、でも有紗ちゃんのお父さんを呼びたかったんだろ?」


「そ、そうだけど……下手したら警察沙汰じゃないかぁ?」


「……ああでもしないと来てくれなそうだったからなぁ…」


遠い目をしながら明後日に語り掛ける親父。


「…くっ!この親父は…」


「だああああ!うるさいね!何とかなるだろうさ!」


お袋が手を叩きながら、はいはい終りだよぉ!って感じで割り込んでくる。

だからいいのかっつうの!


「と、とにかく……親父…有紗の父親は来てくれそうだったのかよ…?」


警察沙汰はともかくそれも気になった。


「……来るだろうさ…大丈夫だ……」


……………


自分で撒いた種だが感慨しく後悔してしまう。


「……恭ちゃん…」


有紗がよろよろと俺の側に来る。


「…ごめんな…なんか大変な事になっちまった…」


ばつが悪くて彼女の顔が見れない。


「いえ…私は大丈夫です…こうなってしまった事に感謝している位です…」


「えっ?」


意外な発言に驚いて有紗を見やる。


にこやかに笑ってる。


「…お父様をお呼びしたのには……理由があるんですよね?」


「…………」


そうだ…


さっきレオナの携帯から有紗の親父に繋いでもらう前……


誰一人として、俺の意図を探る様な事を言ってこなかった。

驚いてはいたが俺に任せてくれた。


そうだよな………


なるようになっちまったんだ……

俺が後悔してどうする?

有紗の為にやれる事…


直感的に考えついた事だけど、さっき有紗の親父と話して確信出来た。


有紗を追い詰めた理由の一つは有紗の親父だ。


多分だけど有紗は品川になる前の頃の生活をとても大事にしている。


俺、藤村食堂……父親もそうだろう。



「…ああ、とにかく任せてくれ」


「はい」



「じゃあアンタ達、有紗ちゃんのお父さんが来るまで店手伝いな!」


「えっ?」


「さっきからあたしも父ちゃんもお客さんほったらかしだったからね、みんな待ってんだよ!由と義人も手伝いな!」


「えーーー!」


「だああ、うるさいね!学校さぼってる以上容赦しないよ!」


「あぅ…そうだった…」


「しょうがないね、僕達も手伝おうよ」


どうやらみんなで手伝う事が決定してしまったらしい。


「有紗は休んでていいぞ?」


有紗は多少元気になった様だが少しやつれている、無理はさせられない。


「い、いえ、私もお手伝い致します!」


泣きそうな顔で懇願してくる。


………そう言うとは思っていた。


「わかった……でも無理したらダメだよ?」


「はい!」


一転、笑顔を取り戻す有紗…

やっぱ俺甘いなぁ…


「よし、有紗は由と義人使って配膳仕切ってくれ、レオナ、俺と厨房入ってくれるか?」


「えっ?私もお手伝いしてもよろしいのですか?」


きょとんとしていたレオナが目を丸くして驚いている。


「ああ、レオナさえよければ手伝ってもらってもいいか?」


そう言う俺の隣で期待を込めた様な顔をしている有紗…

わかってるって…レオナなら大丈夫だって…


「はい!私でよろしければお使い下さい!」


嬉しそうに言ってくれるレオナ、隣の有紗も目を輝かせて喜んでいる。


「よし、さっきからの開店休業状態で帰ったお客が休憩ずらしてまた来るかもしれない、よろしく頼むよ」


超混雑時には休憩ずらして来てくれるお客達、今日もそうしてくれる気がする。








「うわぁ〜、そんなに一辺に注文しないでよ〜」


「いやいや、僕は恭ちゃんじゃないよ?お爺ちゃん?聴いてる?」


「はい、ご心配をお掛けしました…とりあえず今日だけなんですが戻って来ました…」



予想通りというか、やっぱり店は混雑時はずれた形でやってきた。

厨房に聞こえてくる配膳のみんなの声が忙しそうに聞こえる。


「…嬉しそうですね…」


「えっ?」


隣で一緒に食器を洗うレオナが微笑みながら話し掛けてきた。


「お嬢様…嬉しそうで……とても楽しそうです…」


「……うん…レオナも嬉しい?」


「…はい、とても…」


優しい表情で微笑むレオナ、とても綺麗だと思った。





どうでもいい様な9月の平日…


普段なら何が有ったか忘れてしまうのが当然の様などうでもいい日……


……………


違った…


俺には今日という日がかけがえの無い日に思えて仕方がなかった。



いや……



かけがえの無い日にしなくちゃいけないんだ。




「はいは〜い、いらっしゃいませませ〜、本日限定看板娘の由ちゃんが承りますま〜す………ってあれっ?」


「由……違うみたいだよ…」



……………


どうやら来たみたいだ……


「…お父様……」


「有紗……何をやっている……?」


「…あ…いえ……その……」



「…レオナ…任せた」


「…はい…よろしくお願いします…」


店の入り口付近で対峙する有紗と有紗の親父…


縮こまる有紗を威嚇する様に見下ろす有紗の親父……


苛々する……



「あ〜いらっしゃいませ」


有紗を背中に隠す様に間に割り込む。

有紗の親父は特に驚いた様子では無く表情を変えない。


「アンタが有紗の父親ですか?」


「そうなります……君は有紗の彼氏さんかな……」


電話の時にも感じたが、何かとおどおどした様な雰囲気の人だ。

何処にでも居そうなひょろ長いサラリーマン風のおっさんだ。


「そうです、有紗の為にいくつか訊きたい事があるんです」


背中の有紗は俺の制服を掴んで俺越しに父親を覗き込んでいる。

脇には由と義人が黙って俺達を見守っていた。

周りのお客達も黙って俺達を見守っている。


「……ふむ…君達は有紗を誘拐したのですよね?…いや、保護してくれたと言っておきましょう……謝礼を」


ブチッ


頭の中で何かが切れた、本日二本目だ。


「アンタは知ってんだろうが!!有紗が精神病患ってんのも!有紗がここに居る訳も!アンタここを忘れちまったのか!?」


信じられなかった。


小さい時に有紗とここに来ていた人にはとても見えない、無感情で無神経で無頓着で人間としてとても気薄な人に思えた。


有紗の父親にはとても思えない。


「覚えてますよ、有紗が小さい時によく一緒に食事をしに来ました、もちろん有紗の病気も有紗がここでアルバイトをしていた事も知っています」


ため息混じりに淡々と語る有紗の親父。


「――だったら……どうして……?」


あまりに反応があっさり過ぎて、啖呵を切った俺が飲まれてしまった。


「有紗の事はレオナさんとアルベルトさん…それと専属医師に任せてあります、時間を掛けてしっかり治療すればちゃんと治りますよ」


苦笑混じりに言う有紗の親父。


「アンタが!……アンタが……決めんなよ……」


正直俺はぶち切れていた、でもこの人は俺の言う事なんてものともしない。


呆れるという前に自分の熱さに無意味さを覚えてしまう。


「………恭ちゃん…」


背中の有紗がすがる様な声を掛けてくる。


「…………」


どうする?


今この人をどうにかしないと有紗は一生救われない気がする。


自惚れでは無く、俺が一生側に居ないと有紗はダメになってしまう気がする。


それでも構わないけど、それは違うと思う。



「謝礼は払おう、有紗は連れて帰りますよ」


「ち、ちょっと待ってくれ!」


「申し訳ないが大事な商談に戻らなくてはなりません、失礼しますよ」



まずい、あれだけ大見得切っておいて、頭の中は真っ白になってしまった。



考えろ、考えないと……






「アンタ、馬鹿じゃねぇの?」



俺じゃない誰かが話を割った。




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