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第二十話

……………



………





「恭ちゃん」



「…………?」



「恭ちゃん!きょーちゃんってば!」



「……ゆーちゃん?」



「きょーちゃん!」



「ゆーちゃん!いらっしゃいませ!」



………?



えっ?



「…………」


目を開けると天井…


知らない天井だった…


???



「恭介!」


「えっ?っうわぁ!」


由?


由が抱きついてきた。


「な、何?」


何だ何だ?

さっぱり状況がわからん。

だいたいここはどこだ?


「恭介!恭介ぇ〜!うぅ…」


「ちょっと由、どうなってるんだ?」


俺に抱きついて泣きじゃくる由をなだめようとしながら、周りを見渡す。


病室?


ベッドにカーテン…俺の腕には点滴?

…ここは病室みたいだ。


「恭介!気がついたんだね!」


義人だ、義人が駆け寄ってくる。


「義人、これはいったい…?」


「……覚えてないの?」


「…???」


義人の表情が曇る、悲嘆な表情…

由は相変わらず、俺に抱きついて泣いている。


「………恭介は倒れたんだよ…」


「はあ?………倒れたっていつ?今日は何日なんだ?」


二人は制服を着ている、よく覚えていないが俺の最後の記憶ではまだ夏休みだった筈だ。


「今日は9月1日…恭介が倒れたのは昨日だよ…恭介は丸一日以上眠っていたんだ…」


「……マジかよ…」


驚いた……


俺はそこまで衰弱していたのか……


「……義人……有紗は?」


状況がわかったら、次に気になるのはもちろん有紗だ。


「……品川さん?いや…昨日は一緒に恭介に付き添ったけど…今日は見てないな…品川さんも学校じゃないかな…」


………それは無い…


昨日の事はよく覚えていないが、その前の夜の事は、はっきり覚えている。


「………店は…?」


「食堂は営業中だよ、でも2時で閉めて、ここに来るって言ってたよ」


「…そっか…わかった…」


……状況はわかった…


俺は昨日倒れ、ついさっきまで眠っていた…

有紗は昨日来たが、今日は来ていないらしい…

店にも迷惑を掛けてしまった様だ。


「とにかく先生を呼んで来るよ」


そう言って病室を出て行く義人。


「恭介〜死んじゃったかと思ったよ〜…うぅ〜」


一向に泣き止まない由。


「……由…」



さっきの夢……



今さら由の夢を見てしまうとは……


ゆーちゃん…小さい時の由の愛称だ……



病室の窓から外を見ると暗い…


雨が降っていた…


夏休みの間は嫌になる位に快晴が続いていたのに…





その後、俺は検査入院として、もう一日入院する事になった。


その日、有紗が見舞いに来る事はなかった。






次の日…


『………お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません…』


無機質なアナウンスに苛ついてしまう…



「…どうして……」



有紗と連絡が取れない……



昨日の病院…お袋達から訊いた話を思い出す…




「有紗ちゃん…辞めたんだよ……」


「はあ?」


「元々…前から言われていたんだよ…夏休みだけのアルバイトだってね……」


「――っそんな…!」


「…自分で言うって言っていたんだよ……最後の日に言おうとしてたのかねぇ………恭介がこの状態で言えなかったんだろうね……会っても責めちゃいけないよ?」



そして退院後、病院に居た時から掛け続けている電話は繋がる事はなかった……


店の方で聞いていた家の電話に掛けても……


『申し訳ありません、明確なアポイントが確認出来ません、アポイントを取られた後、指定された時間にお掛け直し下さい』


全く取り合ってはくれなかった……







「――っざけんな!本人に会わせろっての!!」


「…それは出来ません、お引き取り下さい」


「だぁ〜〜!だったらレオナを出せ!アンタじゃ話にならない!」


「恭介!マズいって!」


「恭介〜、傘傘〜、濡れちゃってるよ〜…」


ぎゃあぎゃあと問答を繰り返しては、義人に止められるを繰り返す。


ここは品川家の屋敷の前。


電話では埒が明かないので直接乗り込んで来た。

無理矢理着いて来た義人と由と一緒に粘っているが、問答無用で門前払いだった。


「これ以上しつこくなされますと、SPを要請せざるおえなくなります、どうかお引き取り下さい」


対応した使用人らしき人は無感情に俺達を切り捨てる。

くぉ〜〜!頭に来る!


「呼べよ!相手になってやる!ちくしょ―――ムググ…」


「恭介!ははは、すいません〜、連れて帰りますから〜」


義人に羽交い締めにされて由に口を塞がれる。


「アポイントを取られた後、またお越し下さい……ではまたのご来邸をお待ちしております」


「……………」


なんだってんだ……


「出直そうよ…」


「そうだよ…恭介…病み上がりなのに風邪引いちゃうよ…」


傘も差さずに啖呵を切っていた俺は全身濡れネズミだった…



目の前のくそデカい屋敷を見上げる…


有り得ないくらいにデカい…以前に有紗を送った時は夜で気付かなかったが、奥の建物が見えないくらいの物凄い規模の建物だ…



何だか自分が惨めでとても小さく思える…



有紗……意味わかんねーよ………










学校での昼休み…

俺の作った弁当を義人と由と三人で囲む。


俺はまだ高校二年…退院したからには学校に来なければならない。


「元気出しなよ、きっと何か事情があるんだよ…」


「…………」


義人も由も激しく気落ちする俺を気遣ってくれる。


「そうだよ恭介…訊けばかなりのベタベタのバカップルっ振りだったらしいじゃないか、このままなんて有り得ないよ」


「…………」



有紗と連絡が取れなくなって三日…


退院して体の方は万全になった…しかし精神面はボロボロだった…

有紗を気遣っての心労だったが、その本人が居なくなって連絡も取れない……



俺は行き場の無い憤りを…………



いや……俺はもう気付いる筈だ……



…期限……


これはつまりそういう事なんだろう……





教室の窓から見える風景は暗かった………



外は今日も雨だった……




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