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第二話

目の前には無駄にはだけた格好の女。

俺は躊躇う事なく包まっているタオルケットをふん掴む。


「おら!起きんかい!」


叫びながらおもいっきり引っ張ってやる、きりもみ回転しながら壁に激突する由。


「痛〜い」


悶絶する由、恨めしそうに見てくる。


ちょっと笑える。


「恭介、もう少し優しく起こしてよ!空襲でも来たのかと思ったじゃん!」


「んなもん来るか!さっさと来いよ、義人はもう行ってるぞ!ほら早く着替える!」


「急かさないでよ〜、まだ時間余裕あるじゃんさ〜」


もぞもぞするだけで布団から出ようとしない由。


「まだ遅刻はしないが飯が冷める、実力行使するぞ、はいバンザイ」


素直に言う通りにする由、俺はやはり躊躇無しで寝間着をひっぺがす。


ほとんど産まれた時からの付き合いのコイツは妹…いや弟にしか思えない。

おまけに胸なんてぺったんこだし、どう見ても小学生体型の由に欲情なんか少しもしない。


「よし、寝癖は後で直せ、行くぞ」


制服に着替えさせ、ショートの髪を大爆発させた由をずるずると隣の我が家に引き摺って行く。


「おはよう、二人とも」


既に用意してある朝食の前には制服姿の義人が居た、俺達三人は毎日一緒に朝食を摂る。

義人は両親とも海外赴任で不在の為、由は父子家庭で夜勤の父親はまだ寝ている為だ。


「「「いただきます」」」


俺の作った朝食をみんなで食べ始める。

ちなみに俺の親達は市場に仕入れに行っている。


「今日で一学期も終わりだね」


由がニコニコと嬉しそうに言う。


「お前に夏休みなぞ無い、補習王」


「うう〜、恭介だってお店の手伝いだらけじゃんさ〜」


由の言うように学校は今日までで明日から夏休みに入る、そして俺が店の手伝いだらけってのも間違いない…

今までの夏休みも手伝い漬けばかりで、まともな休みを満喫した事なんてなかったが今年は違う。


「ふっ、労働の素晴らしさを知らないガキめ、課題漬けになるがいいわ」


「あれ…珍しいね恭介、やけに余裕だね」


俺の反応が珍しいらしく義人が意外そうな顔で訊いてくる。

鈍感でガキな由は俺の言葉に膨れている。


「よく訊いてくれたな義人くん、出逢いは突然、そして必然なんだよ、ハッハッハ」


二人して頭に疑問符を浮かべたような顔になる、面白いので新しくバイトが入るのは黙っておく事にした。

せいぜい度肝を抜かれるがいいわ。








久住ヶ丘高校…

俺達の通っている学校だ。


「おはよう、みんな〜」


2年B組の教室に入るといつものように由が真っ先にクラスメイトに挨拶する。

俺達三人はお決まりの如く同じクラスだ。


「由ちゃん達おはよ〜」


クラスメイト達が挨拶を返す。


すぐさま由を交えて夏休みの予定で盛り上がるクラスメイト達、由は人当たりのいい性格の為かクラスでも一番の中心人物だ。


「海に行こうよ、由ちゃん、つっちーと藤村も」


由と仲のいいクラスメイトが楽しそうに言う、つっちーは義人の事、土屋だからつっちー。


「えっ…うん」


俺の方を申し訳なさそうに見る義人。

一方行きたい行きたいと騒ぎだす由。


俺は分かっている、義人はもろに気を使うが由も分かっていて騒いでいる、俺に気を遣わせない為だ。


「いいじゃん、俺は無理だけど義人は行きたいみたいだぞ」


だから言ってやる。


そりゃ俺だって行きたい、でも由の様な幼馴染みのせいだろうか…どうしても兄の様な気持ちになってしまう。


楽しんで来いよ。


はっきり言って店の手伝いは好きでやってる事だし、小学校から続けている事だ。

今さら気を遣ってくれる幼馴染み達を嬉しく思うだけ。


「恭介…」


不安そうに俺を見る義人。


「俺も定休日なら行けるし大丈夫だから気遣うな…怒るぞ」


「…そうだったね、わかったよ恭介」


笑顔で言ってくれる義人。


俺が店の手伝いに追われ、遊びにも行けず、やりたい事も出来ない。

それでも卑屈にならなかったのはコイツや由のお陰だと思う。








「あはははは、弱えなあ〜、よっし〜は〜」


「だって由は反則ばかりじゃないか」


放課後、一学期最後の学校を終え、俺の部屋に集まっていた。

義人と由は格闘ゲームをやっている、ちなみに俺の部屋にはテレビはあるがゲーム機は無い、由持ち込みだ。


自分の部屋でやれ。


「反則じゃないよ〜、これはテクニックだよ〜」


「浮かされたら拾われまくってHPが瀕死になるなんて面白くないよ、僕はいいから恭介とやりなよ」


そう言われた由が俺に向き直る。


「却下!」


由が口を開く前に言い放つ、ぶーっと頬を膨らませる由。


だから自分の部屋でやれ。


「ねぇ、夏休みさあ、今年はどこに行こうか〜」


ゲームの電源を落としながら、俺の顔を自信無さそうに覗いて言う由。


「ああ、そろそろ予定を立てておかないとね、宿の予約とかもあるし」


義人も由と同じ様な顔で俺を覗き見て言う。


そこで俺もピンと来る、俺達三人は夏休みや冬休みなどの長い休みを利用して三人で泊まりで遊びに行くのが年中行事の様になっていた。


「そうだな、よし、今年も由が計画立ててくれよ、盆休みまで待たしちまうけどな」


「う、うん!まかせて!」


途端に花が咲いた様に明るくなる由、義人も嬉しそうだ。

盆休みならしっかり取れるだろう、気を遣っている二人に自信を持って言ってやる。



今年も楽しい夏休みになりそうだ。



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