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第十五話

帰りの車の中。


助手席に座る彼女の後ろ姿を、後部座席から見る。


自分の事を話しだして、泣き出した彼女…


そして謝罪…


彼女は俺に何かしたのか?

いや……何もしてない…


出逢ってから、懸命に、そして楽しそうに働く彼女の姿しか見ていない…

仕事の上でのフォローはしたが、その程度であんな状態になるなんてあり得ない…


俺に何を求めたんだろう…


それとも、俺は由に続いて品川さんも傷つけてしまったのだろうか…




あの後、取り乱した彼女が落ち着くまで待って、別荘に連れ帰った。


彼女はあの謝罪以来、口を開いていない…


重い…


車中の空気が重い…


右には、何やらジト目の由…

多分俺が振られたと思っているのだろう…


左には、蒼白でこの世の終わりの様な顔をした義人がハアハアしてるし…


左前、運転席のレオナにはバックミラー越しにたびたび睨まれる…

明らかに目の赤い品川さんを見て、俺がどうにかしたと思っているのだろう…

怖い…


右前…助手席の品川さん…

酷く落ち込んでいる様に見える…

うつ向き…誰とも目を合わせようとしない…


楽しい旅行の帰り…


ずーんと暗い車中…


…………


お…俺のせいかなぁ……





数時間後…

地元に帰ってきた。


「では、桂様、土屋様、ごきげんよう…」


家の前まで送ってくれたレオナ、二人に挨拶する……俺は?


「うん、ごきげんよ〜だよ、レオナ〜」


「………ハアハア…」


「レ、レオナ…俺もごきげんよ〜だよ…はは…は…」


「藤村様…品川家を甘くみない事ですね……」


ギロリと恐ろしい流し目で俺を射抜くレオナ。

…うわあ…何を言っても駄目そう……


「では、失礼します…」


ブーンとレオナと品川さんを乗せた車は行ってしまった。


品川さんは結局、一言も口を開かず、顔を上げる事もなかった…



「……ハアハア…じゃあ…二人とも…バイバイ……ハアハア…」


義人はよろよろと自分の家に行ってしまった…


「……玉砕?」


義人を見送ったままの状態で、由がぼそりと呟く。


「由…俺は何もしてない、話を訊いただけだよ…」


「ふーん…恭介がそう言うなら私は何も言わないけどさ………でも……何かあれば言ってね…力になるよ?」


「……由…」


力なく笑いながら言う由…頑張って作った笑顔…


「じゃっ、ばいばい」


右手を挙げて家に入って行く由を見送る。


手を挙げたまま、桂家の玄関を見つめる…


「…ばいばい……」



既に居ない由に別れを告げた。







その日の夜。


勝手口からずかずかと上がり、義人の部屋を訪ねる。

土屋、藤村、桂の家は24時間、勝手口を開けっ放しである。

俺達三人はそれぞれの部屋を特に気にせず行き来している。


「義人?ちょっといいか?」


「恭介?いいよ、どうぞ」


部屋に入ると義人は勉強をしていた、本当に真面目なやつ…


「…いや…ちょっと相談があってさ……」


「恭介が僕に相談?……うん、どうしたの?」


テキストを閉じて、少し真面目な顔で俺に向き直る義人。


適当に座って、俺も向き直る。


「…………」


こういう事を義人に話すのは、初めてだった…義人とは何でも話し合える仲だが、少し話し辛い…


「…品川さんの事なんだ…」


「…うん」


全く表情を崩さない義人、話す内容をわかっていたという反応だ。


「…彼女…すっごいお嬢様らしい…んだよ」


「名字からそうじゃないかなって…思ってたよ」


「えっ?」


「品川建設、品川重工、品川水産、品川記念病院…この町には彼女の名前が余りにも根付いているよ…確信したのはレオナを見た時だけどね」


「そ、そうか…確かに俺も聞いた事あるのばっかかも…」


「というかこの町に住んでいれば常識だよ?この町を作ったのは品川、毬谷、八千代の三つの大富豪なんだよ?」


「な…何それ?」


「小学校でも習う常識だよ?」


「へ、へぇ〜…」


そうだったっけ?

凄い凄いとは思っていたが…


「で…その品川さんがどうしたの?好きになっちゃった?」


ぎくっ!


「……義人?」


「ははは、恭介は本当にわかりやすいなぁ」


「……マジかよ…」


「好きなんだね?」


「…ああ……好きだよ…」


「……そっ…か……」


どことなく残念そうに言う義人。


「そんなに俺わかりやすい?」


「はは…恭介はわかりやすいって言うより、バレバレだと思うな…僕だけじゃなくて、由もわかっていたと思うよ?」


「えっ?………由も……」


そうなのだろうか…

いや…そうだろう…


由は知ってて俺に…


「……由……言ったんだね?」


「えっ?」


「…由に…告白されたね?」


「…ああ…義人…お前…」


「うん、由に相談されてたよ…ずっと…ずっと……前からね…」


……?少し辛そうに言う義人。


「……そっか…由…駄目だったか…」


「……俺は…品川さんが……好きだから…な………でもな……義人…」


言いよどむ…


「…………」


「実は俺…さっき義人が言ってた様な品川財閥だなんだっての、今日知ったんだ…」


「…うん」


「なんか別世界でさ…俺には考えられないところで苦しんでるらしいんだ…彼女……泣いてて…俺…何て言っていいか…わからなかった…」


義人は真摯に訊いてくれている、でも話の内容までは言わなかった。


「もう一度訊くけど…彼女が好きなんだよね?」


「えっ…あ、ああ…」


「わかった…じゃあ僕の話をしよう」


???


「僕ね…由が好きなんだ」


「えっ?」


あっさり言う義人に、思わず顔を凝視してしまう。


「はは…意外?でもね、恭介、僕は…そうだな…小学校低学年くらいの時から由が好きなんだ」


驚いた。小学校低学年といえば、もう十年も前だ。

「だけど由は…僕と同じ時から…恭介が好きだったんだ…」


困った様な顔で言う義人…

俺は何も言わなかった…言えなかった。


「由が恭介を好きなのは知ってた…恭介が品川さんを好きなのも知ってた…それで旅行で由が恭介に告白するかもって訊いた時は…正直…迷ったよ…」


「言っちまえばよかっただろ、そうすれば――」


「言えるわけないだろ!!」


「――!!」


絶句した。

義人にしては大きな声だった。


「わ、悪ぃ…」


「僕も…ごめん…」


義人も申し訳なさそうにおし黙る…


「………恭介ってさ…僕達の事にしても、お店の事にしてもさ…不満は言うけど結局手伝ったり、力になってくれるでしょ?」


「あ…ああ…」


急に俺の話になったので生返事をしてしまう。


「いつでも誰かの為…僕にとって恭介は憧れなんだ…恭介は同じ立場にたったら…どうする?」


「…………」


義人だったら…由だったら…

絶対に言えない…


協力するから頑張れ…


そう言っちまう…


「由も同じだと思うよ…ずっと恭介を見てきたんだ…身近に居る人の為っていうのは…三人一緒…だよ?」


そこで、ふと夕方の由の言葉を思い出す…


『でも……何かあれば言ってね…力になるよ?』


「…………」


「品川さんと何を話したのかわからないけどさ、彼女が泣いてたなら…」


「…………」


「恭介が笑わせてあげなよ…」


その通りだと思った。

俺らしくなかった。

何を迷っていたのか…

だいたい振られる前から何を落ち込んでんだ俺は…


「ありがとう…義人…振られると思うけど、頑張ってみる」


「振られる?それは無いと思うけどな…」


「えっ?何?」


「何でもないよ…」




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