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第十二話


疲れた…


由に散々こ突かれまくった後、掃除、更に夕食の準備…片付け…



片付けを済ませた俺は、あてがえられた客室でダウンしていた。


「たく…これじゃ休みの意味が無いじゃないか…」



療養を含めた小旅行のはずが、普段と変わらず労働している気がする…


品川さんと一緒に居たいが為に、張りきっていたが、流石に疲れた…


由にこ突かれたところも痛いし…

品川さんの前でとんでもない事しやがって…

恥ずかしい事も暴露するし…



無駄にフカフカのベッドで横になっていると、まどろんできてしまう…


まだ8時くらいなのに…眠い…



…………









トントン


……………


……


?…


目を開けると、知らない布団…


???


一瞬の思案の後、今が旅行中で、ここが品川家の別荘である事を思い出す。


ドアの方を見る、ノックの様な音が聞こえた気がする。


疲れからか少し痛む体を起こして、ドアを開けてみた。



誰も居ない。



何やら高そうな廊下の照明は弱々しく、廊下は薄暗い…


部屋の中にあった壁時計で時間を見ると、12時少し前…


ちょっとした仮眠のつもりだったが、寝過ぎてしまったらしい…

心の中で落胆しながら廊下に出てみる。


ノックの主が気になったからだ。

気のせいではない気がする。


頭の中で彼女の顔がよぎる…




石造りの建物の為か、エアコンも効いていないのに、廊下はひんやりしていた。


廊下の先に少し明るい所があったので、なんとなく、そこに足を進める。



テラスだった。


明るさの訳は月明かりだった。


3メートルはあろう巨大な窓は、朧陰ることの無い月明かりを受けて皓皎と廊下を照らしていた。


その足元からそびえる巨大な窓には、同じガラス製の扉が付いていた、テラスに出られる様だ。


開いてみた…


テラスへ出てみて驚く、月明かりが照らす眺望は雄大で、吸い込まれそうになった。


建物から突き出るテラスは広かった、テラスには、白いテーブルがある。



人が居た。



テーブルと同じ白い椅子に背中を向けた人が座っていた。


俺の心臓は加速していた。



「……誰?」


解りきった事を訊いたと思った。


「…………」


返事は無かった、足を進める。



「えっ?」


彼女ではなかった。


「……なんだ………由か…」


近付いて見ると、見慣れた後ろ姿だった。

全身の力が抜ける様に緊張も解けていく。


「…………」


「由?寝てるのか?」


何も喋らない由に違和感を覚えて、顔を覗き込む。


ちゃんと起きていた。


そして…



…泣いていた。


「な、おい、どうした?」


「―――うぅ…酷いよ……ぁあ……あぁぁ」


俺と目が合うと、堰を切った様に泣き始める由。


「えっ?何?酷いって俺か?」


「うああああぁぁ」


俺の胸に飛込んでくる由。


訳がわからなかった…


「何だよ、どうして泣いてんだよ?」


「うああぁ…うぅ……あぅぅ……」


嗚咽を繰り返すばかりの由。


さっき、モップを振り回していた、元気な由とは別人の様だ。


由が泣いてるところなんて久しく見ていなかった。

昔は泣き虫だったが、最近はいくらちょっかいを出そうが堪えていた。


由は酷いと言った。


俺に。


そして俺の胸で泣く由。


俺の頭の中はパニック状態だった。


「うぅ…この旅行で…私…ぅ…」


「由?」


しばらくして、喋りだす由、嗚咽は止まらない。


「ずっと……前から…決めてた……グス……恭介に…うぅ……告白……するって……」


「――――!!」


胸に穴が空いた様な気がした。


「でも………自信無くて……グス……恭介寝ちゃうし……でも…今日って決めてて……グスッ」


いつも明るくて、わがままで、文句ばっか言って…


「もし……ここに……恭介が……来たら……」


嘘なんてつけなくて…隠し事なんてすぐに俺にバレてたくせに…


「……なのに……」


胸に空いた穴が痛みをおびてきた。


「……『なんだ由か』って……誰だと思ってたんだよぉ………うああああぁぁぁ」



再び俺の胸で泣き始める由。


痛い。


胸が痛い。


人を傷つける事がこんなに痛いなんて知らなかった。


いつも一緒に居た由…

ガキで恋愛なんて興味が無いんだろうって思っていた…



ごめん…


堪えがたい罪悪感が俺を埋め尽す。


彼女に出逢う前だったら…



「…ごめん……由」


「………えっ?」




ちゃんと言わなくちゃ駄目だ。





「俺は品川さんが好きなんだ…」



「…………」


由は何も言わなかった。


嗚咽も治まっていた。


でも俺の胸からは離れなかった。



「…………」



そのままで、空を見上げる。


空気が澄んでいるのだろう、見た事も無い様な星空が拡がっていた。



小さい由、いつもより小さい由。




俺は決心した。




――告白しよう。




由に誓ったのか…



馬鹿みたいに拡がる星空に誓ったのか…




どっちでもよかった…








そしてその時、俺は気付いていなかった…



ノックの主が由ではない事に…



俺の後ろ…


窓の中の廊下に……






彼女が居た事に…





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