吉祥果の魔女
古い古い昔の話。
石榴の木が年中実を宿す。
そんな不思議な土地が、森の奥深くにありました。
そして木々に隠れるように佇む一軒の家。
住んでいるのは美しい魔女と、これまた愛らしい娘です。
ある日、娘は魔女に言いました。
「ねぇ、私も魔法を使ってみたいわ」
魔女は答えます。
「まだダメよ、呪われてしまうもの」
続けて魔女は言いました。
「小さい時に魔法を覚えて大人になるとね、石榴と人のお肉しか食べれなくなるの」
娘は自分のご飯がどれだけ豪華でも、魔女のお皿には石榴しかのっていなかったのを急に思い出しました。
食事のたびに聞いても魔女は答えてくれず、魔法で誤魔化されていたのです。
けど魔女の言葉で娘はしっかりと思い出しました。
いつも魔女はお皿の石榴か、娘から貰う少しばかりのお肉しか食べません。
娘は気付きました。
きっと人から貰うと言う儀式が無いとお肉を食べれないのだわ。
「そんなに大変なら、魔女になるのは大きくなってからでいいわ」
魔女は頷きました。
「わかってくれたのね、ありがとう」
可愛い娘にうっとりとした目を向けて魔女は続けます。
「大きくなったら、ちゃんとアナタを魔女にしてあげるわ」
そういえば、と娘は思い出しました。
「お姉ちゃん達も魔女になったのかしら」
魔女は少し考えてから答えます。
「ええ、目には見えないけど私達といつも一緒にいるわ」
「いつも?」
「魔女になったら最初に覚える魔法よ。孤独な魔女が寂しく無いようにする、そんな魔法なの」
娘は微笑みました。
「素敵ね」
魔女も笑いました。
「そうでしょう?だから魔女になりたいなら、しっかり食べて大きくなりなさい」
困った顔で娘は答えます。
「もう、あんまり食べ過ぎると太っちゃうわ」
魔女は娘の足先から頭まで何度か見返してから言いました。
「そうね、太りすぎはだめだけど。でももう少しふっくらとした方が私は良いと思うわ」
しばらく経った頃、娘は魔女になりました。
娘はもうこの家に住んでいないのです。
しかし、入れ違いに赤ちゃんの声が聞こえるようになったので、魔女は寂しくありません。
魔女は赤ちゃんに名前をつけました。
「そうね、あなたの名前もカルネにしましょう。元気に育ちなさい」