結
少女が身を投げた後も、海は変わらぬ風景を保っておりました。
猛々しさを見せつけながら、岸壁に打ち付けては引き引いては打ち付けてを繰り返して、その波頭をたぎらせていたのであります。
その海を、王は今日も眺めておりました。
明けてから暮れるまで、王はあの日から毎日、岸壁を訪れては、少女の魂を慰めるよう一人その海を眺めていたのであります。
そしてその頃、この崖下の海の底では、ある変化が生まれておりました。
なぜかこの海の底にだけ、宝箱を引っ繰り返したかのように、真珠が沢山散らばるようになったのです。
自然の摂理からなる、例えば阿古屋貝のような貝にくるまれてではなく、あの美しい真珠の姿そのままで、底一面に散らばっているのです。それは取っても取っても減ることは無いのですが、陸にあげた途端、不思議なことに真珠は忽然と消えてしまうのでした。
きっとそれは、海に沈んでも尚、悲しみに咽び泣く少女の涙に違いないと、人々は噂をするのでした。
後に嘆きの真珠と呼ばれるその噂は、人から人へと伝わり、やがて王の耳にも入りました。それにいても立ってもいられなかったのでしょうか、あくる日も、あくる日も、少女の姿を探すかのよう、王は崖の上を訪れたのでした。
そしてどのくらいの月日がたったことでしょう、ある日、王の姿は崖の上から忽然と消えてしまいました。崖の上だけではありません、城の中にも街の中にもどこにも、まるで神隠しにでも遭ったように、その姿は消えて無くなってしまったのです。
勿論家来達は必死で王を探しました。城の井戸の中から僻地の砂漠まで、心当たりの場所は全てです。それでも、王は見つかりませんでした。
王はどこへいったのでしょうか?吹き抜ける風も、過ぎ行く人々も、梢の鳥も、何も答えてはくれません。
一つ分かることは、王がいなくなってから、何故か海の底の真珠も消えてなくなってしまったということです。
海は今日もさざめいています。
もしかすると、波間に戯れる海の精だけが、全ての答を知っているのかもしれません……。
了
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!