六
王は従者たちを呼び集め、すぐに少女の後を追いました。
何としてでも誤解を解かねばならないと思ったからです。落ちる真珠の後をたどれば、少女を見つけるのは容易い事です。ですが、王がその後を追い始めたとき、少女はもう城の中にはおりませんでした。
少女は城を抜け出し、ある場所へとひた走っていました。
私のせいだ、
私のせいだ、
私のせいだ!
私のせいで弟は亡くなったのだ。
真珠の涙を流す、この存在が回りに災いを起こすのだ。
こんな自分さえいなければ、このようなことにならなかったのだ!
そう自分を責めながら……。
思えばこの涙のお陰で、つらい目にばかり遭ってきたものでした。涙を流すことだけが自分自身と認められるような、そんな人生に絶望すらしておりました。
やがて少女は岸壁の頂上までたどり着きました。ここは険しく切り立った崖で、下を見下ろせば遥か遠くに荒々しく白波をたてる紺碧の海が広がっておりました。吹き付ける海風は強く、少女の髪がバサバサとはためいております。
少女は覚悟を決めておりました。
すべての禍根を断つにはこの命を差し出すしかないと思っておりました。
「ごめんね。私のせいで、ごめんね」
少女は弟へと語りかけます。その紡ぐ言葉は、海風に乗って虚空へと散っていきました。
ああどうやら、掛け違ったボタンはその間違いに気づかないまま、あらぬ方向へと向かって行くようです。
少女は祈るよう胸の前で手を組み、真珠の涙をこぼしながら、その海へと飛び込んで行きました。
海は暗く広い口を開けて少女を迎え入れようと待ち構えております。そしてその身が飛沫をあげて海の中へ消え去ると、しばしいくつもの泡が海面に浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返して、その波間を騒がせておりました。暗い海の底へと沈み行く少女の儚い命の糸を示すように、しばし、浮かんでは、消え……。
そして、再び崖の上に静けさが訪れたとき、従者と共に真珠の後をたどりながら、王は漸く崖の淵にたどり着きました。そこには一層多くの真珠が転がっており、またそこで真珠の道は途切れていることから、この下に少女は飛び込んだということを王は悟りました。
自分は間に合わなかったのだろうか? 王は唖然としながら自問しました。
否、そんなことはない、王は散らばる真珠をきつく握りしめると、すぐ様従者たちに少女を探すよう命じました。何人も何人もの従者たちが崖下の海へ飛び込み、少女の姿を必死で探します。
ですが、海は沈黙を守り、ただたゆとう風景を見せるのみで、少女が見つかることはありませんでした。
「弟は生きている! 死んではいない!」
海に向かって王は何度も何度も叫びました。 ですが、何を言っても全ては遅すぎたのであります。
誤解は真実を呑み込み、少女の心を粉々に砕き、最悪の事態を招いてしまったのであります。
「何てことだ……」
王は泣きました。人目もはばからず泣きました。
高価な宝物を失った悔しさからではありません、一人の愛すべき人間を失った悲しみからであります。
王は自らの行った愚かな謀を悔やみました。これが誤解を生み、死ぬいわれのない少女を死に追いやってしまったのですから。
絶望を胸に、冷たく暗い海へ飛び込んで行った少女の気持ちはいかばかりだったことでしょう。そして王は少女を失って初めて知りました。涙を欲するが為に自分のやったことは、こんなにも辛い気持ちを少女に味あわせていたのだということを。少女を失って初めて王は、彼女自身が抱え続けていた、深い深い胸の内の苦しみを知ったのであります。