五
ある日の朝、少女は城の庭園で真っ赤なバラが美しく咲き誇っているのを見つけました。
きっとこれを飾れば王の部屋は更に華やかになるだろうと、早速少女は何本かバラを摘み、部屋の方へと向かいました。
そしてその途中、王の執務室の前を通った少女は、部屋の扉がわずかに開かれており、なにやら話し声がこぼれてくるのに気が付きました。一人は王の声、もう一人はどうやら王の側近であるようでした。
普段ならばそのまますぐ通り過ぎてしまうところなのですが、通ったその瞬間、「あの不思議な少女が……」と、自分のことを話しているかのような言葉が耳に入ったので、訝しげな表情で少女は足を止め、思わず話に耳を傾けたのです。すると、
「王もよくお考えになりましたな。彼女のかわいがっている弟を亡き者にすれば涙を流すだろうとは、まさにてきめん。いやはや、われらの思う通りです」
「そうだろう、まさかここまで効き目があるとは思わなかったがな」
内容はこういったものでした。
少女は耳を疑いました。まるで自分の涙のために弟が亡くなったとでもいうような物言いだったのですから。まさかそんなことあるはずがない、少女はそう打ち消しますが、聞こえた言葉は空耳ではありませんでした。
あの焼け爛れた人物が、弟ではないということを知らない少女でしたから、自分の涙を欲するがために、弟は王に殺されたのだと思い込みました。あの部分だけを聞いたのならば、そう誤解するのも当然でありましょう。
自分のせいで弟が王に殺された、あまりの衝撃に、少女はガクガクと震えました。手にもっていたバラがはらはらと床に落ちます。そして辛い気持ちにその場にいられず、そこから駆け出しました。
カツンカツンと甲高く、少女の靴音が辺りに響き渡ります。
その音で、王は部屋の外に誰かがいることに気が付きました。振り返ってみれば扉が細く開いており、もしかして話を聞かれたのではないかと、慌てて部屋の外にでました。
すると、走り行く一人の女性の後ろ姿を王は確認したのです。その女性が走った後には、いくつもの白い粒が落ちていきます。そうです、それは真珠でした。泣きながら走っているのでしょう、次々に落ちて行く真珠をみて、王はその女性が少女であることを確信しました。
「待ってくれ! 違うんだ!」
二人で交わしていた会話を振り返ってみれば、いかにも誤解されそうな内容で、少女のこの様子からみてもやはりそうに違いないと、王は大声で叫びました。ですが、少女に王の声は届かないようで、空しく言葉は宙を彷徨い、その後ろ姿は段々と小さくなっていくばかりでございました。