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灰色の鳥  作者: 伊川有子
番外編
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番外編・受胎告知


短い上にクオリティー低し

ヤンキーな魔女でやった受胎告知の灰色の鳥verです。暇つぶしにどうぞ




バチン!!と大きな音が響いた。

レジーナは目を見開き、叩かれた頬を手で押さえてアダムを見上げる。


ぽかんと口を開けて呆けるヴィラたち。まさかあのアダムがレジーナを平手打ちにするなど、誰が想像できただろうか。

しかし今確かに、彼女たちの目の前でアダムは手を上げたのだ。


レジーナは悔しさと悲しさに歯を食いしばる。


「・・・・っ!

アダムの馬鹿!!ドスケベ!!変態ー!!」


そして彼女は言いたいことを言うと背を向けて走り去って行った。


部屋に残されたのは、この上なく重たい空気。

ヴィラは気まずさのあまり視線を泳がせて、やんわりと遠まわしにアダムを慰める。


「う、うーん・・・まあ、気持ちはわからなくないけど・・・、大丈夫か?

まあ仕方ないよな、お前らならすぐに仲直りできるって」


「・・・・」


アダムは無言でその場から一歩も動かない。レジーナに手を上げてしまった自分が信じられなかったのか、それとも彼女の話にショックを受けたのか。


“あんなこと”を言われれば、誰だって悲しい。


静かに見守っていたレオナードも視線を彼に向けてフォローした。


「頭に血が上ったか。

だがあの場合はきちんと話し合うべきだった。違うか?」


「・・・・ああ、そうだな」


「一瞬と言えど冷静さと失うとはお前らしくもない」


アダムは小さくため息を吐くと扉に向かって歩き出す。

その背中をヴィラたちは心配そうな視線で見送った。

















レジーナはぽろぽろと涙を零しながら屋根の上で丸くなっていた。


2人が喧嘩になった理由、その発端となったのはレジーナの妊娠。


魔物を身体に宿しているレジーナは、自分には子どもは産めないのではないかと考えていた。アダムにはっきりと言われたわけではなかったが、人間離れした自分にはむしろできるわけない・・・と。


だから妊娠していると分かるまで、レジーナは全く何も考えていなかったのである。


医者から言われて一番最初に思ったことは―――――“産みたくない”。

母親として愛情がわかないわけではない。愛しているからこそ、自分から生れた子が可哀そうだと思った。


アダムとレジーナは普通の人間じゃない。

そんな両親から生まれた子どもがどのような思いをするか、犯罪者の娘として生まれたレジーナにはよく分かる。


生れる前から定められた運命。そのシガラミは長年レジーナを苦しめ、追い詰めてきた。

アダムという存在を手に入れた今は運命から逃れることができたけれど、それまで幾度となく這い上がりたいのに這い上がれないもどかしさを経験してきた。


その苦しみを愛する子どもに与えたくない。


どうすればいいのか、レジーナは1人で考えて結論を出した。


小さな命を、諦めようと。


「・・・レジーナ」


そっと耳元で囁かれ、温もりに包まれる。後ろから抱き締められたレジーナは、自分の膝を抱えたまま顔を埋めた。

ちゅっちゅっと後頭部や耳元に水音が立ち、溢れるように出ていた涙がぴたりと止まる。


「幻滅、した?」


精いっぱい出した震える声。

愛を誓い合った仲なのに、子どもを産み育てるのを諦めるなど、嫌われても仕方ない所業だ。現にアダムはレジーナを叩いた。


薄情な女だと思われたかもしれない。嫌われてしまったのかもしれない。そう考えるだけで身体が小さく震え出す。


「・・・悪かった。予想できなかったわけではなかったのに」


妊娠してレジーナが苦しむだろうことは、アダムにとって当然予想の範疇だ。しかしいざ彼女の口から「産まない」と言われた時、つい我を忘れてしまった。

本当はどんなに彼女が嫌がっても、優しく導かなければならないのに。


「私、母親になんてなれない。なる資格、ないでしょ?」


何人もの命を殺めてきた犯罪者であるという事実は一生消えない傷。その重い十字架を背負っているレジーナから生まれた子どもは、その罪を知ってどう思うだろうか。


「もし、私なんかの子に生まれたくなかったって・・・言われたら・・・」


死にたくなる。悲しくなる。

自分の運命に何の罪もない子どもを巻き込むわけにはいかない。


アダムはレジーナの話を静かに聞きながら、大きな手で何度も頭を優しく撫でた。


「生れてくる命が等しく無垢であることに変わりはない」


「・・・犯罪者の子でも?」


「そうだ」


レジーナが顔を上げて後ろを振り返ると、アダムは腕の力を緩めて彼女を横抱きにする。

額と額が触れるほどに顔を寄せ、指先でレジーナの目元に浮かぶ涙を拭った。そのくすぐったさに目を閉じるレジーナ。


「親が罪を背負っている事実は変えてやることができないだろう。

でも、その事実をどう受け止めるかは本人次第だ。罪を受け入れるのも、絶縁するも、それは俺たちが決めることではない」


「・・・・んっ」


柔らかく唇を食まれて、レジーナはゆっくりと目を開けた。

紫色の瞳にアダムの姿が映る。


「もし子が受け入れてくれるならば、精一杯に愛せばいい。もし受け入れられないならば、罪に呑まれないよう守ればいい。

俺とレジーナの愛の証明として宿った命を、捨ててほしくないんだ」


「アダム・・・」


「例え生れてくる子がお前を拒否しても、俺は傍に居続けると約束しよう。だから―――――産んでほしい」


懇願するかのように何度も優しく口付けられ、レジーナはこくりと頷いた。


「・・・わか・・・った」


「レジーナ」


「覚悟を・・・決めるわ。この子のために・・・」


「ああ。守ろう、2人で」


レジーナの腕がアダムの首に回り、固く抱きしめる。

嬉しさと不安と怖さと、・・・いろんな感情を噛みしめながら。







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