67話 エピローグ
だんだん遠くへ飛んで行く2人を窓から見送るディーンたち。
マリウスはぽつりと呟いた。
「行っちゃったね。
ディーン、君が一番辛いんじゃない?」
親友と好きな人を一度に無くしてしまったのだから。
しかしディーンはやけにすっきりとした表情をして首を横に振った。
「ううん、それが、なんか嬉しいんだよね。
アダムにならメーデン・・・じゃなくて、レジーナを任せられるし」
ハリスはディーンの背中をバチン!と叩く。
「ディーンの男前」
「自分でもそう思うよ」
口を開けて大笑いする男陣。
一方、クレアとシュシュは少々悔しそうにしていた。
「う~、レジーナ・ベルンハルト・・・捕まえたかったヨ」
「メーデン・・・もっといっぱい遊びたかったわ・・・」
それぞれ感傷に浸る皆に、マリウスは笑いながら思い出した話を口にする。
「ねえ、なんで“灰色の鳥”っていうか知ってる?」
「なになに?知らない」
教えて、と食いついてきたディーン。
「正義でも悪でもなく、正義でもあり悪でもある存在。
何もない広い大空で人の進むべき道を教えてくれる鳥のような存在。
2つの翼を持ち一対の鳥になる、という意味なんだってさ」
「アダムはそんな綺麗な言い方してなかったヨ」
シュシュの駄目出しにケラケラといたずらっぽく笑う。
「いいのいいの。脚色は大切」
「かっこいい!さすが僕のアダム!!」
目をキラキラさせて喜ぶディーンに、サムはすかさず突っ込みを入れた。
「アダムはディーンのものじゃないよね」
「親友だもん!!」
まるで自分の物だと主張する子供のような言い訳に、クスリと笑うクレアとユークとハリス。
そしてもう小さな点となるほど遠くへ言ってしまったアダムとレジーナを見ながら願う。
2人がいつまでも幸せであるように、と。
アジトとグレーマンに別れを告げたアダムとレジーナはヴァルモン州の錆びれた大地に横たわって空を見上げていた。
「本当にもう戻らなくていいのか?」
アダムに尋ねられたレジーナは微笑んで頷く。
「私にはアダムがいればいいの。
それに、母親を殺したときにいろいろなものが吹っ切れた気がするわ」
ジーンのシガラミ、生まれながらの運命。
ジーン聖教団によって思い知らされたそれは、母親の死によって終わりを告げた。
ただ、自分が自分であるための道を選ぶ。
そしてそれにはアダムがいればそれでいいのだ。
アダムはレジーナに覆いかぶさって唇を重ねた。
しかし。
「イチャついてるところ悪いけど、お2人さん」
邪魔者の登場によってすぐに離れてしまう。
足元に立っていたのは肩に猫をぶら下げた茶髪の青年、ランスだ。
アダムは邪魔されたからか、見るからに不機嫌になりランスを睨む。
「招集命令が出た。これからうちの国に来てもらう。
アダム、あんたは父さんの政務の手伝い。
レジーナ、母さんの弟子になって本格的に魔術の修行をしてもらう。独学なんだろう?」
「そう・・・わかったわ」
魔女である以上中心の国に仕えるのは使命。
アダムも神の生まれ変わりである以上、中心の国に携わらなければならない。
2人は視線を合わせた後、上半身を起して空を見上げた。
曇りひとつない晴れた青空。
もうこの空に灰色の鳥が飛ぶことはないだろう。