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灰色の鳥  作者: 伊川有子
Ⅳ章
54/73

54話 帰還




結局レジーナの研究遠征はルーシーの死を持って終了となった。

帰ってきたカーマルゲートを懐かしく思いながら門をくぐり、天に向かって聳え立つ建物を見上げる。

右手にあるのがカーマルゲートの土地。そして左手の高い塔がマリウスら王族の住まう場所だ。


自分の宿舎と隠し部屋、どちらに行こうか悩んだ末にレジーナは左へと歩を進めた。

なにはともあれ、まずはシュシュへ今回の研究の報告をしなければならない。


物置部屋の箪笥の中を通って部屋に辿り着くと、放課後の時間だからか、ほとんどいつのもメンバーが揃っている。

一番最初にレジーナの姿を発見したシュシュが両手を広げ、瞬間移動のように素早く移動して抱きついてきた。


「メーデン、お帰りヨ」


「あ!ずるいわ、シュシュ!」


すぐにクレアが続いてレジーナに抱きつく。


「おかえり、メーデン」


「ただいま、みんな」


レジーナは荷物を置いて苦笑しながらシュシュとクレアの頭を撫でた。

他にも部屋にいたディーンやサムもぱっと笑顔の花を咲かせてレジーナを出迎える。


「お疲れ様!

研究はどうだった?」


「それが、ちょっと大変なことになってね。

それは後で説明するわ。

私がいない間に変わったことはなかった?」


「うーん、ファンクラブの人たちからメーデンがいつ帰ってくるのかしきりに聞かれたくらいかな」


なにそれ、とレジーナは目を丸くした。

何故かディーンが胸を張って自慢げに説明し始める。


「我らがメーデンのファングラブさ!

もちろん僕が会長ね!」


「そ・・・そう」


何とリアクションすればよいか分からず、レジーナは困惑しながらも愛想笑いを浮かべた。

その反応は当然だと、サムがうんうんと大きく頷く。


「メーデンがいない間本当にうるさかったんですよ」


珍しく居るユークもため息を吐きながら呆れたように言った。

レジーナ・アダム共に不在でディーンは寂しかったらしく、その反動でユークやその他の人たちにも被害が及んだようだ。

ユークの顔色はあまりよろしくない。

レジーナを含む皆は憐みの視線をユークへ送った。


「シュシュの方は?

お仕事は順調?」


「カルモナの件はアダムのお陰で完全に収束したヨ。

ただやっぱり幹部クラスの奴は相変わらず捕まらなくってネ。

一応チラホラ名前は上がってきてるんだけど、トップの情報はサッパリヨ」


眉間にしわを寄せ苦い顔をするシュシュ。

レジーナは肩を落として大きく息を吐いた。


「こちらもまだ問題が山積みのようね。

でも皆が元気そうでよかったわ。

ハリスとアダムは遠征かしら」


不在なのはアダムとハリスそしてマリウスだ。マリウスについてはもともと暇な人ではないので、アダムとハリスの所在だけを訪ねた。

ディーンはうんうんと頷いて説明する。


「アダムはもうすぐ帰ってくるんじゃないかな。

ハリスは忙しいみたいでちょこちょこ顔出してないよ」


「忙しいのは仕方ないわよね、寂しいけれど」


クレアはしゅんと項垂れて悲しそうに眉を八の字にした。

レジーナはディーンに促されて彼の隣に腰掛けると、ユークが冷たいコーヒーを持ってきてくれる。


「ありがとう。

なかなか会えないのはどうしようもないけど、もう2度と会えないわけじゃないわ」


元気出して、と励ますレジーナにクレアはコクコクと小さく何度も頷いた。


「ところで研究はどうだったのヨ」


シュシュがひょっこりと顔を出してレジーナに尋ねる。

レジーナは言いにくそうに順を追って説明した。


「それが私、森の中で道に迷っててね、グリンディネに戻って来た時にはルーシー嬢が亡くなってたのよ」


「まじかヨ」


「ええ、事故だったそうよ。

でもちゃんと研究は済んでたから、レポートは完成してるわ」


はい、と手渡した薄い紙の束を手渡すと、さっそくシュシュはぺらぺらと捲って目を通した。


「確かに受け取ったヨ。

お疲れ様ネ」


「ありがとう、シュシュ」


レジーナは微笑んでシュシュの頭を撫でた。

















一度訪れてみれば分かるが、鉱山は決して短くない。

どこまでも続いているのかと思われるほどに、長く長く続いている。


ミラグロ州の北に位置するアンネモア。

ここの鉱山は特殊だった。どこの入口から入っても、全ての入口に通じている。

そしてそれは全部で16。規模は山5つ分くらいだろうか。


暗闇の森の中に光る無数の松明は、月明りの中でも際立って周りを照らしていた。

その数約千。

まるで地上の天の川のように密集し、遠くから見たその光景はとても美しい。


「いいか野郎ども!

必ず俺達は成し遂げるんだ!!」


「「「オーー!!」」」


野太い声がいくつも重なり、地を響かせるような轟音に変わる。

高台に上っているガタイのいい男、もといロロは拳を天に振り上げて叫んだ。


「俺達の底力を見せてやるぞ!!」


「「「オーーー!!!」」」


「武器は持ったか!!決戦は明日の夜だ!!

入口の警備が手薄になり、要人たちが集まるその時を狙う!!

王都の東西南北、4手に別れて王城を目指す!!

何があっても辿りつけ!!

いいな!!?」


「「「オーーー!!!」」」


レジーナとアダムは人混みを抜け林の蔭に隠れた。

フードを脱ぐと、その開放感からかレジーナは大きく息を吐き出す。


「暑いわね。

なんで皆は平気そうなのかしら」


「興奮して気にならないんだろう」


夏真っ盛りの時期。

夜とはいえ、その気温は快適なものではない。

2人のようにローブを羽織っているならばなおさらだ。


アダムは声を低くして口を開いた。


「どうやら手引きしている人間がいるのは間違いないようだな。

情報が漏れてる」


「明日の夜、ねぇ」


明日の夜は王城で行われる陛下の生誕祭。

もちろん貴族であるアダムは出席せねばならず、そして何故かレジーナやハリスにも招待状が届いていた。


ホールに人員が割かれるため、門付近の警備が手薄になるのは必然だ。

しかしそのことを知っているのは、上流階級のそれなりの身分を持っている者だけ。

つまり、平民の集まりであるアンネモアの民は知ってるはずがないのだ。

誰かが情報を流したとしか考えられない。


それがジーン聖教団の仕業だと確信できたのは、ルーシーを聖女に仕立てた人物がノルエ・ホーバーであり聖水で得た利益が彼へ流れていたこと、またノルエ・ホーバーが住民から掠め取った税を自分の懐ではなく別の場所に流していたことが分かったから。


16山鉱も、ルーシーの件も、全てはジーン聖教団に繋がっている。


「王都に着く前に止められたらよかったんだけど、それも無理そうね。

4手に別れて合流するつもりなら、やっぱり王城へ突撃する時じゃないと・・・」


「ああ、止めるならその時だな」


バラバラに説得しても混乱を招くだけ。

また城下で事を荒立てれば無関係の市民に被害が出る可能性もある。


できるだけ広い場所で、16山鉱の全員が集まるチャンスは1度しかない。

それは王城で彼らが結集し、いざ攻撃を始めようかという時。


「どうするの、アダムも私もパーティー会場にいるのよ?」


「ああ。

だが、おそらく彼らが攻めてくるのも会場だろう。

要人が一所に集まるのはチャンスだ。

俺がジーン聖教団の団員なら、必ず会場を狙う」


「・・・ずいぶん派手なお披露目になるってワケね」


きっとパーティーは台無しになってしまうだろう。

16山鉱と、アダムによって。


一体誰が彼を闇の組織の人間だと思うだろうか。

幼い頃から天才と名を轟かせ注目を浴びてきたアダム。


もし16山鉱が説得に応じない場合は、力づくで止めにかからなければならない。

錬金術を使えば灰色の鳥であることもすぐにバレてしまうだろう。


そうなればもう元の生活に戻ることはできないのだ。


レジーナはアダムの手を握って身体を寄せた。


「・・・捕まらないで」


「分かってる。

レジーナも、シュシュにだけは警戒を怠るな」


「ええ」



戦いが―――――始まる。





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