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灰色の鳥  作者: 伊川有子
Ⅱ章
28/73

28話 シュシュ・アーメイ



クレアは窓から見える景色を見て物思いに耽っていた。

少しだけ塔の先端が見えるのは、教室塔のてっぺんである。


皆無事だろうか。今頃何をしているだろうか。部活動はどうなっているのか。


疑問を抱えているのは、静かにソファに座っているサムとディーンも同じ。


そしてそんな彼らを見張っているのは、黒く奇天烈な格好をしたシュシュという小柄な女である。


「頼むよ、シュシュ。

4回戦どうしても行きたいんだ!」


ディーンはこの通りと手を合わせて彼女に頭を下げた。

しかしシュシュは優雅に紅茶を飲みながら、赤く塗りつぶした唇を尖らせる。


「やーヨ。

この前勝手に抜け出した事、怒ってるんだからネ」


「頼むよー!友達の運命がかかってるんだ!行かないわけには・・!」


「やーだヨー」


「シュシュ、私からもお願いするわ」


「僕からも」


クレアとサムも頭を下げて頼み込んだ。

アビーが命を賭けて試合をしているというのに、こんなところでのんびりなんてできない。


何かしてあげないのにできない悔しさを感じながら、3人は彼女へ頼むしか方法を見出せなかった。


3回戦の時は運よくシュシュが不在だったため抜け出せたが、次は同じようにはいかないだろう。

もちろん脱走したことがバレて、シュシュはこの通り機嫌を損ねてしまっている。


「シュシュ、この世で一番可愛い女の子なんだから、もちろんこれくらいのお願い聞いてくれるよね?」


「その変わった服もとっても素敵だわ!」


「うんうん、その白黒のパラソルも!」


彼女の機嫌を取ろうと褒め始めた3人。

しかし


「可愛いのは当たり前ヨ。

この服は中心の国の超有名芸術アーチスト、PIKKOがデザインしたんだからネ」


「「「(芸術ってわかんない(わ)・・・)」」」


「おだてたってムダヨ。

絶対にここから出してあげないヨ」


シュシュはパラソルをクルクルと回しながら我関せずで紅茶を飲んだ。

3人は脱力して項垂れる。


「こ・・・こうなったらシュシュを倒して行くしか・・・・」


「無理よ」


「無理だね」


双子のダブルサウンドがすぐに否定した。

しかしまだ諦める気にはならない。どうにかして闘技場へ行かなければと、3人はグルグルと頭の中で必死に考える。


そこへ丁度よくマリウス王子が現れ、3人は彼に飛び付いた。


「マリウスー!」


「よかった、救世主」


「やあ、元気そうだね」


のん気に手を上げて挨拶するマリスス王子。

ディーンは先ほどシュシュにしたように、手を合わせて彼に頼みこむ。


「お願いマリウス!

決闘4回戦の1日だけでいいから外出させてくれ!」


「でも外出不許可出したのは陛下なんだろう?

無理なんじゃない?」


マリウスがシュシュの方を向くと、彼女はコクコクと頷く。

しかしディーンは食い下がらない。


「そこをなんとか!」


「んー、じゃあ1日だけ出してあげたら?」


「わかったヨー」


「「「早っ」」」


いくら自分たちが言っても聞かなかったシュシュの変わり様に3人は驚く。

ともかく観戦はできるようなので、これ以上彼女の機嫌を損ねるわけにはいかず、3人はニコニコと笑顔を作ってマリウスに感謝した。


















いよいよ決闘の4回戦。

出場者たちが集まって約束したとおり、あれから物騒なことは何も起こらなかった。


このまま行けば、もう1人も犠牲者が出なくて済む。


「アビー、忘れものはない?」


「ええ」


鎧をアビーを眺めるレジーナの表情は今までよりずっと柔らかかった。


「そろそろ出場者の集合時間です」


「ええ、行ってくるわね。

皆見ててよ?あたし達の手で決闘の歴史が変わる日なんだから!」


アビーは大きく手を振りながら笑顔で駆けて行った。

闘技場の門を潜りぬけた背を見送ると、レジーナたちも観覧席へと足を急ぐ。


小雨というあまり良くない天気の中、それでも観戦しに来た生徒は少なくないようだ。

ハリスは黙々と歩くアダムに向かって笑いかける。


「最初から居るなんて珍しいね、アダム」


「まあな」


「大丈夫ですか?もうそろそろ経費の最終報告では?」


「去年手間取ったから、今年は早めに終わらせておいた」


「もう・・・ですか。早いですね」


ユークは感心した様子で頷く。


そしていつも陣取っている観覧席に着いたと思えば、そこには既に先客が居て・・・・。


「メーデーン!!」


「ディーン?」


レジーナに抱きつこうとしたディーンだが、クレアが彼を押しのけて先に抱きついてきた。


「メーデン!会いたかったわ!」


「クレア!久しぶりね!

元気だった?」


「もちろんよ!」


押し飛ばされたディーンは目尻に涙を浮かべながら抱き合う女性2人を見つめている。

そしてアダムの気配を察知し、今度はアダムに飛びついた。


「アダムー!僕の親友よー!」


しかし今度はアダムが横に避けて、勢い余ったディーンは見事なスライディングをかました。

サムはさっそくハリスと談笑しており、レジーナにはクレアがべったり張り付いて離れない。


「ところで3人とも、今回も抜け出して来たのですか?」


「チッチッチッ。

違うんだなー。今度はちゃんと許可をもらって来たんだよ~ん」


生き返ったディーンが素早く説明を始める。


「マリウスが口利いてくれてさ、まあもちろん陛下には内緒なんだけど。

しかも監視付きだし」


「監視?」


レジーナが首を傾げた時、アダムが≪ガン!!!≫と乱暴に目の前のイスを蹴った。

御乱心かと思ったが、イスの下からゴロゴロと人間が出てきて一同はギョッとする。


「ぎゃああ!死体!?」


「んなワケねーだろヨ」


よっこらしょ、と身体を起こした人物は、肩までの黒髪に黒い奇妙な服を着た小っこい女の人だった。

彼女は手に持っていた白黒パラソルを開くと、アダムを見て口を尖らせる。


「よくここに隠れてるのがわかったネ

さすがアダムだヨ」


「誰なの?」


ぽつりと呟いたレジーナを見つけたシュシュは彼女の目の前までやって来て、レジーナはちんまりとしたシュシュを見下した。


「世の中不公平ヨ」


「えっと・・・お嬢さんお名前は?」


にこやかに尋ねたレジーナ。しかし。


「アタシこれでも千歳過ぎてんのヨ」


「年上だったのね・・・」


あまりに小さいのでまだ20に満たないのかと思ったが間違っていたようだ。

ディーンは慌ててレジーナの前へ出て壁を作る。


「メーデンに変な真似をしたら許さないからな、シュシュ」


「まさかディーンのコレ?」


小指を立てたシュシュにディーンは何度も頷いた。


「アナタ、まかり間違ってもディーンとは付き合わない方がいいと思うヨ」


「余計な御世話だよー!」


シュシュはディーンをスルリと交してレジーナの前に再びやってくる。

突然目の前に現れたシュシュにレジーナは驚いて目を丸くした。


「世の中不公平ヨ。

アダムといいアナタといい、なんでそんな美しいのサ。

本当に普通の人間か疑わしいヨ。

アダムについては宇宙人だと思ってるヨ。反論は受け付けないからネ」


よく喋る彼女はペタペタをレジーナの身体を断りもなく触りまくる。


「え・・・ちょっ・・・きゃあっ」


「ちょっとちょっとーー!!」


さすがに胸やお尻を揉み始めると、見かねたディーンが2人の間に割入った。

いつの間にかアダムもシュシュの首の根っこを掴んで猫のように持ち上げている。


「なんて羨ましいことするんだ!!僕も触ったことないのにー!グフォッ!」


クレアに顔面右ストレートを食らったディーンはノックアウト。

誰にも邪魔されなくなったクレアはレジーナに抱きついた。


「ちょっとシュシュ!

メーデンに勝手に触らないでよね!

大丈夫?メーデン」


「だ、大丈夫・・・。鷲掴みされたけど・・・」


好き勝手に身体を弄ばれたレジーナはぐったりとしている。


サムも眉間にしわを寄せてシュシュを叱った。


「シュシュ、君は僕たちの監視役だろう?

あんまり目立ってるとマリウス王子に言いつけちゃうからね」


「うっ・・・それは簡便してほしいヨ」


シュシュはアダムの手からぶら下がったまま嫌そうに顔を歪める。


「それで、誰なの?」


「シュシュ・アーメイ、監視役として来たヨ。

よろしくネ」


「メーデン・コストナーよ、よろしく」


レジーナとシュシュは挨拶を握手を交わした。

ハリスは首を傾げる。


「シュシュ・アーメイ?

聞いたことあるよ、君の名前」


「そう、アタシ有名人」


「そうなの?」


レジーナの問いにはユークが答えた。


「はい。

もしサイラスで特別に優秀な人物の名前を挙げるとしたら、アダムとシュシュの名前が並びますね。

これでも彼女はサイラスの暗躍部隊の隊長。

本来ならば名前すら伏せられる身なのですが・・・・何分、彼女は格好があまりにも目立つので・・・」


「ファッションなのヨ」


自信満々に言い切った彼女の格好は確かにかなり目立つ。

しかも白黒のパラソルをいつもさしているので、どこに居るかも一目でわかってしまうのだ。


「暗・・・躍・・・?

できるの?」


「もちろんヨー」


ハリスがさりげなく失礼な質問を投げかける。


「そんなことより!!!」


急にクレアが大きな声を出したので、皆は驚いてびくっと肩を震わせた。


「アビーよアビー!!今日は4回戦なのよ!

シュシュなんてどうでもいいの!!」


「クレア・・・酷いヨ」


「そういえば知らないのよね。

あのね、決闘のことなんだけど・・・」


軟禁されていたディーンたちは当然に出場者達が集まって話し合いが設けられたなど知らない。

試合の時間が迫っているため、レジーナはできるだけ分かりやすく簡潔に説明した。


ウェラーに呼び出されたこと。

試合の延期を提案されたこと。

これ以上犠牲者を出さないと約束したこと。


全てを聞き終えると、クレアは目を輝かせて感動していた。


「歴史が変わる瞬間だわ!!」


「よかった、じゃあアビーはもう危険な目に合わなくてすむんだね」


「ってことは、試合もただの延期待ちってことか」


サムとディーンもほっとした様子。

いつもヒヤヒヤしていた試合の観戦も、今日は心穏やかに見られそうだと表情を和らげる。


「2時間で4試合だから8時間か。

長いなぁ」


「ディーンったら!

いいじゃない!皆無事に終われるなら時間なんて!」


「もちろん大歓迎さ!

その間ずっとメーデンと一緒にいられるんだからさ」


パチリとレジーナに向かってウインクしたディーンに、シュシュは「オエェ」と吐き気を催してディーンにポカポカと殴られた。




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