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灰色の鳥  作者: 伊川有子
Ⅱ章
16/73

16話 遊び研究部




今日は4学年最後の日。


レジーナは雪の降る中、宿舎の外を歩いていた。

近くの大きな建物からは音楽や話し声など、賑やかな様子が風に乗って聞こえてくる。そこで行われているのは行く年と来る年を祝うパーティー。


アビーはハリスと参加しているが、レジーナは面倒なためサボっている。


朝からアビーにドレスを着させ化粧を施し髪を結って送り出した後、一息つくために外へ出たがそれは失敗だったかもしれない。

外はとても寒い上に風が強く、散歩するには少し険しい天気であった。ズボズボ雪に埋もれる足も、風に靡く髪も鬱陶しくて気分が晴れやしない。


さっさと帰ろうと思い立ったとき、やあ、と声をかけられてレジーナは足を止める。


振り返れば、そこには意外な人物がいた。


「サム、どうしたのこんなところで」


「それは君こそ、メーデン」


「ただのサボりよ」


「僕も」


レジーナとサムは顔を見合せてクスクスと笑った。


クレアと同じ茶色の髪と瞳を持つ彼だが、クレアよりも少し大人びて見えるのは彼が男性だからだろうか。

サムはふう、と手を白い息で温めながら困ったように口を開く。


「ホントはクレアと一緒に行くはずだったんだけど、クレアのヤツ風邪引いちゃってさ」


「まあ・・・。じゃあお見舞いに行かないとね」


「そうしてくれると助かるよ。

ずっと寝たきりじゃ暇だってグズってたから」


ベットの中で暇だ暇だと喚いているクレアの姿が簡単に想像でき、レジーナはクスクスと笑いながら頷いた。


「そう言えばメーデンも大丈夫?

テスト期間前に風邪こじらせて外の病院に入院してたって聞いたけど・・・」


「ああ・・・ええ、もちろん大丈夫よ」


ヴァルモン州に行った時の言い訳を思い出し誤魔化し笑いをするレジーナ。

サムはニコリと笑って空を見上げる。


「そっか。

それにしても今日は寒いね」


レジーナが返事を返そうとしたとき、近くからガシャーン!!とガラスの割れた音が響いて2人は固まった。


「何?今の」


「会場から聞こえてきたわ」


「行こう」


2人は好奇心から音の聞こえてきたパーティー会場に向かって小走りで向かった。

ソロリと窓から中の様子を窺う。


シャンデリアに高級家具、ドレスや正装に身を纏った人々。煌びやかな会場でパーティーを満喫しているはずの生徒に、なぜか笑顔はなかった。


曇った窓ガラスを裾で拭きながらサムが右奥の方を指さす。


「メーデン、見てアレ」


「あらら」


指さした先には怒鳴り合いの喧嘩をしている女性2人が。

恐らく先ほどのガラスの割れる音、そして皆の表情が凍りついている理由はあの2人だろう。よく見てみれば、向こう側の窓ガラスが派手に割れていた。


サムは呆れたように肩を竦めた。


「またやってるよ、あの人たち」


「知り合いなの?」


レジーナが覗くのをやめてサムの方を向くと、彼はううんと大きく首を横に振る。


「知り合いじゃないけど、有名だよ。

オレンジの髪で赤いドレスを着てる人は7年・・・もうすぐ8年だけど、8年のボス、サーシャ・ウェラー。活発で明るいけど、ズバズバ言いたいこと言うんだよね。

黒っぽい長髪でピンクのドレスを着てる方が9年生のボス、ナタリー・フェンシー。普段もの静かなんだけど陰険というかなんというか・・・。

仲が悪くてしょっちゅうもめ事起こしてるから有名なんだ」


「へぇ、大変ねぇ」


派閥争いには極力関わらないレジーナは他人事のように言う。


「ちなみにウェラーはディーンに惚れてて、フェンシーはアダムにお熱だよ」


「へ・・・へぇ」


レジーナの頬に冷や汗が流れた。関われば即面倒なことに巻き込まれそうな気がする。


そういえば、とサムはメーデンに向き直って話題をがらりと変えた。


「テストはどうだった?

去年の再テストも受けたって聞いたけど、ちゃんと単位取れそう?」


「さあ、どうかしら」


レジーナは“落ちこぼれのメーデン”の顔をしてにこっと笑う。

テストは相変わらず適当に回答しておいた。単位をとれるかとれないか、それは教師の裁量次第だろう。


「じゃあ、ディーンとは上手くいってる?」


「ええ、まあ。

最近テスト期間だったからあまり会ってないけど」


「そっかー。

キスはもう済んだ?」


いい笑顔で問われ、レジーナは派手に窓ガラスで頭を打った。





















今年最後の祈りの式典を終えた後、ディーンに呼び出された皆は彼の家に集まっていた。

久しぶりに皆の顔が出そろい、ディーンのみならずクレアたちも嬉しそうだ。


最期にハリスとアビーがやって来て、いつものメンバーが揃う。


ディーンは2人にやあやあと席を勧め、自分も円のテーブルに座って満足気に笑った。


「集まってくれてありがとう、皆。

メーデンとアダムとユーク以外はテスト前以来だね」


「それで、私たちを呼び出して何しようっていうの?」


クレアは面倒そうに訊ねる。

しかし、ディーンは気合たっぷりに拳を握って話し始めた。


「実は来年からの課外活動の件なんだけど!」


「ああ、なるほど」


サムはどこかホッとした様子で頷いた。ディーンのことだからロクな呼び出しじゃないと思っていたらしい。


5学年から始まる課外活動。

アダムたち3人組はそれぞれ適当な部に所属しているが、クレアたちが5学年に上がることを期に一緒の部を作ろうと話を持ちかけたのだ。


銀の髪をかき上げたユークが訊ねる。


「その件はすべてディーンに任せきりでしたね。

それで、申請は通りましたか?」


「もちろん!

定員制でね、書類審査通っちゃった!」


テヘッと効果音が付きそうなほど茶目っ気たっぷりに言うディーン。

しかし疑いの眼差しが彼に集まり、眉間にしわを寄せて頬を膨らませた。


「な、なんだよー、皆して」


「ちゃんとした部なんでしょうね・・・」


「私もそれが心配で・・・」


アビーとレジーナは顔を見合せてコソッと不安を漏らす。


ディーンはさらに頬を膨らませて反論した。


「当たり前じゃないかー」


「それで、何の部なんだ?」


興味無さそうに言うアダムに、ディーンは自信満々に笑顔で言い放つ。


「遊び研究部!―――――イテッ!

なんだよアダムー、殴ることないじゃないかぁ」


アダムにゲンコツを食らい、ぶーぶーと文句を言うディーン。

皆も一気に消沈してぶつぶつと不満を呟いた。


「ディーンに任せた私がバカでした・・・」


「よくそんなので申請が通ったね・・・」


「なんだよ遊び研究部って」


「遊びって・・・何の遊びかしら?」


「さあ・・・、ディーンのことだから女遊びのことなんじゃない?」


はあ、と一斉にため息が漏れ、ディーンは反論し始める。


「遊び研究部、略して“遊び部”だよ!

いろいろな国の娯楽を研究するんだ、新しい試みだろう?」


「そうだな、バカだな」


「アダムーー!!君だけは賛成してくれると思ったのに!!」


課外と言えどカーマルゲートで過ごす貴重な時間。本来ならば、知識を得たり体力をつけたりと、将来を見据えたうえで必要なものを得る時間である。


しかし、遊びを研究して将来に役立つとは思えない。


そこで以外にも賛成の声を上げたのはハリスだった。


「ま、いいんじゃない?

元々は一緒に居る時間を作る目的で部を立ちあげたんだから、中身はあんまり重要じゃないよ」


「ハリスーー!!心の友ーーー!!」


感激してハリスに抱きつこうとしたディーンはアビーが素早く制止する。


「ちょっと奇抜な部だけど、ハリスが言うなら仕方ないわね」


「そうね・・・、他の部もほとんど遊びみたいなものだし」


アビーとクレアもしぶしぶ了承。

レジーナとサムも頷き、残すところはアダムとユーク。


「アダム、ユーク、いいでしょ?」


子犬のような目で迫るディーンに、2人は同時にため息を吐いて頷いた。


ディーンはばんざーいと大きく両手を上げる。


「やったー!

じゃあさっそく名簿に名前を書いてね!」


一枚の薄い紙とペンを回し、一人一人名前を書き連ねて行く。

最後にディーン自身が名前を書き、満足げにそのリストを眺めた。


「完璧だね!

あ、ちなみに部長はアダムだからね!」


「何故俺なんだ」


むすっと眉間にしわを寄せとても嫌そうなアダム。

皆はその気持ちが手に取るようにわかって苦笑いした。遊び研究部なんてふざけた部の部長をやらされるなど恥ずかしくてたまらない。ちょっとした罰ゲームみたいなものだろう。


「いいじゃないか、この中じゃ一番アダムが成績いいんだし」


「クレアがいるじゃないか」


「やめてよ、同じ“学年首席”でもアダムは別だわ」


クレアも心の底から嫌そうな顔をして即断る。

うんうんとディーンも彼女に同意した。


「やっぱり遊び部の部長なら、変態の名を欲しいままにしているアダムじゃないとね!」


「誰が変態だ、お前じゃあるまいし」


「だって君、この前首筋に歯型つけてたじゃないか」


ブフォッと噴き出し、ハンカチで口元を覆ったのはレジーナ。

隣に座っているアビーが慌てふためく。


「どうしたの、メーデン!

今すごい音がしたわよ?」


「な、なんでもない・・・」


アダムの首筋に歯形を付けた張本人はレジーナである。

絶命させようと動脈を狙って噛みついたソレは、魔物のアダムには効果が薄く、歯型という形で残ってしまったらしい。


ディーンはキラキラした笑顔で続けた。


「それはもうすごい噂になってるよ。

アレが激しいんだとか、ピ――――な性癖があるんだとか、ピ――――がピ―――でピ―――だとか、どんな激しいプレイをしてんだよって話しで君のファンはお祭り状態さ」


アダム本人は気にしていなかったが、彼の首筋に歯形が合って周りの人々は見て見ぬフリをするはずもなく。

歯型一つでも妄想力を掻き立てられ、変な方向へ噂が向かうのも仕方のないことだった。


「ちょっと!レディーの前でなんて話してんのよ!

下品だわ!!」


クレアは顔を真っ赤にしてカンカンに怒っている。

浮いた話の一切ないアダムのネタに、皆は「ぎゃははは」と派手に笑いながらお腹を抱えていた。


一方レジーナも笑いを堪えるので精いっぱいで、アダムにものすごい眼光で睨まれる。


満足そうに頷くのはやはりディーンだ。


「部長はアダムで決定だね!

あ、副部長はもちろん僕だよ!」


「・・・・」


アダム、無言。

ディーンは勝手にアダムの名前の横に部長と書き、満足そうにへらっと笑った。


「今年もよろしくね~、アダム」


返事ではなくため息が帰って来たが、やはり彼がめげることはない。


その後解散しようという雰囲気になりかけた時、サムが「ちょっと待って」と皆を引きとめる。


「アダムとディーンは知ってると思うけど、来年は“決闘”があるから皆気を付けてね」


「それ本当!?」


真っ先に飛びついたのはアビーだった。

うん、とサムは険しい顔で頷く。


「参加しないなら安全だと思うけど、来年はたぶん荒れるよ」


レジーナは首を傾げてアビーに尋ねる。


「アビー、決闘って何?」


「メーデンったら、そんなことも知らないでカーマルゲートに入ったの?

決闘っていうのはトーナメント方式の剣術の大会よ。

50年に一回行われる不定期の行事なの」


「誰でも参加できるの?」


「できるけど・・・まあ、イロイロあってね」


アビーは言葉を濁し、それ以上説明することはしなかった。





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