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灰色の鳥  作者: 伊川有子
Ⅰ章
13/73

13話 始まり




何も変わらなかった。

そう、恐ろしいほどにメーデンの生活に変化はなかった。


アダムとの一件の後、リトラバーの正体が騒がれるもあっという間に沈黙と化し、カーマルゲートではまるで何もなかったかのように時間が過ぎて行く。


つまらない授業、カフェテラスで雑談しながらの昼食、時々ディーンに絡まれ、そして休日にアビーやハリスたちと勉強したり遊んだり。

普通の学生のように、くだらなくもそれなりに充実した生活。



「暇ねぇ」


「眠いわよねぇ」


「授業中なんだけどね」


教師が急用のため自主練習となった午後の剣術の授業。

メーデンとアビーとクレアは眠気と戦いながら剣を振り回していた。

心地の良い秋晴れの日。昼寝が心地よい季節の授業は、だるい上に眠いものだ。


クレアはふとメーデンの顔色が悪いことに気づき、手を止めて心配そうに尋ねる。


「メーデン、貴女顔が真っ青よ?

大丈夫?」


「平気平気、ちょっと貧血気味なだけよ」


「ホント?無理しないでよね。

そう言えばずっと中止になってたアダムとの勉強会も、今週から再開するんでしょ?」


よく知ってるわね、とメーデンは苦笑しながら頷く。

事の本末を知らないアビーはすかさずに割り込んだ。


「そもそもなんで中止になったんだっけ」


「アダムが忙しいからよ、アビー。

彼、王城で政治の仕事もしてるから」


「今ちょうど経費の最終報告前でバタバタしてるの。

だからアダムも借り出されてるんでしょう」


「へぇ。

そういえばもう11月・・・・・・テストね」


ピクリとメーデンの肩が動いた。

そう、12月の始めには1学年の終わりとしてテストが待ち受けている。もちろん進級のかかったテストだ。


「なんとかなるわ」


「なればいいけど」


「ねぇ」


いい笑顔で言い切ったメーデンに不安を隠せない2人。


そこで思い出したのか唐突にクレアは手をたたき、勢いよくメーデンとアビーに話しかけた。


「ねえ、2人とも!

5学年になると課外が始まるの知ってる!?」


「課外?」


「そう、自分の好きな所に所属して活動するんだけど、いろいろあるのよ。

大きく分けると研究、実技、芸術、スポーツ・・・みたいにね。

たぶん100種類くらいの部があると思うわ」


アビーは苦い顔。


「絶対入らなきゃいけないの?」


「そ!

課外って言っても半分遊びみたいなものだから。

それでね、相談なんだけど、ディーンたちが一緒に部を作ろうって」


「私たちも?」


「もちろんよ!

メーデンとアビーと私でしょ?

男性陣はハリスにサムにディーンにユークにアダムね」


錚々たる顔ぶれに、メーデンとアビーは顔を見合わせた。

一緒に部を・・・の部分に問題はないが、なんとなく場違いな気がしてならない。


「本当に一緒に入っていいの?」


「もちろんよ!

むしろ私たちが誘ってるんだから、今更遠慮なんてしちゃ嫌よ!

ね!?いいでしょ!?」


クレアは顔を近づけ2人に迫り、メーデンとアビーは勢いよく首を縦に振った。

少々ごり押し気味だが、仲の良い人たちと一緒の部に入れるのは素直に嬉しい。


クレアはきゃっきゃと大げさなほどに喜ぶ。


「よかった!

私たち友達少ないから、絶対に一緒がよかったの」


「少ないなんてそんなことないわよ。

クレアたちなら・・・ねぇ?」


アビーに頷くメーデン。

王族ともなれば、近づきたがる人は多いだろう。


しかし、クレアは思いっきり首を横に振る。


「ないない。

王族ってだけで平民の人たちはほとんど相手にしてくれないの。雲の上の人だとでも思ってるのかしらね。

貴族の人たちは、私たちを怒らせると暗殺されるとでも思ってるみたい」


「ああ・・・なるほど」


つまり、貴族たちも王族と付き合うことはデメリットの方が大きいと判断するわけだ。


メーデン達もある意味その部類に入る。

1学年の頃から派閥争いに巻き込まれるのが面倒で、他とはまったく交流を絶っていた。よって友達と呼べる人は少ない。


ちなみにハリスはのらりくらり交わしながら友達付き合いをしているため、特定の親友もおらず派閥争いにも加わることはなかった。

最近ではサムと意気投合したらしく、2人で一緒にいることが多い。


メーデンは微笑みながら口を開いた。


「せっかく仲良くなったんだもの。

できるだけ一緒に居たいわよね、あと5年間しかカーマルゲートには居られないわけだし」


「そうそう!

アビーにはハリスがいるし、メーデンにはディーンも付いてくるわ。

お得でしょ?」


「ところで何の部なの?」


アビーの質問にクレアの眉が茶目っ気たっぷりに上がる。


「知らない」


「「ええ~?」」


2人は同時に避難を上げたところで、今日の授業は終了した。





















「・・・なんでこんなことになってんの」


「ぶつぶつ言ってないで頭を使え」


テーブルに突っ伏す私を叱咤するアダム。


何故私がアダムの宿舎の地下で錬金術の本を広げて、ワケの分からない記号とにらめっこしなくてはいけないのか。


今日は木曜日。

久しぶりに勉強会が始まるかと思えば・・・。


「錬金術に興味あったなんて・・・正気?」


「当たり前だ」


「犯罪なのよ?」


「知ってる」


「見つかったら死刑」


「そうだな」


あまりにも淡泊な返事にむっと頬を膨らませた。


本当にアダムの考えていることがわからない。

国を敵に回してまで錬金術を使いたいのか。そこまでして何の利益があるのか。


罪を犯すということが、どういうことだかわかっているのか。


犯罪者が、どういう運命を辿るのか―――――


「わかっているから、必要なんだ」


心の中を読まれたような錯覚を覚え、ぞくりと背が粟立った。


私は口を固く閉じてペンを握る。

幼いころから擦りこまれた錬金術の基礎。それでもほとんどの意味がわからない。

それほどに難解な学問だった。


父が数百年かけて学んだ学問を解読しようだなんて、私には出来ない芸当である。


しかし、アダムは本気で錬金術を習得するつもりらしい。

そして、私にも習得させるつもりらしいのだ。


「わけわかんない」


文句のひとつくらい許してほしい。

いくら幼少期に錬金術の基礎を習得したとはいえ、実践レベルの術を身に付けているわけではない。

アダムのように特に賢いわけでもない。


理解不能、まさにそれ。


解読を投げ出した私を見て溜息を吐くアダム。


「錬金術の本質はなんだ?」


「創造、構築、破壊、消滅、転移、変換、融合」


「錬金術を例えるなら」


「人工的魔法」


「その通り。

この世界で最もタブー視されている錬金術だが、その本質を知っているものはほとんどいない。

錬金術が何なのかすら知らない。

だから、禁忌を冒してまで知ろうとする人物は現れなかった。

現れたとしても、すぐに国家が始末した」


「だから何なの?」


「だから錬金術という学問自体が確立していない。

習得しようと思えば0からのスタート、それでは習得し終わる前に国に睨まれて終わり。

しかしここには既に教科書がある。

見つかる前に習得してしまえばこちらの勝ちだ」


つまり、見つかる前にとっとと使いこなせるようになろうというワケか。

運のいいことに、父の本もこちらの手にある。


「本当にタブーを犯す気なのね」


擦れたような小さな声も、アダムには届いたらしく彼は手を止めた。


「世界を敵に回してまで錬金術を習得することに何の意味があるの?

アダムは貴族なのよ?その実力があれば上り詰めることだってできるはず」


静まり返った地下。

ロウソクの明かりがゆらゆらと揺れる。


「・・・私が憎いなら、これ以上関わらないで」


中途半端な同情はいらない。

手助けも必要ない。


ずっと独りで生きてきた。だからこれからも、同じように・・・。


同じように、生きていくはずなのに。




――――――こんなに苦しいのは、なぜだろう。




言葉が出てこず俯いていると、アダムは私を抱え上げてソファに放り投げた。

ドサッと勢いよく落ちて、続いてマントが飛んでくる。


「空っぽの頭でそれ以上考えるな」


「・・・空っぽで悪かったわね」


アダムとは比べないでほしい、本当に。


彼は再びテーブルに戻り、本を読みながら続ける。


「考えすぎるのは悪い癖だな」


「生き延びるには必要よ。

貴方の言動は不可解で動きづらいわ」


「言っただろう、殺しはしない」


「どうだか」


信じられない。

こんなギスギスした仲なのに、前世は恋人だったなんて。


私はマントを手繰り寄せて身体を包むと、テーブルとは真逆の方を向いて丸くなった。

冷たかった身体が、僅かに熱を取り戻す。


寒い地方では地下の方が暖かいためよく利用されるが、サイラスは気候が穏やかなので地下室は非常に珍しいもの。

だからまさかカーマルゲートに、しかも個人の宿舎の中に地下室が存在するなどと思う人はいないだろう。

さらに、研究塔からアダムの宿舎の近くまで地下道が通っていることも知る人は少ないはずだ。

アダムがあまり他人を家に入れないため、誰かに場所を知られる危険は少ない。


私は目を閉じてマントの中に頭まで埋めた。

安らかな暗闇がやって来て、静寂が心地よく居座る。


そしてうつらうつらと記憶が途切れ始めた頃。


目を開けてすらいないのに、洞窟の中に居る父の姿が頭に焼き付いた。

例えるならば、バシュッと写真を直接頭の中に叩きつけられるような感覚。


息が詰まって手を伸ばし、上半身がソファから崩れ落ちる。

苦しくてもがいていると、アダムが崩れた私の身体を起こす。


首を絞められた時のように上手く息ができない。


「あっ・・・・ぐっ・・・」


「息をしろ!」


「げほっ・・・げほ!!」


背中を乱暴に叩かれ、その衝撃で肺の中の空気が外に出た。

ヒューヒューと喉を鳴らしながら息をしている間もずっと、何かの場面が脳に焼きつけられていく。


必死に何かを考えている父

父に衣服を与えられて喜んでいる幼い私

錬金術の記号と文字

眼鏡をかけている父

洞窟の中に居る父

見知らぬ男の人たちと居る父

歪んだ笑いをしている父

黒髪の女の人と居る父

血まみれの父

首のない父


父、父、父・・・・


脳が飽和状態になり、すぐ私は意識を失った。






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