第8話 レジエン工房と、隣のルイニル工房
明日は休みだと考えながらギルドに戻ると、ユミルから「ギルマスからお話があります。応接室へ行きます」と声をかけられ、案内された。
すでに応接室にはギルドマスターが待っており、すすめられたソファに腰掛けると、
「お前たちが言ってた通り、レジエン様から遣いが来た。槍の穂先ができたそうだ」
と告げられ、続けて「何があった」と難しい顔で説明を求められた。
先日の武器屋での出会いと、工房での魔力試験について話すと、
「よほど気に入られたとしか考えられん。Aランク冒険者でも一年以上待たされるものを、十日もかからずに……」
と天を仰ぎ、
「そもそも、レジエン様に払う鍛冶代金があるのか?」
と訊かれた。
「持っていた槍を材料として提供しました」と答えると、
「お前たちについては、詮索しない約束だったな」
と苦笑し、
「近々、Dランク昇格だ」
と告げられた。
翌日は休みだったが、食事を済ませてからレジエンの工房へ向かった。
工房に着くと、レジエンから今使っている槍を出すように言われ、差し出すと「すぐに交換してやる」と奥へ向かった。
しばらくして戻ってきたレジエンの手には、ミスリルとは思えない黒い穂先の槍があった。
「これならミスリルには見えんじゃろ。魔法処理でミスリルと魔石を隠してやった」と教えてくれる。
「どうせ釣り銭は受け取らんだろうから、二軒隣で工房をやっとる杖職人の婆に、嬢ちゃんの杖を見てやってくれと頼んでやった。後で寄ってけ」
と告げられた。
訓練場で新しい槍を試すと、〈騎士の槍〉よりも僕の魔法との相性が良いのか、ほんの少し魔力を流すだけで炎をまとい、突き出すと先端から炎の玉が発射された。
的は一撃で吹き飛んだ。
「この前の槍より、威力が凄くないです?」と訊くと、
「お前に合わせて造ったから当たり前じゃ」
と笑われた。
レジエンに礼を言ってから二軒隣の工房を訪ねたが、そこはレジエン以上に伝説化した杖職人の工房で、またしてもギルドマスターにあきれられることとなる。
確かに二軒隣には、魔法杖の看板を掲げた工房があった。
ドアをノックすると、「空いておりますから、お入りなさい」と、優しい声がかけられる。
声の印象そのままの、穏やかな雰囲気の女性が一人、椅子に腰掛けていた。
僕たちを見るなり、「ナナコルさん、お久しぶりですね」と微笑み、
「こちらが、グラバルから連絡のあったクラマさんですね」
と続けた。
そして僕に向き直り、
「私はナナコルさんと同じく、女神のルイニルです」
と自己紹介された。
ナナコルが「えっ、先日お会いしたルイニル様ですか」と声を上げると、ルイニルは小さく頷き、
「驚くのも無理はありません。先日お会いしたときとは違う姿でしょう?」
と微笑んだ。
「地上で年月を重ねているにもかかわらず、いつまでも若い姿のままでは、皆さんが気味悪がりますから。この姿にしているのです」
さらに声を潜め、
「レジエン他の皆さんには、私は魔法杖職人の“ルイニル婆さん”ということになっています。今の話は内緒にしてくださいね。もちろん、私もお二人の秘密は守りますから」
と告げられ、僕とナナコルは顔を見合わせてから、大きく頷いた。
「それはさておき、ナナコルさんの杖を作って差し上げないといけませんね」
そう言ってから、
「今お持ちの杖をすべて見せていただけますか」
と促される。
収納から〈女神の杖〉二本と〈白木の杖〉を取り出すと、ルイニルはそれぞれを見比べ、
「冒険者がこの杖を使うのは、問題が多すぎますね」
と〈女神の杖〉を指差し、続けて、
「こちらは、魔力の無駄が多すぎます」
と〈白木の杖〉を示した。
「この杖に魔石を組み込めばいいのだけれど……」
と呟きながら、
「良さそうな魔石はないかしら?」
と探す素振りを見せたので、収納から〈騎士の剣〉を取り出し、
「ここに付いている魔石は使えませんか?」
と尋ねた。
剣を手に取り、魔力を込めて確認していたルイニルは、
「この魔石を使えば、良い杖になります。ただし、外してしまうと剣としては使えなくなりますね」
と告げた後、ふと思い出したように、
「そういえば、クラマさんは便利なスキルをお持ちでしたね」
と意味ありげに笑いかけてきた。
僕は苦笑しながら、魔石だけを複写して手渡す。
ルイニルは右手に〈白木の杖〉を、左手に魔石を持ち、魔力を込めながら、
「〈合成〉」
と唱えた。
杖と魔石がそれぞれ淡く光り、次の瞬間、魔石の組み込まれた一本の杖が完成していた。
「これなら大丈夫ね」
そう言って杖をナナコルに手渡すと、彼女は受け取り、
「前よりも、手になじみます」
と深く頭を下げた。
お礼を言って工房を出ようとすると、ルイニルから、
「このお金は、レジエンから受け取ったことにしておくわ。二人の冒険者資金にしなさい」
と手渡され、断ることもできず、そのまま受け取ることにした。
工房を出た後、ナナコルがじっとこちらを見て、
「……ルイニル様の〈合成〉スキル、複写しましたよね?」
と咎めるように言ってきたので、素直に頷いておいた。
どうやらレベルが上がったらしい。
鑑定をしなくても、スキルを使う場面を見ただけで、複写できるようになっていた。
ルイニルにお礼を言って帰ろうとすると、それまでぐっすりと眠っていたカルクが目を覚まし、『おなか減った』と念話を飛ばしてきた。
寝ぼけていたせいか僕を意識せずに飛ばしたようで、ルイニルにも届いてしまい、
「あらあら、起きちゃったのね。夕飯には早いから、おやつでいいわね」
とクッキーのようなお菓子を出してくださり、お茶まで淹れていただいたので、僕たちもご相伴にあずかった。
おなかが膨れたのか、うとうとし始めたカルクを抱いて帰ろうとすると、
「ここには、いつでも来ていいのよ」
と言っていただき、ナナコルは嬉しそうに微笑んでいた。
レジエンの工房にも顔を出し、
「ルイニル様に杖を造っていただきました」
とお礼を伝えてから、ギルドへ向かって歩き始めた。
ギルドに着いて受付のユミルと顔を合わせると、指先を上に向けて
「二階へどうぞ」
と、いきなり案内された。
応接室では、
「やっと戻ってきたか」
と待ち構えていたギルドマスターから質問責めにされ、
「遅くなったのは、ルイニル様に杖を直していただいていたからです」
と説明すると、
「お前たち二人には、あきれるというか……何と言えばいいのか。
ルイニル様はレジエン様以上に依頼を受けてくださらない方でな。
お前たちに造っていただいたことは、他の冒険者に訊かれても絶対に話すんじゃないぞ」
と、念を押された。
ギルドマスターも知らない、ルイニル様の秘密を知っている僕たちは、苦笑するしかなかった。
何だか、いつも以上に疲れてしまった一日だった。
教会に戻って食事と入浴を済ませると、何もせず、そのまま眠ってしまった。




