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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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6/10


「美咲~、ご飯だよ~」


「は~い」


グリの呼びかけに、美咲はパピが刈った下草を熊手で集めていた手を止めて返事をする。


「集めた草を捨ててからだからな」


「分かってるよ」


今日は神社の森の下草がだいぶ育ったので掃除していたところだ。

これを怠ると森の中が歩きづらくなるだけでなく、虫が増え虫を餌にする小型魔物が増えやがて大型の魔物まで出るようになるので美咲の遊び場がなくなってしまうから必死だ。


この神社にプライベートダンジョンを展開させてから既に七年が経っていた。

プライベートダンジョン内の様子を見る限りこの世界は日本の平安時代を思わせる雰囲気があるが、所々に文化文明の違いが見えるのでやはり異世界といった感じだった。


美咲は前世の名前をそのまま名乗り、グリとパピは前世で甥っ子から貰ったシーサーの置物に付けていた名前をそのまま付けた。


ちなみに名付けの由来は、グ○コとパ○コ。素焼きの磁器なのにとっても愛嬌があって可愛くお気に入りだったので付けた名前で、グリとパピは元は狛犬だけれどなんとなくそれ以外思いつかなかったというのが正直なところだった。


でもそのお陰か前世からの知り合いのように打ち解けることができて、今では本当の家族のように親しんでいる。


グリもパピも身長や体型にはまったく違いがないが、パピが阿形で女性グリが吽形で男性、パピは明るく活発でとにかく元気、グリは頭脳明晰で慎重派と言った感じ。それに元が霊獣なだけあって二人ともとっても強くとても頼りになっている。二人が一緒なら美咲は怖いもの無しだった。


集めた下草すべてを堆肥を作る場所へと運び、手水舎で手を洗い口をすすぎ社務所へと戻るとお膳の上におはぎが用意されていた。


「またおはぎか…」


「贅沢を言わないでくださいね。この時期は食材が少ないのですよ。もう葉っぱは嫌だと言ったのは美咲じゃありませんか。それに砂糖も餅米も高級品なのですから、下界ではそう簡単に食べられる物ではないのですよ」


グリとパピはプライベートダンジョンの外を下界と呼んでいた。


「ごめんなさい…」


別におはぎが嫌いな訳ではなく寧ろ好物だが、前世の記憶があるせいでつい他の料理を望んでしまっただけだ。

望んでもそう簡単に手に入らないのは理解しているつもりだったが、さすがに何回も続けば飽きるのは仕方ないと思う。

望めばいつでも何でも手に入れる事ができた前世がどれだけ贅沢で恵まれた世界だったのかを改めて理解した。


「そうだ。お供えしなくちゃ」


「今朝ちゃんとしましたよね。そう何度も必要無いと思いますよ」


不思議な現象なのだが、プライベートダンジョンの外の神社にいくらお供えしても神は受け取ることはしないのに、プライベートダンジョン内の祭壇にお供えすると実際に物が消える。これは神が実物を受け取っているからなのだとグリが教えてくれた。


なのでついでと言っては叱られるだろうが、あの不思議な空間に居た老人に話しかけながら同じ祭壇に供えている。それらも消えるところを見るとちゃんと受け取ってくれていると思う。確認はしていないしグリにも分からないらしいから確証はないのだが、美咲はそう信じていた。


「いいからさっさと食べてしまえ。休憩したら今日中に森の掃除を終わらせるからな」


「はぁ~。頑張るよ」


「まぁまぁ、午後からは僕も手伝いますしすぐに終わりますよ」


グリは午前中は一人で社務所や神社内の清掃をしたり、いつの間にかご飯作りや洗濯が担当になっていた。

そしてグリとパピは元が霊獣だからかご飯を食べなくても大丈夫らしい。時々変わった物が手に入ると一緒に食べることもあるが、あくまでも興味から食べてみるだけで食欲自体がまったく無いようだ。


そもそも美咲はこの神社で飼っていた山羊の乳で育った。その山羊も居なくなり、下草の処理が追いつかなくなったので手伝っているといったところだ。


これも不思議なのだが、プライベートダンジョンでの行動が外の世界にも多少影響が及ぶこともあり、ダンジョン内で草を刈れば現実世界の草も綺麗になったとグリとパピが驚いていた。

物や場所を借りても何の影響もないのに、なんとも本当に不思議な話だった。


神主さんは精霊の悪戯と呼んで納得しているようなので問題はないとはいえ、神社のお供え物をしょっちゅういただいているし、社務所内にある物資や食材も遠慮なく使わせていただいているので、そのお詫びだと思えば当然の行動だとも言えた。


「明日からは美咲も魔物退治だからな」


「えぇぇ~、まだ早いんじゃないかな…」


プライベートダンジョン内に出る魔物は今までグリとパピが退治してくれていた。

魔物と言ってもこの神社に出るのは虫や昆虫類が多くたまにネズミが出るくらいで、プライベートダンジョン内の魔物は現実で人間と関わりのある生物以外がそのまま魔物になっているようだった。


だけど、前世の子供の頃なら喜んで昆虫を追いかけ回せたが、大人になってからは何故か虫が苦手になり、見るのも触るのも嫌だった影響のままに転生したので、正直できることなら魔物退治はこのままずっと遠慮したかった。


「何を甘えたことを言っている。下界ではおまえの歳ならもう既に働きに出ている子供も多いのだぞ。それにいつまでもここに居ることもできないだろうが」


「別に私はずっと今のままでもいいよ」


このプライベートダンジョンから出るということは、グリとパピともお別れしなくてはならないということだ。

グリとパピはこのダンジョン内だから今の姿で行動できている訳で、ダンジョンを消したら元の狛犬に戻ってしまう。

転生するときは独りで完結させる人生を望んでいたが、今さら独りになんてなれないし、それは寂しすぎると思っていた。


「それではこの神社の倉庫に眠る神器をお借りしましょう」


グリは美咲が魔物を恐れていると勘違いしたようでそんな提案をしてきた。


「この神社に神器なんてあるの? それってやっぱりスゴい物? 私が使って大丈夫なの?」


「ええ、美咲ならきっと使いこなせますよ」


「あぁ、アレか。アレはいい。きっと神も喜んでくれるだろう」


神器といえば三種の神器と呼ばれる剣と鏡と勾玉じゃないのかと思いながら、美咲が使いこなせ神様が喜んでくれる神器とはいったいどんなのか興味が湧いた。


「その神器ってどんなのなのか早く教えてよ」


「瓢箪ですよ」


「瓢箪?」


「あらゆる邪気を吸い込み、体を清め病を癒やす効果のある酒を作るとされている神器です。ですから魔物もきっと吸い込んでくれるでしょう」


「それって…」


確かに凄いと美咲は考えた。言ってみれば魔物も邪気の塊であるし、その魔物を瓢箪が吸い込んでくれるのなら魔物と戦う必要はなくなる。

そして何より、その魔物がなんだか健康に良さそうなお酒になるなら間違いなく神様も喜んでくれるだろう。

だが、しかし、魔物が原材料のお酒を自分で飲むのは少し抵抗を感じてしまうというか嫌だなと思っていた。


「でもそんな凄い神器持ち出して大丈夫なの?」


「長年倉庫の隅に仕舞われたままです。神主も忘れているようですからきっと大丈夫ですよ」


そんな凄い神器を本当に忘れることなどあるのだろうかと美咲は少しだけ疑問に思うが、もう既に使ってみたいという思いの方が強くなっていた。


「分かった。明日から私も一緒に戦ってみるよ」


「よっしゃ、決まりな。それじゃさっさと終わらせちまうぞ」


今にも外へ出て行こうとするパピをグリが慌てて止める。


「美咲のご飯がまだ済んでませんよ」


「あっ、悪い悪い」


「先に始めててもいいよ。私も食べたらすぐに行くから」


「じゃあ先に始めてるな~」


パピが元気に外に出て行くのを見送りながら、美咲もなんだか少しワクワクし始めていた。



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