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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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5/11


(ぎゃっ!)


一瞬の浮遊感があり、抱かれていた自分が女の手から離れ落下しているのだと悟り、身も心も縮み上がる危険を感じていた。転生して間もないというのに走馬灯が駆け巡っているのを見た気さえした。


トスッ!


少々衝撃はあったがとても優しく柔らかい何かに受け止められ、取り敢えず命の危険からは脱したのだと安堵の溜息を吐く。


「あ~ぁ危なかったね」


「ホントよ。私達が間に合わなかったらどうする気だったの?」


ホッとしたような男の声と誰を責めているのか怒りを含んだ女の声がして、訳は分からないが多分自分はこの二人に助けられたのだと知る。


そして一瞬プライベートダンジョンのスキルが発動したのだと思っていたが、ここに自分以外の人が居るとなるとどうやらそうではなさそうだと考え直す。


しかしそれにしたら、さっきまで自分を抱いていた女はいったいどうしたのか。殺される危険は本当に去ったのか。そもそもこの二人は何者で、なぜ自分を助けてくれたのか。

分からない事が多すぎて、途端に不安がぶり返し頭も混乱し始める。


「まぁまぁ、間に合ったんだから良いだろう」


「そんな問題じゃないわ! フンッ」


「あぁ~ぁぁぁ、うぅぅ~うぅ…」


(大変恐縮なのですが、私はまだ目も見えず口も利けません。どこのどなた様か存じませんが助けていただき大変ありがとうございます)


思った通りたいした発音もできないので、取り敢えず心の中で心からの感謝だけは述べてみる。人間誰かに何かをして貰ったらお礼を言うのは当然で、ましてや多分命を助けて貰ったのなら尚更だろうと思ったからだ。


「あら、まぁ、びっくり」


「ただの赤ん坊じゃなさそうだね」


「ただの赤ん坊がこんな変わった能力を使える訳ないじゃない。でもまさか目も見えず口も利けないとは思ってなかったわね。だってこの子の魂は大人のソレよ」


「僕たちは少し勘違いしていたみたいだ。ごめんね。少なくともその体は本物の赤ん坊ってことだね。了解。僕たちがすべきことが分かったよ。任せて」


どうやら思っていた事は通じたようだった。それに自分が転生者だというのもなんとなく理解して貰えたようだと少しだけ安心する。


「何が分かったって言うのよ。意味分かんない。もっとちゃんと説明しなさいよ!」


独り納得する男に女がイライラをぶつけているようだが、それは自分も知りたいところで是非詳しく聞かせて欲しいと心の中でおもいっきり頷いていた。


「神は僕たちにこの子を助けるようにと命じただろう。あれはさっきの怪我を防ぐことだけじゃなかったって事だよ」


「じゃぁいったいどういう事よ」


「この子を育てこの先も助けてやれって意味だったんだよ」


「でも私達はこの空間からは出られないわよ」


「だからこの空間に居る間はってことだと思うよ」


(この空間って、もしかして私のプライベートダンジョンのことかしら? この二人の会話から察するにこの二人は神様の使いってこと? あの爺さんが何かしてくれたのかしら?)


「爺さん言うな!!」


突然怒鳴られて、またもや体が竦み上がる。そして確かに爺さんはちょっと失礼かも知れないと反省した。


(ご、ごめんなさい…)


「僕たちはこの神社に御座す神の使いで、この神社を守護する者だよ。何故かこの空間では実体を伴い動くことができるんだ。不思議だね」


(と言うことは、あの老人が特別に何かしてくれた訳ではないのか。でもお陰でここが間違いなくプライベートダンジョンの中だというのは理解できたよ。それにしてもダンジョンが神社ってどういう事だ?)


二人の会話から色々と察することはできたが、また新たな疑問が湧いていた。


ダンジョンと言ったら普通洞窟だったり遺跡だったり草原だったり森林だったり色々あるが、たいていは地下へ地下へと階層深く続いていたりするものじゃないのだろうか。なんだか自分が想像していたダンジョンとは少し様子が違うようだと考えていた。


(あ~ぁ、目が見えないって本当に不便だわ)


「君が持つ力でこの神社に特別な空間を作ったんだよ。本来の神社が消えた訳ではないからきっとここは現実とは違う次元にあるんだろうね」


(なるほど、プライベートダンジョンって現実にある場所をダンジョン化させることができるってことか…)


「あんたその姿じゃ何もできないんでしょう。仕方ないから私達が育ててあげるわ。感謝しなさいよ!」


(ありがとうございます。お願いします)


この場所が元々神社のある場所で、自分はそこでプライベートダンジョンスキルを発動させ、神社をダンジョン化させたと言うことなのだと漸く納得できたけれど他にも問題は山積みだ。


だが取り敢えずこのダンジョンでこの二人に育てて貰えるのならこんなに安心なことはない、それに多分きっとこの二人は神社の狛犬なのだろうことも理解した上で安心して身を任せられると喜んで感謝する。


そしてここには他の誰も入ることはできないのだから、ここに居れば少なくとも命を狙われる心配は無いのだと思うと漸く体中から力が抜けていった。


(あっ、安心したら途端にお腹が空いたよ…)


さっきまでは空腹など微塵も感じていなかったのに人間の体とは不思議なものだ。お腹は鳴らなかったが食欲が途端に湧いてくる。これが生きたいと願っている証拠なのだろうかと思う。


「えっと、赤ん坊のご飯って何をあげれば良いのよぉ~。私は知らないわよ!」


「山羊の乳で良いんじゃないかな。僕少し貰ってくるよ。大丈夫慌てないで。それより何か…。そう綿か何か布でも用意しておいて」


「分かった。新しい綿布があった筈だわ。取ってくる!」


そうして狛犬の二人は山羊から絞った乳を小さく丸めた綿布に含ませ赤子に吸わせて与え、赤子はその乳で腹を満たすと安心したようにスヤスヤと眠るのだった。


「この子を寝せられる安全な場所を作らなくちゃね」


「用意しなくちゃならない物も沢山あるわよ。ホントこの子ってば、平和そうな寝顔して…。特別な空間を作ったのがここじゃなかったらどうなってたのかしら」


「少なくとも僕たちは何の手助けもできなかったね」


「私一度人間の子供と遊んでみたかったのよね」


「実は僕もだよ」


人間を真似た実態をもって現れた狛犬の二人は、暢気に眠る赤子を嬉しそうに見詰めるのだった。



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