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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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里に戻り訓練場のような場所を見つけそこに簡易お社を設置すると、山登りの疲れが溜まっていたのか何もする気になれず、風呂に入りご飯を食べると美咲はそのまま眠ってしまう。


朝までぐっすり眠った美咲がお寺を目指して山登りを再開させようとプライベートダンジョンから出ると、下界は激しい土砂降りの雨模様だった。


プライベートダンジョン内は時間の経過や季節は下界と変わらないが、天候は下界に左右されることなくいつも晴れだ。何故かは分からない。


慌てて再度プライベートダンジョンを展開させる。


「こりゃダメだな」


パピは雨に濡れるのが好きではないらしく、プライベートダンジョンを出ないと決めたようだ。


「ここで天気が回復するまで時間を潰すか、このままお寺を目指すか悩むところですね」


グリはここで時間を潰すなら思念玉の消滅をしてしまおうとでも考えているのだろう。


「う~ん…」


土砂降りの雨の中山を登る自信は美咲にはまったく無かった。と言うより、視界も悪いし足下もぬかるみ滑りやすくどう考えても危険だろう。


しかしプライベートダンジョンを展開させたままの移動となると所構わず魔物が現れるので、戦闘をしながらの登山は危険も伴うし何より疲れが倍増だ。


美咲はしばらく悩んだ末に、プライベートダンジョンを展開させたまま登山をすることに決めた。

美咲にそう決断させた理由はこの里の気味悪さだった。


人の気配は少なく何とも暗く重々しい閉鎖的な雰囲気が、簡易お社に居ても美咲を落ち着かせることはく、何故か知らないがまるで危険を知らせるように気持ちがざわついて仕方なかった。


一刻も早くこの場所を立ち去れと、まるで誰かに追い立てられているようで、美咲達は急いで里を出る。

美咲が知ることはなかったが、この後土砂崩れに遭いこの里の殆どが埋まってしまったので、その危険を事前に察知していたのだろうと思われた。


仕方なく宝棒を杖代わりにさせて貰い、一応美咲も魔物に対処しながら必死に山を登り、夕暮れ前にはどうにかお寺に着いた。


「はぁ~~~。やっと着いたぁ~」


「お疲れ様でした」


「美咲はもっと体力を付けなくちゃダメだな」


「分かってるわよ。でも今はまだ成長期なんだから仕方ないでしょう」


パピに反論するだけの余力を残し到着できたのは、美咲も少しは登山に慣れたのかも知れない。


とても怖そうな仁王像が出迎える霊験あらたかなお寺のお堂は然程大きくもなく、作りもお世辞にも立派とは言いがたい雰囲気だった。


しかし本堂へと向かう回廊に入り美咲はとても驚いた。小さいながら木彫りの仏像が所狭しと並べられていたのだ。


彫りの甘い物拙い物もあるが、個性豊かな仏像の中で特にオーラでも放つかのような仏像を見つけ、美咲はその仏像の出来映えにとても感動し、さすがに手に取るのは恐れ多いと思い近づいて繁々と見詰めてしまう。


「こういうのを彫れる人ってホント凄いよね。なにが違うんだろう」


一言で言ってしまえば才能の違いなのだろうが、センスとか作品に対する思いとか技術の熟練度みたいなものがきっと段違いなのだろうと美咲は考えた。

そしていつか自分もこういう物を作れるくらいに何かを極めてみたいと思わされる。


たっぷりと時間をかけて一体一体並べられた仏像を堪能しながら本堂に入ると、そこにはこれまた立派な雰囲気の仏像が祭られていた。


とっても優しい慈愛に満ちた穏やかな表情の仏像に美咲は心が震えた。


仏像を見てその名前が分かるほど神様に詳しくも信心深くもないが、その仏像には確かに神が宿っているようなそんな気にさせられる何かがあった。


美咲は思わず仏像に手を合わせしばらく拝んでいて気付く。


「あっ、そうだ。お供えが先だよね」


美咲はゴールドなスライムで作った酒が入った酒壺を仏像に供え改めて手を合わせる。


「本日はお招きありがとうございます。どうぞお納めください」


美咲がそう呟くと仏像の置かれた辺りから光が発せられ、辺りは一気に眩しく白い世界へと変わる。


「よくぞ参った。お主の願いは分かっている。かの者の魂は既に六道輪廻に入った。この先は私にも手出しできぬ、ここから先はお主自身の問題だと知れ。お主自身のことはお主にしか解決できぬのだ諦めよ」


「えっと…」


仏様の言っている事はなんとなく分かるが、完全に理解はできないというか納得できなかった。


「とは言え、この酒の礼に私からも一つ役に立ちそうな物を貸し与えよう。その金剛鈴が鳴らす澄んだ美しい音色は仏を喜ばせ努力する者を励ます。それにお主が持つ思念玉とやらの消滅の手助けもできるだろう。これからも励むがよい」


仏様はそう言い残すと光は徐々に弱まり辺りはすっかりと元に戻っていた。


今回は一応会話はできたようでもあったが意思の疎通はまったくできた気がしないし、その姿を見ることもできなかった。


今までの一方通行状態と何ら変わりないじゃないかと少しばかり不満を抱くが、少女の魂は既に転生するための準備に入っているのだと知れた。

ならば次の生では絶対に幸せになってくれと今は願うしかできないのだと納得するしかなかった。


「どうでしたか」


グリが美咲の様子を見て心配そうに問いかける。


「輪廻を司る神様ではなかったみたい。でも神器を貸して貰えたよ」


美咲は金剛鈴の効果をグリに説明するとグリはさっそく思念玉を背負っていた鞄から取り出した。


「ではやってみてください」


美咲はグリに促され金剛鈴を優しく振ってみると、チリンチリンと優しく澄んだ音色が本堂中に静かに響き渡る。


そして仏様の言った通り、金剛鈴の音の振動に刺激されるかのように震え思念玉は次々と消滅していくその様子は、まるで思念を残した魂ごと浄化されるかのように穏やかな雰囲気だった。


美咲は思わずこのすべての人が自分が今こうして転生し幸せに過ごしているように、次の生で幸せに過ごせるようにと祈っていた。


「凄いな」


パピも何かに感動しているように呟いている。


「これからも怨霊の浄化に励めということでしょうか」


グリが独自の解釈をしているみたいなので、美咲は慌てて否定する。


「それだけじゃないと思うよ。だって仏を喜ばせ努力する者を励ますって言ってたんだから」


このままじゃ怨霊退治にばかり力を入れろと言われかねないと心配したのだ。


勿論それも大事だろうが、美咲は他にもやりたいことが山ほどある。

今度の人生は自由気ままにと決めていたのだから、これから先もやりたいことはすべてやろうと思っているし、時々はゆっくりまったりと過ごしたいとも思っている。


だから旅をさせられるのではなく、毎日幸せを感じる余裕を持って、そしていずれは定住したいと思える場所を見つけるために旅を続けるのだ。


その時々に目的が変わったとしてもそれだけは変えたくないと美咲は改めて思う。


「分かりました。何にしても次はどこを目指しますか?」


「そうねぇ…」


美咲はここの仏様に自分自身の問題だと言われたが、まだ輪廻を司る神様との出会いを諦めてはいない。


「何か美味しいお供えを探しながら気長に輪廻を司る神様と出会えるのを待ちましょう。どうせ街へ行けば怨霊退治しなくちゃならないだろうしね」


大抵の怨霊は街に居る。やはり人が多い場所ほど怨霊の数も多いと分かっている。


「では取り敢えず下山しますか」


「でも今日はここでゆっくりさせて貰いましょう」


お寺の境内に簡易お社を設置しゆっくり休ませて貰うと、早朝山頂から登る朝日を拝み改めて旅を続けるために出発する。


下界はすっかりと雨もやみ晴天で、まるで美咲の新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。



ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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