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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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「ねぇ、少し休もうよ。これじゃまるで何かの修行でもしてるみたいだよ」


まったく舗装されていない険しい山道を歩きながら、美咲はもう何度となく休憩を要求し嘆いていた。


「美咲がこの寺を選んだのですよ」


「そうだけどさぁ」


神様と確実に会話をするためには、霊験あらたかなかなり格の高いお寺に行った方が良いと判断したのは確かに美咲だった。


しかしまさかそのお寺が人里離れたこんな山の上にあるとは思ってもいなかった。


山を越え、谷を越え、歩きやすい道も階段もない中を行くのは本当に大変で、体力も気力もゴリゴリと削られていく。


風早領のダンジョンに戻り妖石の回収をし藤上領のダンジョン衰退を止めた美咲達は、新たな目的、輪廻を司る神様を探し移動を始めていた。


「休んでばかりじゃいつまで経っても着けないぞ」


さすがのパピも藪山を分け入ってまで魔物退治に行く気にはならないのか、大人しく登山に付き合っている。


それより何より問題なのは、簡易お社を設置できそうな場所が今のところまったく見当たらないことだった。


ちょっとした川辺を見つけキャンプ気分で設置を試みたが、岩や石がゴロゴロとしていて安定しないためか設置できず、ここへ来て簡易お社の弱点を見つけたのだった。


なので美咲はこの高く険しい山に入ってから休憩らしい休憩が取れていない。


(峠の茶屋とか展望台とかあっても良さそうなのに…)


海育ちの美咲は車移動でしか山に行ったことがなく、前世でも歩いて山に登るなんて経験がなかったので山を完全に甘くみていた。


それにここは文化もあまり進んでいない異世界なのだから、登山道や山小屋なんて施設がないことなどちょっと考えれば分かりそうなものなのに、簡易お社があれば大丈夫だと軽く考えていた。


「彼方の方角からなにやら妙な気配がしますね」


「邪気が濃いな。美咲、もの凄い魔物か怨霊がいるかも知れないぞ」


突然立ち止まり何かを訝しむグリに乗じてパピが面白そうに美咲を煽る。


「えぇぇー。私はなにも感じないよ。山道から外れるのはやめようよ。迷うだけだよ。こんな山中で迷ったらそれは遭難だよ。下手したら死ぬよ」


グリもパピもお寺に向かう山道とは別の方角に興味を示しているが、そもそもそちらへ向かう道など無いので美咲は絶対に行きたくないと必死に抵抗を試みた。


「私達が居るのにあり得ませんね」


「怨霊だったら美咲にしか祓えないんだ。行くしかないだろう。きっと祓い甲斐があるぞ」


「祓い甲斐なんて望んでないし期待してないから!」


「諦めが悪いぞ」


「もしかしたらお社を設置できる場所が見つかるかも知れませんよ」


「えっ、ホント!?」


美咲は簡易お社が設置できるかも知れないと聞いて途端に期待を膨らませる。グリが言うことなので信憑性は高い。


「どのみちこのままお寺に向かっても夕暮れまでに到着できそうもありません。ならばしっかりと休める場所を探した方が良いでしょう」


「そ、そうよね」


「じゃあ決まりな!」


パピが藪をかき分けると獣道のような細い道が現れた。どうやら巧妙に隠されていたようだ。


その道を辿りしばらく歩くと小屋のような家が十軒ちょっと建ち並ぶ開けた場所に出た。


まるで隠れ里のような静まり返った雰囲気に興味を示すでも驚くでもなく、美咲は簡易お社が設置できそうな場所を探した。


しかし突然人の気配を感じ、美咲は慌ててプライベートダンジョンを展開させる。と、里の裏山方向にもの凄く大きな魔物が現れ、美咲は思わず腰を抜かしてしまう。


「なっ、な、な、なによあれ!」


その姿はまさに魑魅魍魎と呼ぶに相応しい、ムンクの叫びのムンクが何十体と絡まり合っているようなとても気味の悪い魔物だった。


「ここまでの怨霊は見たことがありませんね」


「あ、あれが怨霊だって言うの!?」


「怨霊の塊だな」


美咲が今まで祓ってきた怨霊は可愛いものだったのだと思わされる。多分気球より大きなその怨霊を見上げ、あれを祓わなくてはならないのかと思うと気持ちがどんどん重くなって行く。


「私に祓えるかな…」


「美咲ならきっとできますよ」


「守りは私達に任せてガンガンやるといいぞ」


「ガンガンって…」


パピの言葉がなんだかツボり、重かった気持ちが一瞬で晴れ思わず微笑んでしまった。


「あの場から動く気配はありません。取り敢えず行ってみましょう」


美咲達が怨霊の居る裏山へと足を運ぶとそこには小さな祠があり、その祠を拠点にして怨霊の塊が気味悪く蠢いていた。


以前の美咲だったならば、間違いなく嫌だと言って強く拒否っていただろう気味の悪さだった。


「ではやりますか。グリもパピもお願いね」


美咲はグリとパピに声を掛けると払子を両手で持ち、蠢く怨霊の塊に向けてどうか心安らかに成仏してくださいと願いながらがむしゃらに振った。


勿論怨霊も反撃をしているのか何かを飛ばしてくるが、そのすべてをグリとパピで打ち返すように対処してくれるので、美咲は安心してひたすらに払子を振り続けた。


すると怨霊は徐々に小さく萎んでいき、やがて人型になった怨霊が一人残る。


美咲はそれを確認し気合いを入れて払子を振ると、なんだか怨霊が笑ったように感じた。

それにありがとうという誰のものかも分からない声が脳内に響いた気がした。


「終わった…」


美咲は怨霊を無事祓えたことに安堵し思わずその場に座り込んでしまう。


「よくやりましたね美咲」


「おー、偉い偉い。ちゃんとできたじゃないか」


「うん、ありがとう」


辺りには大小様々な思念玉が山になっていて、そのうちの一番大きな思念玉をグリが手に取った。


「最後の怨霊は多分かなり古くからこの場に居たのでしょうね」


「そんなことも分かるの?」


「この思念玉の消滅にもまた時間が掛かりそうですね…」


美咲の問いには答えずにグリが小さく呟く。美咲は答えは貰えそうにないと諦めてグリとパピに提案する。


「ここならお社を設置できそうだし、しばらくここに滞在する?」


「それもいいですが、もしかしたら今から行くお寺の神様ならこの思念玉を引き受けてくれるかも知れませんよ」


「そうね。そうできると良いね」


美咲もグリが言うようにどうせなら神様に思念玉を預けた方がちゃんと成仏できるのではないかと思えた。

それに本当に輪廻を司るというのならこの思念玉もきっと悪いようにはしないのではないかとも思うし、何よりこれをまたグリ一人に押しつけるのは申し訳ない気もする。


「でも今日はここで休んでいくわよ」


「ここで良いのか? かなりの数の骨が埋まってるみたいだぞ」


「げっ!!」


「里に戻って設置できる場所を探しましょう」


すっかり座り込んでいた美咲はパピの言葉に慌てて立ち上がり、グリの言うように里に戻って簡易お社を設置できる場所を探すのだった。



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