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妖石は石炭のように燃料として使われているのだが、クズ妖石では石炭のように長時間燃えることもなく、また燃える時の匂いがたまらなく臭いので当然買取価格もかなり安い。
かといって磨いても宝石に活用できる訳でもないのに毎日一定数入荷されるので、何か別の使い道はないかと模索していたらしく、隼人は迷うことなく買い取ったそのすべてをダンジョンの成長に使うと決めた。
それと同時に採掘者を何階層まで攻略できるかでランク付けすることにし、組を纏める長に妖石が採掘者強化の助けになることを教え、クズ妖石を使って低ランク採掘者の成長を推奨し、深層を攻略できる採掘者を育てるように檄を飛ばした。
またそれに伴い妖石の買取価格も大幅に見直され、クズ妖石はタダ同然になったが、その代わり大きければ大きいほど高い値を付け採掘者たちにやる気を促した。
初めのうち組長達はクズ妖石で高ランク採掘者達のレベルアップを試みたが、クズ妖石では大した効果が無いと判明すると、隼人が推奨するように低ランクの採掘者のレベルアップに移行する。
しかしその頃には肝心の低ランク採掘者の大勢が組を離れ個々に活動するようになっていた。
隼人同様採掘者達も自分で考え自分で選択し行動することを選び始めたのだ。
そしてそれが影響したのか家族でダンジョンに入る者も増えたので、子供はダンジョン管理課で預かり読み書きや計算を教え始め、またダンジョン管理課の下仕事を手伝える子には幾何かの賃金を与えた。
それが功を奏したのか、今までは底辺仕事とされていた採掘者の登録数が急激に上がり、隼人もだいぶ喜んでいた。
「当初心配していた財政に関してましては貴重鉱石の採掘量も増えまったく問題なく、採掘者が増えたというのにダンジョンでの採掘者達の争いも減り、ダンジョン攻略は確実に進んでいます。すべては八太様のお陰です」
隼人は自分が戸籍を提供しただけあって、グリのことは八太パピのことは美富と徹底して呼んでいるが美咲はいまだに慣れず、なんだかどこかムズムズして聞いていた。
「そんなことはどうでもいい。それよりも調べてくれているのか?」
「はい、勿論です」
グリとパピが手に入れてきた妖石は藤上領の物だと知りながら、隼人は適正な値段で買い取ってくれた。
もっともこの作戦の首謀者となっているのだから当然と言えば当然なのだが、隼人のためにも藤上領から持ち出したことは絶対に誰にもバレる訳にはいかなかった。
なので念のためダンジョンの調査と銘打って一時ダンジョンへの立ち入りを禁止し、隼人と一緒にダンジョンに入り、三万を超える数の妖石と隼人の用意した妖石をボスフロアの穴に収め、ダンジョンの階層が増えたことを確認し既に王に報告済みだ。
隼人はグリとパピが手に入れてきた妖石の三万という数にも驚いていたが、その殆どの大きさがクズ妖石と比べ物にならない物ばかりだったことに驚愕していた。
とりあえず第一級難解ダンジョンと呼ばれるまでもう少しといったところだと推察した隼人は、何層までダンジョンが成長したかの調査をグリとパピに頼んできたので、グリは報酬として美咲の兄の調査を依頼していた。
どうやら美咲を探してあちこち移動しているらしく、グリではその居場所を探ることができなかったらしい。
美咲が兄のことを気にしていると知っているからか、それとも今回の復讐に利用しようとしているのかグリの考えは美咲には分からない。
だが、美咲としては今更兄弟の名乗りを上げる気などないが、兄がどんな風に育っているのか確認したかったので願ってもいない取引だった。
「では行ってくる」
グリとパピに連れ立って美咲も席を立つ。
「えっとぉ八太様、申し訳ありませんが子連れでの入ダンは正式に禁止しておりまして、美咲様はここダンジョン管理課でお預かりすることになります」
「…」
「美咲を連れて行けないなら私は行かないぞ」
グリは顔をしかめ、パピは抵抗した。
プライベートダンジョンを展開させて入ダンすれば美咲が一緒に入るのも可能だとは思うが、隼人にプライベートダンジョンのことを明かす気はない。
となったらここはやはり大人しく隼人の指示に従い留守番をするしかないと美咲は考えていた。
「しかしですね。ここで特例を作ってしまいますと」
「ならばこの話は無かったことにしてくれ」
隼人の言葉を遮りグリが厳しい表情で詰め寄る。
「えっ、あ、あの、そっ、そのぉ、それでは…」
まさかグリまでもが反発するとは思っていなかったのか、隼人は途端にあたふたしだした。
「あなたは何か勘違いしている。私達は美咲が望むことを叶え守るためにある。だから美咲のためにしか動かない」
「と言いますと」
「美咲を一人にはできないと言っている」
ダンジョンのボスフロアで散々美咲を一人にしておきながら何を言っているのだろうと、美咲はポカンとした顔でグリを見てしまう。
「えっと、一人になどしませんよ。勿論他の子供と一緒に」
「帰るぞ!」
グリはまたもや隼人の話を最後まで聞かず、返事をすることもなく美咲の手を取り歩き出し、パピも当然のようにそれに倣う。
「ちょっ、ちょっとお待ちください!」
慌てて隼人が引き留めるもグリもパピも止まろうとはしないので、美咲は完全に引きずられる様な格好になっている。隼人など完全に固まってしまったようだ。
それでも構わずに歩いているところをみると、グリは駆け引きではなく本気で腹を立てているのだろうが、美咲にはグリが何にそんなに腹を立てているのかよく理解できずにいた。きっとそれは隼人も同じだろう。
「ねぇ、ちょっと待って。何をそんなに怒ってるの? ちゃんと分かるように話してよ」
ダンジョン管理課を出たところで美咲はグリの手を振りほどき尋ねる。
「はぁぁー…」
グリは美咲の呼びかけに漸く立ち止まり、かなり大げさな溜息をついた。
「美咲は自分が神器を三つも携えるこの世界の重要人物なのだともっと自覚を持ってください。三柱様方からもしっかりお仕えしお守りするようにと仰せつかっています。今回の件も美咲がかの者への復讐を望みあやつの手助けを望んだので従いましたが、そもそも私達は下界人の手助けなどする気はありません。だというのにあやつは調子に乗って美咲を他の下界人と同じに扱ったのですよ。絶対に許せない。別に復讐なら他に方法がない訳ではありませんし、兄君の行方も無理に探さずとも帰ってくるのを待つという手もあります。これ以上あやつに従う必要もその気もありません」
「そうだぞ。それに誰か一人に肩入れしすぎては世界の均衡が崩れる危険もあるんだ。美咲はその辺も考えなくちゃダメだぞ」
感情的になっているグリも珍しかったが、至極まともなことを言うパピに美咲は心底驚き、自分が何を言おうとしていたのかをすっかり忘れ目をパチクリしてしまう。
「分かったのなら帰りますよ」
そうして美咲は今度は無抵抗のまま、またもや引きずられながら簡易お社へと帰るのだった。




