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初めは怖々だった怨霊にもすっかりと慣れ、まるで美少女戦士が魔法のロッドを振り戦っている気分でパピに言われるまま街の怨霊を次々と祓って行った。
今では必殺ポーズや決め台詞なんて考えてみようかと思うほどノリノリで、何ならこの街だけでなくこの世界の怨霊退治は任せなさいと言うような気分にもなっていた。
そして怨霊が消滅すると残すあめ玉のような物は大きさもそれぞれ色とりどりで、一つとして同じ物はなかった。
「これいったい何なんだろうね」
パピが綺麗だと感動しただけあって、経験値石のように踏み潰すには勿体ないと思わせる何かだった。
それを入れた革袋の中を覗くとまるで宝石を集めたみたいになっていて、ちょっとだけ気分が良くなり、美咲はなんとなく宝石を収集する人の気持ちが分かったような気がしていた。
「怨霊と化した者の生前の未練や無念や後悔と言った思念や記憶の結晶体のようですね」
「そなのか?」
「それにしてはどれもこれもみんな綺麗だよ」
未練や無念や後悔といったらもっとドロドロしてまがまがしいものの筈なのに、それが結晶体になると宝石のように綺麗になるとは美咲には到底信じられなかった。
それにパピが知らないのにグリがどうして確信を持って言えるのかという疑問もあった。
「多分ですが、成仏するために残していくその思念も浄化させているのでしょう」
「それは変よ。浄化されるのなら消えるんじゃないの?」
「では美咲、これをギュッと握りしめていてご覧なさい」
グリは納得がいかない美咲に怨霊の残した結晶体の一つを握らせ両手でギュッと包んだ。
美咲はいったい何が始まるのかとグリの顔と結晶体を握らされた拳を交互に確認する。
「何も起こりませんか?」
「うん」
「おかしいですね。では試しに浄化を念じてみてください」
美咲には特別な能力なんて無いのに念じても無駄だろうという気持ちもあったが、取り敢えずグリの言うとおりにしてみる。
(浄化、浄化、浄化、浄化…。う~ん、払子で綺麗にするイメージかな?)
美咲は目を瞑り掌の中のそれを綺麗にするイメージをしながら握りしめた掌に力を入れる。すると瞼の裏というか頭の中に突然映像が浮かんだ。それはまるで美咲が前世で良く見ていた明晰夢のようだった。
まだ自我も芽生えていない歩けもしない幼児が暗く閉ざされた狭い部屋の中に一人座っている。
泣き叫ぶが誰かが扉を開け入ってくる様子はなく、やがて幼児は泣き疲れ眠る。お腹が空いてその辺にある物を片っ端から口にするが当然食べられる訳もなく諦めて眠る。その繰り返し。やがて泣く元気も動く気力さえもなくしていく。
前世でいうところのネグレクトなのか、それともこの子の保護者は出かけ先で何かがあり帰れなくなったのか、とにかく大人の気配は全くない。閉ざされた暗闇の中に一人置き去りにされている幼児のその姿それだけで思わず涙が溢れた。
自分に何が起こっているのかも理解できていない、ただただ本能で自分の命の火が消えかけていることだけを理解し、すべてを諦めていると思えるその様子に胸が潰れそうになる。
はっきりとした幼児の気持ちが伝わった訳でもないし、幼児が何を考えていたのかも分からなかったが、暗く鬱々とした重い何かに押しつぶされそうで、見ているだけで辛くなり涙が止まらない。
「大丈夫ですよ」
気付くとグリに抱きしめられていて、握っていた筈の結晶体も掌から消えていた。
「あ、あんなに、うぐっ、幼い子供でも、グズッ、怨霊に、うっ、なちゃうんだね」
美咲はしゃくり上げながらも必死に言葉にした。今ここで吐き出してしまわなかったら、重く重く心に残ってしまいそうだった。
「私には見えませんでしたが大丈夫です。成仏させているのですから。それに多分ですが、伝えたい思いや記憶が残るのでしょう。だから今それが美咲に伝わったことで本当に成仏できたと考えてはいかがです」
グリが言うようにあの子がちゃんと無事成仏できたというのなら、次に生まれる時は絶対に幸せになって欲しいと美咲は心から願った。
「なんだなんだ。いったい何があったんだよ」
事情が分からず美咲とグリのやり取りを静かに見守っていたパピもとうとう痺れを切らしたようだった。
「説明するよりやってみた方が早いですよ」
グリはパピにも結晶体を強く握らせる。
「おぉぉ!」
パピは神気を持つせいかすぐに反応があった。
はっきりとは言えないが、どうやら強く握りしめ浄化を念じるのがキーワードになるようだ。
「問題はこれをどうするかですね」
パピの握っていた結晶体が消えるとグリがそう切り出した。
「世の中には出せないだろうな」
「しかし消滅させるには今のように思念を抜き出さなければなりませんよ」
「私には無理よ!」
結晶体の一つ一つに今のような悲しい物語があるのかと思うと気にはなる。いったいどうして怨霊と化してしまったのかとても気にはなるが、悲しい物語もドロドロの物語も見すぎると美咲の心が病んでしまいそうだ。それにこれは作り話ではないリアルな出来事なのだ。
「そうですね。絶対に人の手に渡ってはいけない物にも思えますし、仕方ありません私達で対処するしかないでしょうね」
「美咲は気にせずどんどん怨霊退治するんだぞ。ちゃんと手伝うから大丈夫だ」
「う、うん…」
パピにバチンと背中を叩かれ気合いを入れられる。
思念の消滅は手伝えないが、確かに怨霊を成仏させるのは美咲にしかできないのならやるしかないと思えた。美咲が見た幼児のような悲しい怨霊は全員成仏させてあげたいと。
「では、これが済むまでしばらくこの街に滞在するとしましょう」
グリが結晶体をすべて消滅させ終わるまでこの街に滞在すると決めたので、明日にでも旅立つはずだった予定はあっさりキャンセルされたのだった。




