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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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「じゃあ次はプライベートダンジョンに入るぞ。アイツらの殲滅だ」


今回も箱に入ったお茶菓子をお土産に貰いご機嫌の美咲にパピが急かしてくる。


領主にも会って欲しいと言う申し出を断ると、隼人は余程美咲達と言うよりグリとの縁を繋いでおきたかったのか、何度も何度も用がなくてもダンジョン管理課に顔を出してくれて構わないと念を押し、すぐにまた旅立つと話すと、最後にはこの街へ来ることがあったら絶対に寄ってくれと縋るようにしていた。


隼人がこの先妖石をどう活用するのかなど美咲はまったく興味無かったが、活用方法が成功しここのダンジョンが格上げされ採掘者達も鍛えられ今よりも潤うことになったら、返って争いのタネになるのじゃないかと言う気がして少し心配だった。


折角知り合い多少なりとも良くして貰った人には不幸になって欲しくない。協力はできないが、できることなら成功して欲しいと少なからず願っていた。


「そんなに慌てなくても良いでしょう。お菓子を確認してお供えを済ませてからにしよう」


今朝は起き出してそのまま出かけてきたのでお社の掃除もお供えもしていない。毎朝の習慣となっていることをしていないのでなんとなく落ち着かなかった。罪悪感と言うより良くないことが起きそうでどこか気持ちがスッキリしない。


簡易お社に戻り菓子箱を開けると、昨日いただいた物ともさっき食べた物とも違う三種類のお菓子が入っていて、美咲のためにわざわざ用意してくれた物なのだというのが一目で伝わってきた。


「ねえ見てみて、凄い気合いが入ってるよ」


かなり奮発してくれたのが分かる内容に美咲はそんなに重要視されたのだと感激するが、グリは鼻を鳴らしただけでパピに至っては興味も無いようだった。


「もう二人とも感激が薄いよ。薄すぎる。ここは感謝してありがたがるところだからね」


「いいから早く供えてしまえ!」


美咲はイライラし始めたパピをこれ以上刺激しないように神棚の掃除をし、毎朝お供えしている酒・水・米・塩にプラスして今さっきいただいたお菓子も供え手を合わせる。お社の掃除は明日纏めてすれば良いだろう。


次はあの老人へ届く転送ボックスにお菓子を入れ手を合わせ、改めて祭壇に払子を乗せその前にお菓子を置き手を合わせる。これで払子を貸してくれた神様にも届くはずだ。

確認すると祭壇のお菓子は無くなっている。どうやらちゃんと受け取って貰えたようだ。


「それじゃ出かけようか。それでどこへ行くんだっけ」


「怨霊の類いが多い場所がいくつかある。今日はあれを祓ってくれ。ただ倒すだけじゃダメなようだ」


「えぇぇ…」


美咲は盛大に溜息を吐く。


(だから私は陰陽師じゃないんだってば…)


パピは美咲の持つ払子があれば怨霊も祓えると考えているようだが、そもそも怨霊と対峙して冷静で居られる自信が美咲には無かった。


それに神気を纏うグリとパピが神気で祓えない怨霊を払子でそう簡単に祓えるとも思えない。


「グリとパピに祓えない怨霊を私がどうにかできるとは思えないんだけどぉ…」


訝しむ美咲にグリが丁寧に説明を始める。


「美咲良く聞きなさい。そもそも神器とは元々神が愛用していた神の持ち物なんです。この世界にその姿を現せない神がその力を発現させるために人間に与えたのが神器の始まりで、言わば神器とはこの世界では神そのものなのですよ。それに対し私達は神の眷属であるために神の気配を少しばかり纏え神の力の一端を与えられ扱えはしますが、比べれば資質も威力も桁違いなのです」


グリの説明にパピはウンウンと頷いている。


「えぇぇーー。じゃぁ私は神様に彫刻を施し腰からぶら下げてたってこと!」


可愛くないからと言う理由で彫刻を施し、普段は腰にぶら下げている瓢箪はちょっとしたバックチャーム気分で、払子に至ってはすっかりハンディーモップ扱いだ。それほど信心深い方では無い美咲でも大それたことをしでかしている気がしてくる。


「安心なさい。それができたと言うことは神がお許しになったと言うことです。要はそれをどう使うかです。分かってくれましたか?」


「払子を使って怨霊を祓えってことだね…」


「それにもしかしたら私達が戸籍をいただいた一家も怨霊と化しているかも知れませんよ。救ってあげられるのだと考えてみてはどうですか」


美咲は顔も見たことのない自分と同じ漢字の名前を持つ少女に思いを馳せた。

グリが言うようにもし本当に怨霊と化していたら悲しすぎる。早く成仏してあの世で幸せに過ごすなり輪廻転生の輪に入るなりして欲しいと心から願う。


戸籍を使わせて貰うお礼に少女の分も自由に幸せに生きると誓ったが、肝心の少女が本当にこの世で迷っていて救えるのが美咲だけしか居ないのだとしたら、ここで怖いだの嫌だのと尻込みをしている場合ではないと本気で思えた。


「分かった。やってみるよ。パピ案内して」


美咲は決意を固め、急ぐパピのあとを大人しく付いていく。


「あれぇ、昨日よりだいぶ魔物の数が減ってるぞ」


下界の何が魔物化しているかにもよるが、基本プライベートダンジョンの魔物の数は下界とそう変わらない。だからパピがそう感じるのなら何か原因があるのだろう。


「昨日はお供えだけでなくお社やお地蔵様の掃除もしましたからね。この地区の浄化が進んだのかも知れませんね」


「そういう事か。言われてみればそんな感じだ」


今まで旅路で出会うお社やお地蔵様にもずっとお供えをして来て、なんとなくその土地にも良いことがあるような気がしてはいたが、まさか浄化の作用を持って魔物の数を減らすなんてことまでできるとは思ってもいなかった。


お供えをしただけでなく掃除もしたから、名もなき神々が本来の力以上のものを発揮してくれたと言うことなのだろうか。


美咲は半信半疑だったがグリとパピがそう言うのならきっとそうなのだろう。何にしても魑魅魍魎の類いの数が減るのならそれに越したことはない。


「それで肝心の怨霊はどこに居るのよ」


美咲は気持ちが萎えて気が変わる前に怨霊退治をさっさと済ませてしまいたかった。


「ああ、そうだったな。こっちだ」


グリとパピが道端や廃墟の中から飛び出してくる魑魅魍魎に似た魔物をばったばったと簡単に倒して行くのを見ながら、美咲は怖いという気持ちを抑え必死に二人の後を追った。


「ほら、アイツらだ」


パピが指差す先を見ると、確かにおどろおどろしいと言うか禍々しいものを全身に纏った明らかに人型の何かが居た。


「アイツらは何度倒しても復活が早い。それに経験値石も落とさないから厄介だ」


「なるほど、それで怨霊と判断したんだね。でも攻撃もしてくるんでしょう。私はどうやって防げば良いのよ」


「神器を二つも携えているのですよ、怨霊の放つ邪気など寄せ付けはしませんよ」


グリが安心しなさいとでも言うようにニコリと微笑むが、美咲はそれで安心できるほど心は強くない。目一杯強がってみせるが基本は小心者なのだ。


「何かあったら絶対に助けてよ!」


「勿論です」


美咲が意を決して払子を右手に持ち剣を振るような気分で構えると、少しだけ払子が大きくなる。と言うか長くなった。どうやら払子も美咲の思いに応え大きさが変化するようだ。


美咲はへっぴり腰のままがむしゃらに払子を振り回しながら怨霊に向かって行く。格好など気にする余裕もなく必死だった。


(祓いたまえ清めたまえ)


美咲はその一分しか知らないし意味も良く分かっていなかったが、ただがむしゃらに念じていた。


すると驚いたことに、宝物庫の埃を一瞬で払ったように、払子の先が触れるだけで怨霊は簡単にその姿を消した。


小さな光の粒となり天に昇るように消えていくその様子は本当に成仏してくれるのだと思える光景だった。


「ほら見ろ簡単だっただろ」


「美咲、やりましたね」


あまりのあっけなさに、美咲は拍子抜けしたというよりなんだか構えすぎてドッと疲れた。


「おっ、これだ。やっぱりアイツが落としたのか」


パピが何かを拾い美咲に見せる。それは美咲がダンジョン管理課でパピに見せられたあめ玉だった。


「あめ玉じゃなかったの!?」


「そんなこと言ってないぞ。食べる気だったのか?」


「いや、だって…。否定もしなかったじゃない」


確かにパピはただ綺麗だろうとしか言ってはいなかった。美咲が勝手にあめ玉だと思い込んだだけだ。だが、しかし、なんだかとっても悔しい気持ちにさせられる。


それにパピがこれを手に入れられたと言うことは、やはりグリやパピでも怨霊退治はできるのではないかと美咲は欺された気分にもなる。


「パピも怨霊退治できたってことだよね!」


「たまたま弱ってたヤツに当たってだけだ。その証拠にあれ一つしか手に入れてない。他にも怨霊はまだまだ居るぞ。次だ、次へ行くぞ」


美咲の反論など聞く耳を持たず、問答無用で次へと引きずるパピなのだった。



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