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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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「ほらほら、母さんって呼んでみな」


「…」


「何だ、ひょっとして恥ずかしがってるのか? 上手く呼べたらこれをやる」


感極まり泣き出した美咲をグリはそっと抱き上げ、あやすように背中を優しく叩いてくれていた。


そのせいでグリの服をグシャグシャに濡らしてしまい大慌ての美咲を落ち着かせるためか、それとも場の雰囲気を変えようとしてくれたのか、精一杯慰めようとしてくれているのか、パピが揶揄うように美咲の頬を優しく突き、どこから取り出したのか綺麗なあめ玉を指でつまみ目の前で振っている。


「そのあめ玉どうしたの?」


「綺麗だろう? 宝石みたいに綺麗だから美咲にやろうと思ってな」


(だからどこで手に入れたのか聞きたかったのに…)


「それよりこれから私のことは母さんって呼ぶんだろう? ほら、ほらほら、早く呼んでみな」


パピのぶれないその態度に、ついさっきまで色んな感情が込み上げていたのが嘘のようにスッと心が落ち着きいつもの美咲に戻れた。


「両親の呼び方って色々あるのよ、父さん母さんだけじゃないの。おやじとかおふくろとか、何なら父上や母上ってのもあるし、他にはパパママとかマミィダディとかオンマアッパってのもあるんだけど、()()()()は本当に母さんで良いの?」


「な、何だよ急に…」


美咲にまくし立てられパピは焦りだしたようだ。


「最近では少数派だけれど名前呼びも増えてるって話よ。ヤタさんミトさんって呼ぶのも悪くないよね」


「それはまたどこの世界の話です? とても興味深いですね」


「えっと…」


グリにツッコまれ美咲の勢いは急激にダウンする。生まれる前に不思議な世界で不思議な老人に会ったことは話したが、実は美咲が転生者だということははっきりとは伝えていない。グリのことだから薄々感づいてはいると思うが、今までわざわざ話す機会もなかったのだ。


美咲が意を決して話すなら今かと思ったと同時にガラリと扉が開き隼人が戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが新しい採掘者登録証になります」


「「「…」」」


美咲もグリもパピも三人同時に一斉に現実に引き戻された気分だった。


三人は平然と椅子に座り直すと改めて戸籍と引き換えの情報についてグリが話し始める。そのグリの情報というのはまた驚いた話で、一緒に聞いていた美咲も俄には信じられなかった。


その話というのがダンジョン最下層のボスフロアにはちょっとした穴があり、その穴に一般にみんなが妖石と呼んでいる魔物が消滅後に落とす石を捧げるとダンジョンが成長するというものだった。


「わざわざ穴に捧げる必要もないが、あの穴に纏めて捧げた方が効率が良い」


「えっとですね、整理させていただくと、あれですか。妖石を鉱石と認め買い取りを始めなければ良かったと言うことでしょうか」


「そうだ。それまではあの石はダンジョン内に放置されていた。それをダンジョンが吸収し成長していたのだからな」


「と言うことは妖石は下手に買い取らずそのままダンジョン内に放置するか、採掘者達の成長に使えばこの領はもっと発展していたのか…」


「それとダンジョンの元となる要素の供給が追いつかなくなるといずれはダンジョンの消滅もあるぞ」


グリの説明によると、ダンジョンは魔素だか瘴気だか邪気だか知らないが、この世界からそういった要素を吸収しダンジョンを維持しているのだとか。


そして妖石はその魔素だか瘴気だか邪気だかの凝縮結晶体で、人間の成長を助けもするがダンジョンの成長も促すのだそうだ。もっともダンジョンの成長には何千何万というかなりの数が必要になるようだが。


「それではあのダンジョンを特級難解ダンジョンに成長させることもできるということですか!」


ダンジョンの消滅もあり得るという話は隼人の耳には届かなかったのか、ダンジョンの成長について漸く理解し反応したようだった。


「特級難解ダンジョンに成長させてもそれを攻略できる採掘者が居なくては本末転倒だがな」


「要するに私はダンジョンや採掘者達をどのようにどの程度成長させるか、その手腕が問われるということですね」


「そうだな。例えば採掘者に妖石で成長できると情報を流せばどういう事態が起こるかも考えなくてはならないだろう。少なくとも今の組の形態の維持は難しくなるだろう。私はその方が良いと思うがそこはあなたの考え次第だな」


「……」


「私の情報は以上だ。この戸籍に見合うだけの情報だと思うが、どうだ納得してくれたか」


「はい、確かに…。しかしこの情報はしばらく他の者には伏せさせていただきます。できればあなた様も絶対に他言無用でお願いします」


「勿論だ。この情報はあなたに売ったものだ。その辺は安心してくれて良い。そもそも下界にはそれほど興味も無い」


「下界?」


グリやパピは美咲のプライベートダンジョンの外を下界と呼んでいたのをすっかり忘れていた美咲は、グリの下界発言にかなり慌てた。

隼人に聞き返されても説明のしようがないと言うより、グリに説明させる訳にはいかないと一気に焦る。


「あ、あのっ、隼人さん! 私服を変えたんですけど、これだったらバレる心配は無いですよね!!」


「私としたことが気付かずにすみません。しかしその布も良く見ればかなり腕の良い職人の手によるものですね。入手には相当苦労したのではありませんか?」


「いただいたんです」


グリの下界発言を上手く誤魔化せたと美咲はすっかり安心し軽く答える。


「えぇぇ、他の者の目は誤魔化せてもこの私の目は誤魔化せませんよ。これはそんな簡単にやり取りできる代物ではないです。我が領でこれだけの物を作る職人を私が知らないとは考えづらい。ということは藤上領にもこのような腕の良い職人がいるということですか」


しかし今度は別の問題を抱えることになってしまい、美咲はなんと言えば納得して貰えるのかとまたまた焦る。


(まさか神様の了承を得て神社の宝物庫からいただいてきたとは言えないよね…)


「私達から下手に情報を引き出そうとするな。あなたがそのつもりなら私にも考えがあると言ったはずだが」


グリが超偉そうな態度の上に威圧を放つ絶対零度の目で隼人を睨むと、颯は慌てて両手で自分の口を押さえウンウンと何度も頷き無条件降伏の態度をとった。


美咲はそれを見て、あの神社の宝物庫からいただいた物はやはりどれもこれもとても良い物だったのだと再確認するのだった。



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