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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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「美咲、ダンジョン管理課へ出かけますよ」


「留守番してる~」


「何を言ってるのです。戸籍をいただくのに本人が居なくてどうします」


「え~、だって私子供だし、そういうのは大人が代わりにするものでしょう」


美咲は眠い目を擦りながら布団から起き出しお気に入りの唐衣を羽織り、グリに仕立て直して貰うのも待ちきれなくて、自分で簡単に肩上げだけして丈の長さはそのままの唐衣を引きずって歩く。気分は平安時代の貴族のお姫様だ。


昨日あの神社を出てからこの街にある小さなお社やお寺さんにお地蔵様とお供えを届けて歩いた。お茶菓子が足りなくなったがそこはお酒だけで我慢して貰った。


そしてあの美咲専属のハンディーモップと化した払子で薄汚れたお社を払うと、朽ちた所はどうにもできなかったがカビやコケ泥と言った汚れが綺麗に落ちた。勿論お地蔵様の汚れもだ。


それがとっても気持ち良くて、ついつい調子に乗ってこの街にあるすべての場所を回ったため帰りがすっかり遅くなり、空き地に設置した簡易お社に戻ったのは丑三つ時を越えて朝方近くだった。


こんな事なら簡易お社を持ち歩けば良かったとちょっとだけ後悔したが、別行動をしていたパピの事を考えたらやはりそれは無理だったろう。


「新しい服が仕上がっているのですが興味無いですか」


「えっ! 急いで仕立ててくれたの? もしかして寝てないの!?」


「出かけるのは分かっていましたからね」


「グリ、ありがとう!」


美咲はグリに無理をさせたと感じて申し訳なくなり、最大限の感謝を伝えたくてグリに抱きついた。

そしてその仕立て上がったばかりの新しい服を広げ体に当ててさらに感謝を伝える。


「すっごく嬉しい。本当にありがとう」


「喜んで貰えたようで良かったです」


さっそく着替えた美咲はその全身を確認するように右に左にと体を捻る。

薄桃色に染まった無地の生地でできた服は春めいた雰囲気に仕上がっていて、上に羽織った和装ケープやスカート風に仕上げた二部式着物の下側が動きで捲れると、チラッと顔を覗かせる裏地は深紅で薄桃色と相まってそれがまたちょっと可愛い。


「ふふん、どう、似合う?」


「ええ、とっても可愛いですよ」


「ふふふ、ありがとう」


服を仕立ててくれたグリを差し置いて何故か美咲はとっても自慢気だった。


「ダンジョン管理課へ行ったら今日はダンジョン探索するんだろう?」


いつの間にかパピが現れ今日の予定を確認する。


「そう言えば街の魔物ってどんな感じだった?」


昨日はずっと移動中は魔物の気配がすると速攻でグリが倒してくれていたので、美咲がその姿をはっきりと目にすることはなかった。多分グリは美咲が怖がると思って先回りしてくれていたのだろう。


「やはり人が多い所は魑魅魍魎が多いな」


「魑魅魍魎って…」


「郭の辺りは怨霊の類いも多かったぞ。あれは倒すだけじゃなく一度祓わないとダメなんじゃないか」


「怨霊って!」


「人の怨念が集まった者または成仏できずに怨霊と化した者だな。ウヨウヨしていたぞ。美咲、どうせだ祓ってやれ」


「祓うって私が!? 私は陰陽師でも高名な僧侶でも神主でもないんだよ。私にできる訳ないじゃない!!」


「何言ってるんだ。そのためにその払子を授かったんじゃないのか?」


「えっ、まさかそんな…」


《あらゆるものの邪気を祓い汚れを祓い人間の煩悩を祓う》ってあの神様は言ってたけど、確かに掃除にはとても便利だったけど、怨霊を祓えだなんてそんな意図はなかったと思いたい。


できることなら魑魅魍魎や怨霊にだなんて絶対に関わりたくないと美咲は強く反論したかったが、何故かその言葉が美咲の口から出ることはなかった。


「やれるかどうかはまずはダンジョン管理課へ行って用事を済ませてから考えましょう」


「うん、そうだね」


美咲は急いで身支度を調えグリとパピと連れだってダンジョン管理課へと向かい、約束の時間に間に合ったことにホッとする。


「お待ちしておりました~」


すっかり忠犬と化した隼人が直々に出迎えに立っていた。領主の息子だというのにびっくりだ。周りに居る採掘者達も驚いている。


「待たせたか」


「いえ、時間通りでございます。どうぞ中へ」


相変わらず隼人に対してはすんごく偉そうな態度のグリだったが、美咲は何故かそんなグリを違和感なく受け入れていた。


すぐに隼人の執務室に通された美咲達はそのまま丸テーブルの椅子に当然のように座ると、またまた当然のようにお茶と昨日とはまた違ったお菓子が出された。


(やだ、これも美味しそう~)


朝食を抜いてきた美咲は、見た感じ練り切りのようなそのお菓子にさっそく手を出して良いものかとグリと隼人の顔を交互にチラチラと見て様子を窺う。


「どうぞお召し上がりください」


「ありがとうございます」


隼人の言葉に美咲は遠慮なくお茶菓子に手を伸ばす。


「ではさっそくですが、戸籍は昨日一家で亡くなった者の戸籍をそのまま使うことにしました。その方が生存していた実績あるので疑われる心配も少ないかと考えたのですが、ただそうなると氏名の問題が出てくるのですが構いませんか?」


グリとパピだけでなく美咲まで名前を変えなくてはならないのかという思いより、一家揃ってどんな理由で亡くなったのかの方が美咲は気になった。


「その者達の戸籍を使うのは良いが本当に問題はないのか?」


「辺境の村から前年の飢饉に耐えきれず移住してきた者達で、親族も既にみな亡くなっていると言う話ですので調べられても問題はないです」


「それでまた何で一家で亡くなった? まさか自害か? それだと別の問題がありそうだが」


(うんうん、理由によっては今朝聞いたパピの話じゃないけど怨霊になっていそうだよね。そんな人達の名前を名乗るってちょっと嫌だなぁ。取り憑かれたらどうしてくれるのよ)


美咲は心の中であれこれツッコミながら二つ目のお菓子にそっと手を伸ばす。


「街の生活に慣れず借金が嵩んだようで、女房や子供を借金のカタに郭に出されると知り世を儚んだようです」


時代劇ではありがちな話だったが、隼人のあまりにも軽い様子にこの世界の人間の命の軽さを感じ、現実の厳しさになんだか少し悲しくなる。


(やっぱり自殺かぁ…。何か方法がなかったのかな)


美咲的には自分と変わらない年齢の子供が親の道連れになって死んでしまうなどけして気分の良い話ではない。


「採掘者になることを再三勧めたのですがダメでしたね。私からしたら仕事を選んで身を滅ぼすなど愚かだとしか言いようがありません。自害するくらいなら採掘者となって死ぬ気で働いた方が希望が持てると言うものです」


(人には色んな考えもあるし人それぞれ事情もあるだろうからなぁ。一概にはなんとも言えないとは思うから難しいよね…)


美咲は生まれてすぐに殺されそうになりながらも、今ではこうして自由気ままに生活できている自分の幸運に心から感謝して、三つ目のお菓子に手を出すのを遠慮した。けしてお菓子を三つも食べたら胸焼けがしそうだと考えた訳じゃ無い。


「借金はどうなったのだ? 私達が追い立てられる心配は無いのか?」


「勿論そちらの問題もすべて解決済みです。埋葬も人知れずきちんと済ませ一家の事情を知る者の口も厳重に封じ近所の者には引っ越したことにしてあります」


「私達もこの街に留まる気はないのでそれならば問題はないのか…」


グリは少し慎重に何かを考え始めた風だった。


「こちらが一家の名前になります」


丸テーブルの上に置かれた紙には風早領柏村八太・美富・美咲と書いてある。読み方はヤタ・ミト・ミサだそうだ。


奇しくも美咲と呼び方の違う同じ漢字の少女の名前に何か心に来るものがあった。偶然と言うにはあまりにも運命じみている。


一度も会ったことのない少女だが、不思議と少女の分も幸せに自由に生きてやると言うような決意じみた思いを抱いた。


「こちらの戸籍でご納得いただけたのなら、こちらの戸籍証明証とは別に採掘者登録証も身分証明になりますので採掘者登録の方もこの名前で再登録いたします」


「すまない頼んだ」


グリもどうやら納得したようだった。


隼人が手続きのためか退出したのを見てグリが美咲に聞いてくる。


「呼び名はミサだったようだが呼び名までは戸籍に載らない、この先もミサキのままの呼び名で良いだろう」


「でもグリとパピはこれからヤタとミサだよ。呼び名を間違えないように気をつけなくちゃね」


「違うよ。これからは父さん母さんだ」


「えっ!?」


「私達は親子だ」


「そ、それもそうだね…」


前世でも両親のことを父さん母さんなんて呼べなかった美咲は、なんだかとても不思議な感じがした。


この世界に転生してからずっとグリとパピに頼りっぱなしだったけれど、改めて頼って良い大人に出会えたような、心から手放しで身を預けられ守って貰える大人に出会えたような、強がらなくて良い相手に出会えたようなそんな思いが一気に湧き上がり、心が震え、本当に欲しかったものをやっと手に入れられたような、ずっと探していたものを漸く見つけられたようなそんな気がして、知らず知らず涙が溢れるのを止められなかった。



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