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「もう一度確認をする。あの子はおまえが仕事の失敗を隠し誤魔化すために攫ってきた子供で、あの領主とは何の関係も無い子供だと言うのだな」
「申し訳ございません」
男は頭領の前で両手を付き深々と頭を下げた。
「それで今さらそれを報告していったいどうするつもりだったのだ」
「できることなら私に本物の行方を追わせてください。今度は必ずや見つけて参ります」
「あの子はどうするつもりだと聞いたのだ」
「どうすると言いますと?」
男は何を聞かれているのか皆目見当が付かなかった。
あの子は領主の娘ではないが今日まで里のみんなで育てた子供だ。今さらどうするもこうするもないだろう。実際自分は既に里の仲間の一人だと思っていた。
「そもそも一族ではない者を里に入れる事も反対であった。しかし仕事の依頼となれば仕方ないと受け入れたが、あの子が偽物だというのなら今さら領主に引き渡すこともできまい。となったらやはりこれ以上里で面倒を見るのは無理だ」
「何故ですか!?」
「里の掟を忘れたか」
「いえ」
男は厳しい目つきで改めて問われ、子供の頃から叩き込まれてきた掟を心の中で復唱する。
仕事の遂行第一。一度受けた仕事は命に替えても必ずややり遂げる。
男はその掟の下、常に感情を捨て絶えず仕事を優先させてきた。
「この里の仕事が他者に知られるのも裏切りも絶対にあってはならない。だからこそ今まで一族の者だけで里を守り他者を受け入れずに来たのを忘れたか」
「……」
山深い場所にひっそりとある里は他者が訪ねてくることなど希で、その希に迷い込んできた他者は今まで一人残らず金品を巻き上げ殺してきた。
そうして里の秘密を守ってきたのは良く知っていたが、あの子は迷い込んで来た他者ではなく里で受け入れられた特別な子供だと男は今さっきまで信じて疑ってなかった。
「裏切りは許さない。一つの例外もなくだ」
「裏切りですか?」
男は少しの不満を露わに何故そんなことを言われたのかと問うていた。
「そもそもこの仕事は信用があってこそなり立っているのを忘れたか。信用はちょっとしたことですぐに失われる。そして一度失った信用を取り戻すのは容易ではない。だからこそ失敗は許されないのだ。それをおまえは」
頭領は一度話を区切り大きく息を吸い込むと、まるで怒りを抑え込むかのようにして話を続ける。
「失敗の報告を怠った。あの子を攫う前に報告をし里を総出にしてでも仕事を完遂させるべきであった。そうすれば少なくともあの娘の運命を摘むようなことをせずに済んだだろうな」
「運命を摘む…」
男は思ってもいなかったことを言われ、改めて口の中で呟き、自分のした事の罪深さを思い知った。
「里の掟通り始末せねばなるまい」
男は頭領の言葉にゴクリと音を立てて唾を飲み込んだ。
どうかそれだけはと言う言葉が喉から出かかったがそれを寸でに思い留まったのだった。
そしてこれは自分のしでかした一番の失態なのだと認め受け入れるしかなかった。
しかしまた別の考えが心の中で育ち始めていた。あの子をどうにかして助けたいと。
「まずは領主に本当のことを告げ謝ることからだな」
「…それは勿論です」
本当に報告しなくてはいけないのかと男は疑問に思っていた。
失敗の報告をわざわざしなくても本物さえ見つかれば何の問題もないのではないかと言う考えがあったからだった。
「納得いかないか? しかし考えてもみろ。今まで何故その娘は見つからずに姿を隠していられた。それは噂の通り何かしらの特別な能力を持っていたからだ。そしてその能力は多分その子を守る特別なものなのだろう。それを本物を見つけ今まで能力を見逃していたと報告してあの領主が納得すると思うか? 嘘は次の嘘を生みいずれ必ずや身を滅ぼす。隠し立てすればするほど信用は失われていくのだ。そしてやがてはおまえだけで無くこの里の破滅を招くことになる。分かったか」
男はもはや何も言い返すこともできず、両手を固く握りしめ顔を上げることもできなかった。
「次にその本物の行方を追う方の仕事だが、その姿を見たのはおまえしかいないとなるとやはりおまえが適任であろう。しかし今回は一人で行動させる訳にはいかない。本物を連れて来られればおまえの減刑もあり得るが次に失敗したら分かっているな」
「…はい」
死刑宣告も同然だった。ましてや自分に見張りが付くとなると逃げるのも叶わず、あの子を助けることもできないのかと悔しさで涙がこぼれ落ちそうになっていた。男がこんな感情を抱くのは初めてのことだった。
(絶対に助けてやりたい。逃げるとしたら今しか無い)
男は迷うことなくまるで急かされるような気持ちのまま頭領の前を辞すると、追われるのを覚悟で自分が攫ってきた少女を連れて里を抜け出すのだった。




