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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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「ここで匿っている少女はどこだ」


美咲が姿を現すのをひたすら待っていた黒装束の男はとうとう痺れを切らし神社の神主の寝込みを襲った。


「ここで少女をですか?」


短刀を喉元に突きつけられた神主は慌てるでもなく静かに問い返す。事実まるで覚えのない問いかけだった。


「隠し立てしても無駄だ。この神社から職員らしき男女に伴われ出入りしているのを目撃している」


「はて、困りましたな。見ての通り匿っている少女など居ないのですが一つ心当たりがございます」


「命が惜しくば早く話せ」


「その男女は神の御使い様ですね」


「何を馬鹿なことを」


黒装束の男はいきなりの神主の話に拍子抜けするが、神の御使いと聞いては完全に無視もできずただ呆れるしかなかった。


「信じられないでしょうが、まぁお聞きください。何年か前から突然物資がなくなることがあり、初めは覚え違いかと思いしっかり管理し始めてみるとこれが間違いではなく、かと言って誰かが持ち出している様子もなく、結局たいした被害額でもないので私共は犯人捜しは諦めました。するとここ数年この神社でさらに不思議な現象が起き始めたのです。掃除をした覚えもないのに神社の管理する森が綺麗になっていたり、時にはこの社内も磨かれていることもあり、そしてもっと不思議なことに年々信者が増えお供えや賽銭だけでなくご祈祷の依頼もかなり多くなりました。それで私共は物資が消えていたのは神様の悪戯で、その悪戯を見逃したお礼に加護をいただけたのではないかと考えたのです」


「……」


黒装束の男は少女のことを一刻も早く聞きたかったのに、まるで関係の無い話を始めた神主を咎めるでもなく聞き入ってしまう。それほどに神主の話はまるで真に迫る説法のようであった。


「すると今度はこの神社の白衣を着た神気を纏う男女が一人の少女を連れて姿を現したのです。私は心底驚き、また悟ったのです。今までこの神社で起こっていた不思議な現象は神の悪戯ではなく、きっとこの神の御使い様達がこの神社に住み着いていた結果なのだと。そして多分ですが御使い様方はここでかの少女を人知れず育てていたのではないかと」


そう考えると今まで無くなっていた物資だけでなく、他の色んな不思議に合点がいったのだった。


「それでその少女は今どこに居る」


「旅立ちたいという申し出でしたので私共で精一杯のお心遣いをご用意させていただきました。ですからすでに旅だったかと思われます。何しろお姿を拝見したのはあの時限りですので何とも言えませんがね」


いつの間にか喉元から外されていた短剣に安心した訳ではないが、神の御使いと少女の姿を思い出し神主の表情には自然と笑みが浮かんでいた。


そして神主はあの神の御使いが持ってきた酒の話は伏せることにした。話す必要も無いという判断からだった。

あの酒の効果のほどまでは分からないが、神の御使いが持って来たからにはかなりの価値があると神主は考えていた。

それにそれが下手に権力者に伝われば自分の身を滅ぼすことにもなりかねないと言う危惧もあった。


「何っ、いつだ! どこへ行ったか分かるなら話せ!!」


黒装束の男は神主の話を完全に信用した訳ではなかったが、旅立ったというのは間違いないと信じた。

神主がそんな嘘を吐いているとは到底思えなかったのもあるが、それならばここ数日神社を張り込んでも姿が発見できなかった理由になると納得できたからだった。


「他にも霊験あらたかな神社の場所を知っているかと尋ねられましたので、私共よりも格の高い神社の場所をお教えしました」


「そこはどこだ!!」


黒装束の男は神主からその神社の名前と場所を聞いて大人しく神社を後にした。


男は仕事以外の無駄な殺生はあまり好まなかった。ましてや神仏にまつわる人間を手に掛けるなど気が進まないどころの話ではなく、意外に信心深い一面を持ち合わせていたのだ。

本当なら神主の口を封じその足で少女を追って神主から聞いた神社に向かいたかったが、それでは本来の領主との契約を果たせなくなるので諦めるしかなかった。


男は少女がこの領から離れたのならもう問題はないかと言う思いと、万が一後でバレたらと言う不安を拭いきれなかった。


そして結局後でバレて責任問題が大きくなる前に頭領にだけは話す事を決断する。この問題は既に自分だけでは責任を負いきれないと気付いたからだった。


神主の話を全部信じた訳ではなかったが、神の御使いなどと聞いてしまたことで下手に個人で関わるのを避けたくなったと言った方が正しい。


もし本当に神の御使いが居てあの少女が守られているのだとしたら、自分一人では到底太刀打ちできないだろうし、どんな災いが降りかかるか考えたくもなかった。


男はこんな仕事をしてはいるがそれは自分の望んだことではなく、生まれから仕方なく従ってきた人生だった。

だから本心では自分の命を一番に考え、平穏に寿命を迎え神の元に召されたいと願っていた。


プライドが高く時期頭領の座を狙ってはいるが、それは向上心がなせる技で心までは完全に無情に冷酷にはなりきれていなかった。


(やっぱり俺は命令されたことだけやっているのが一番だ。できることならこの家業からも足を洗いたいなぁ…)


黒装束の男はこの神社で神主と話をしたことで何故か溜まっていた鬱憤や邪気がすっかり祓われ、心はスッキリとしてまるで悪夢から目覚めたようだった。


そして男はその軽い気分のままに、自分が今まで抱えていた問題も責任もすべて頭領に丸投げすべく里へと急ぐのだった。



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