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パピの要請もあってプライベートダンジョンの大きさを最大まで広げてみて分かったことがある。
まず驚いたことに神社以外の家屋は廃墟と化し、人が住んでいる生活感がまるで無くなり、生活物資を拝借して泥棒のような真似をしたくないという思いはまったくの杞憂で終わった。
ただ単に今厄介になっている神社が神気によって守られた場所だから特別だったようだ。
それとプライベートダンジョンは完全なる円形かと思っていたがどうもそうではなく、どうやら地形の影響を受け多少形が変わるみたいで、要するに面積と言うより体積(?)で変化しているのではないかと思われた。
「ここの神社だけが特別なのか他に神気のある場所なら廃墟にならずに済むのか知りたいですね」
一通りプライベートダンジョンの中を探索して神社に戻るとグリが何か考えているようだった。
「そうだな。他にもこんな場所があればそこを宿代わりの拠点にもできて便利だよな」
「相変わらずグリもパピも旅立つ気満々だね」
「では、逆に聞きますが美咲はどうしてそんなにここに留まりたいのですか?」
「そうだよ。おまえ命を狙われたんだぞ。こんな所早いところ退散するに限るだろう」
どうしてと聞かれると旅は小説や漫画で読むから楽しいけど、実際に歩いてあちこち回るなんて大変面倒で疲れるだけじゃないのかと思うからだ。
だって歩きだよ、歩き。前世のように便利な移動手段があるならともかく、基本はどんな険しい場所も舗装されていない道も歩かなくちゃいけないんだよ。
それに綺麗な景色に美味しいものはたまの休暇でちょっと出かける非現実感があるから楽しめるのであって、旅が生活になったら心から楽しむ余裕が本当にあるかは疑問でしかなく、正直生活が逼迫しないのならずっとこのプライベートダンジョンに籠もっていたい。
とは言え、神様やあの老人に感謝を込めてお供えをすると決めたので、珍しいお供えを見つけたいとは思う。
それに籠もっていたいとはいえ時には美味しいものを求めて外に出たくなることもあるだろう。となるとやはり命を狙われているのは片時も気が抜けず確かに大問題だ。
それに旅をしている間にここよりももっと快適な場所が見つかるかも知れない。そんな場所を見つけて引き籠もることを目標になら頑張れるような気がする。
(生んでくれた母も一緒に生まれた兄もきっと自分の事なんて忘れているよね)
そう思う美咲自身グリやパピほどに肉親に何かを思う感情もなく、何の躊躇もなく始末しろと言い放った父親を不思議と恨みに思う気持ちもなく、正直父親のことなどはまったくどうでも良かった。
きっとそれは今がとても幸せな証拠なのだと美咲は感じていた。
「そうだよね。グリとパピが一緒に居てくれるならきっとどこへ行ったって何も変わらないよね」
美咲はそう口にしたことで自分が変化を恐れていたのだと気が付いた。変わらない平和で幸せな毎日をこのままずっと続けていたかったのだと。
「じゃあ思い立ったが吉日だ。さっさと行くぞ」
「パピ、少し落ち着きましょう。支度は出来ていますが旅立つなら明日の早朝の方が良いですよ」
「そうよ、それにまだスライムの検証をしてないわよ。戦いたいって言ってなかったっけ?」
「あっ、そうだった。じゃぁさっさとやるぞ。美咲早く出してくれ」
「それじゃ取り敢えず弱いのから行くね」
そうして美咲達はスライムの検証を始める。まずはスモールサイズの属性スライム、次にラージ・ヒュージ・キングにエンペラ-と次々とサイズを変え設定し直して行く。
グリもパピもキングまでは普通に苦戦することなく戦えたがエンペラーはさすがに少々手こずり、最終的に神気を使っていた。
突然グリとパピの体が光、なんだかスゴいオーラを放っているのを感じた美咲はただただびっくりして固まっていた。
身体強化の魔法でも使ったのかそれとも何か特別な魔法を使ったのか、何が起こったのかさえ確認できないまま美咲が気付いたときにはエンペラースライムは光の粒となって消えていた。
「魔物ごときに神気を使ってしまった。私もまだまだだな」
「そうですね。初戦とは言え少々焦りました。反省です」
「……」
「どうした美咲?」
「何が起こったのか全然分からなかった」
「だから少しばかり神気を使ったまでですよ。もう少し力の制御も覚えなくてはいけませんね」
「それじゃ練習がてらガンガン行くぞ。美咲次だ次」
美咲はグリとパピの要望に応えメタルなスライムとゴールドなスライムと次々と設定していく。
メタルなスライムは残した石を砕くと大層な経験値を得られるようで、二人とも驚くほど早くレベルが上がるのを喜んでいた。
そしてゴールドなスライムは何故かお金を落とした。スモールサイズは子供の小遣いにもならないが、さすがにエンペラースライムともなると金貨を落とすのでこの先お金に困ることはないかと思われたがグリとパピには不評だった。
「レベルの上がる石を落とさないんじゃ問題外だ。倒した意味が無い」
「そうですね。どうしてもお金が必要なとき以外は遠慮したいところですね」
「二人とも簡単に倒してるけど、多分メタルもゴールドも倒すのに苦労するスライムだよ。なんだか二人を見ていると逆に不安になるよ」
「何が不安なんだよ」
「う~ん…。私じゃきっと倒せないから?」
「美咲には瓢箪があるではないですか。そうですね。この魔物でいったいどんなお酒ができるのか少し興味があります。やってみてはくれませんか」
「えっ、魔物でお酒が変わるの?」
「そりゃそうだろう。酒だって材料で色々あるんだから当然だと思うけどな」
言われてみると一口にお酒と言っても材料で色んな種類があるのは確かだ。しかし同じ瓢箪が作るのだから何を材料にしても基本は変わらないのじゃないかという思いもあった。
「じゃあ一度中のお酒を全部出してから検証してみましょう」
「おっ、良いな。やろうぜ」
「では樽でも探してきます」
そうしてグリが探してきた樽にお酒をすべて出して瓢箪を空にするとさっそく検証を始める。結論から言うと美咲では確認できなかったがお酒の色と味が変わった。グリが言うには効能も若干変わっているらしい。
本来瓢箪のお酒の効能はあらゆる邪気を祓い体を清め病を癒やすそうだが、それに何かしらのプラス効果があるようだ。
属性スライムは特に味が顕著に変わり、火は火を噴くほど強く辛口、水は優しく甘い、風はスッキリ爽やか、土は味わい深く旨味が独特らしい。あくまでも試飲したパピの感想なのだけれどね。
そしてメタルはとろっとした口当たりでどんな病や傷も完治させるエリクシルもびっくりの効果。
ゴールドは濃い琥珀色で見た目も超お高そうな雰囲気で、なんとエリクシル効果の上に若返りがプラスされているとグリが調べた結果分かった。
「メタルとゴールドのお酒はお供えにしか使えないね」
グリの説明を聞いて美咲はそう考えていた。多分世に出回ったら下手したら争いが起こりかねないと言うか美咲の身がさらに狙われることになるのは確実だ。
「それが良いです。それにこのお酒を買い取るお金を用意できる者も少ないでしょう」
「このお酒は安く売らないってこと?」
「これほどの効能を持つ酒をそう易々と売れる訳が無いでしょう」
(熊のお酒は提示された金額より安く売ったくせになによ)
窘められた美咲はかなり不満を抱いたが声に出すことはしなかった。自分でもそれが当然だと納得するところがあったからだった。
そしてお酒の検証も終わり、グリとパピはメタルなスライム相手に神気での戦闘の練習をし、美咲はスモールな属性スライム相手に瓢箪を使わない戦闘訓練を夜までしたのだった。




