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「まずはグリとパピの服装もどうにかしよう」
街に出て一番に感じたのはグリとパピの神社装束があまりにも場違いでコスプレ感が満載なところだった。
プライベートダンジョンの中では別に何の疑問も感じずに生活していたが、街は思った以上にギチギチな和装という風でもなくラフなスタイルが多く、昔の中華服や洋装に近い雰囲気もあって多彩な感じで、寧ろ目立つかと心配した美咲の服装の方が周りに自然に溶け込んで見えた。
「別にこれでいいだろう」
パピはお洒落にはあまり興味もないのか不満そうな態度を露わにするが、何が不満なのか美咲にはまったく思いつかなかった。
「そうですよ、お金を手に入れましたが無駄遣いはいけません」
「無駄じゃないから。それよりも周りに合わせた方が目立たずに済むでしょう。プライベートダンジョンを神社に設置したままなんだよ。バレたら面倒じゃない」
グリも衣服に関して無駄と切り捨てるように言うが、美咲はとにかく神社から来ましたと勘違いされるのを避けたかった。
確かに神社から来ているのは間違いないのだが、何が切っ掛けでいつプライベートダンジョンのことを知られるかを警戒したのだ。
下界に出てみて自分が何故あの場にプライベートダンジョンを設置したのかを思い出し、人の多さを実際に感じていつまた誰に命を狙われるかを心配し不安な気持ちを新たに抱いていた。
美咲のことを領主の総領息子と双子だと知る人は街には居ないとは思うが、まだ諦めずに命を狙っている者が居たとしたら絶対に見つかる訳にはいかないと考えていた。
「でも私達はあの神社の守護獣なのですからこれで良いと思います」
「その服装じゃなきゃ守護獣じゃなくなるの? 問題は服装じゃないよね。これから旅をするつもりなら尚更周りに溶け込むのも必要な場合が多くなると思うよ。要するにTPOよTPO」
例えばどんなと聞き返されたら答えようもないと思いながらも美咲は思いつくままを口にして説得を試みた。グリにTPOが通じる訳も無いがとにかく必死だった。
「はぁ…。分かりました。では何か適当に見繕いましょう」
美咲の考えが上手く伝わったのかそれとも察してくれたのか、グリが簡単に折れてくれたことに美咲は心からホッとしていた。
「じゃあさっさと行きましょう」
美咲達はまずは服屋を探して商店街を目指すのだった。
◇
(あの生地の模様は確か…)
ここに偶然にも七年前に領主の元に双子が誕生したことを知る者が居合わせていた。いつものように領主邸へと出向いた帰りだった。
そしてその双子の片割れが着せられた産着は領主が特別に仕立てさせた物だと言うことも男は当然知っていた。
なので同じ物を身に着ける者などあるはずも無いと疑いを抱いて見ると、年齢性別的に双子の片割れに違いなかった。
それに産婆が言っていた通り肌が透き通るような色白で、何より双子だけあって総領息子と面影が似ていた。
(神社で匿われていたのか…)
男は連れの二人の格好を見てそう確信した。
随分と探し回ったが何の手がかりも得ることはできなかった。こんな失態は初めてだった。
見つけられなかったと報告するのは自分の無能をひけらかすだけでなく、今までの里の実績さえも無に帰してしまうことになると男は焦った。
男は領主になんの忠義も抱いては居ない。しかし里は秘密裏に仕事を請け負うことを由とする集落で、一度受けた仕事は絶対に成功させるのを掟としていた。
なので失敗は絶対に許されない。里の者を総出にしてでも一度受けた仕事は成功させてきた。
しかし男は探して探して探し回るが結局見つけられなかったことに焦り、かと言って失敗の報告もできなかった。
次期頭領の地位を狙う男のプライドがそれを許さなかった。
それに見つけ出して里で育てよという命令を無視することもできず、結局男はとある村から一人の子を攫い既に替え玉を仕立てていた。
自分しか知らない事実。誰にもバレる事は無いと今まで安心しすっかり忘れていた。
(今になって見つかるとはなんという皮肉…)
男はどうするべきかを悩んだ。
どちらにしても領主は事実を何も知らない。時折暢気に替え玉の持つ能力が何か分かったかと尋ねるだけだ。
替え玉に特別な能力などある訳もなく、里では自分がそうして育ったように厳しく躾けられていて、今ではすっかり里の仲間の一人になっていた。
(あの子を今さら突き放すようなことはできない)
領主の娘だとは伝えていないが、今さら身代わりに攫ってきた子だなどと伝えられもしない。里に戻り頭領に報告し相談することも考えたが、男が下した決断は片割れの抹殺だった。
男は三人がどこか人目に付かない場所へ移動するのをひたすら待ち後を付けた。
しかし三人は暢気に楽しそうに人の多い商店街を徘徊するばかり。結局男は三人が戻るであろう神社で待ち伏せをすることにした。
(あそこならば人目に付かない場所も多い)
男は一人成功を確信し先回りして神社に向かうのだった。




