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美咲は現実に戻ると実に久しぶりにステータスをオープンさせて、実際にプライベートダンジョンのレベル上がっているかを急いで確認した。
「レベルが3になってる!!」
一度外された期待だったせいか美咲はレベル3の数字を見て、それだけあのお酒に効果があったのか、それとも今日までの地道なお供え活動の成果が実ったのかと素直に心から喜んだ。
「魔物の選択ができるって言ってたけどどうやるんだ?」
美咲がステータスにあるプライベートダンジョンの文字をジッと見詰めながら腕組みをして考え始めると、ステータスの画面が消えプライベートダンジョンの選択画面へと切り替わった。
どうやら普通に念じるだけで良かったようだ。
広さは直径で最大十キロメートルまで大まかに大中小と切り替えができ、魔物の選択肢には火・水・土・風の属性を持つスライムとメタルなスライムにゴールドなスライムの全六種。そしてそれぞれに大きさの違いと強さの違いと思われるスモール・ラージ・ヒュージ・キング・エンペラーの五種類があり、合計で全三十種の中から五つを選んで設定できるようになっていた。
「ダンジョンの広さはアバウトなのにスライムの設定は意外に細かいのね。でもこれってやっぱりレベルを上げないと他の魔物は選択肢に増えないってことだよねきっと…。と言うか他の魔物を知らないのか? じゃぁこの世界のダンジョンはどんな魔物が出るんだ?」
「さっきから何をブツブツ言ってるんだ?」
「また何か神の声を聞けたのですか?」
美咲が慣れない推察をしていると、タイミングを見計らってグリとパピが声を掛けてきた。祭壇が光ったのを見ていたので、また神と交信をしていると思って気遣ったのだと思われる。
「ぁぁ、あの老人がね、このお酒が売れるって教えてくれた。でもグリとパピの神気を感じられる相手にしか売ったらダメだって言ってた。それ以外の人に売ったら面倒なことになるって。それとこのダンジョンの大きさと出現魔物も変えられるようにしてくれた」
「なんだって!?」「なんと…」
喜んでいるように見えるパピに反して何か考え始めたグリ。本当に二人はいつも対照的だ。
「どんな魔物と戦えるんだ? そいつはやっぱり強いのか!」
「う~ん、多分強いのもいるのかな」
「なんだはっきりしないな」
「だってスライムって多分私の意識から作った魔物だろうから最弱なんだよ。そのスライムを五段階の強さで設定できるんだけど、その最弱の王がどの位強いかなんて予想ができないよ」
「戦ってみれば分かるだろう! さっそくやろう!!」
「ちょっと待ってください。それより先にやることがあります」
さっそく戦闘モードに突入したかのようにやる気満々で外へ飛び出していきそうなパピをグリが止めた。
「なんだよ。戦闘より大事なことか?」
明らかに不満そうな態度でグリを睨み付けるパピに、美咲はちょっとばかりビビるがグリはまったく動じることはなかった。
「魔物とはいつでも戦えます。それよりお酒がどの位の価格で買っていただけるのか先に知っておくべきです。先程金策が先だと確認したばかりなのをお忘れですか。それによって色々と予定も変わってくるのですよ。」
「あっ、そうだったな…」
あんなにやる気満々だったパピがみるみる萎んでいく様子に、美咲はそんなに旅がしたいのかと驚きより半ば呆れていた。
「ではさっそく出かけましょう」
「えっ、もしかして私も一緒に行くの?」
グリとパピの神気が分かる相手に売るという話なのだから、自分にはまったく関係ないと思っていた美咲はグリに当然のように誘われ一瞬で戸惑った。
「当然です。その瓢箪は美咲にしか使えなくなったのですよね。となったらそこからお酒を取り出すのも美咲にしかできないのではないですか」
「じゃぁさっきみたいに酒壺に移し替えたのを持って行けばいいじゃない」
「それだとその瓢箪から出したお酒だという証明ができません。飲めば効果の程は分かるかも知れませんが多分人間が感じるありがたみが変わると思うのです」
「それだと神器の瓢箪を持ちだしたのがバレるんじゃないの?」
「大丈夫です。ここにあることも忘れていると言ったではないですか。それにもしバレたとしても美咲にしか使えないとなったらそれは紛うことなき神の意志です。神主も納得せざるを得ないでしょう」
何をどう言っても美咲ではグリを言いくるめることはできそうもないと悟り諦めるしかなかった。
「分かったわ一緒に行くのは納得するとして、私はこの格好じゃ嫌よ」
美咲はダンジョン内での生活に慣れすぎて、着ている服などは今までまったく気にしていなかった。
神社の職員が着る白衣をグリがサイズ直ししてくれたものを着続け、みすぼらしいとまでは言わないが当然あちこちホツレて着古した感がある。
それに対してグリは白衣に紫の袴でパピは巫女衣装の白衣に緋袴をいつも綺麗に着ているから良いが、ただでさえ子供の美咲がこんな格好でありがたいお酒を売りに来たと言って誰が信用すると言うのだろう。
「では美咲の服を新調しましょう」
「じゃぁどうせなら生まれたときに着せて貰っていたあの着物を手直ししてくれない? あれはかなり高価そうだからきっと信用して貰えると思うんだ」
生まれた時に着せられた白い産着の上からとても綺麗で豪華そうな子供用の着物で包まれていた。
あれ以来大事にしまってあるが、時々はいつか着てみたいとこっそり楽しみにしていた着物で、今ならサイズ的にもピッタリだ。
「あれをですか?」
「デザインもちょっと考えているのがあるの。お願いあれで作って」
前世でドレス風の浴衣が流行っているのを見て若かったら着たのにと羨んだことがあった。
そもそも明菜が着物を洋服風にアレンジして着ていたのに憧れたこともある世代だ。どうせならおもいっきりお洒落に着物を着てみたいと思う。帯が無いのが残念だけどそれはきっとどうにかなるだろうという考えもあった。
「分かりました。やってみましょう」
「やったぁーーー! ありがとうグリ!!」
こうして美咲は下界に出る準備として、産着で着せられていた高級そうな着物を久しぶりに引っ張り出したのだった。




