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「ふぉふぉふぉ、これはありがたい! やはりお主をあの世界に転生させて正解じゃったのぉ」
「えっと、ありがとうございます。って言うか私また夢でも見てるの!?」
気がつくと美咲はあの不思議な老人と転生前にお茶をした東屋に居た。勿論目の前には老人の姿もある。
「あまりに嬉しかったからのぉ、一時的に魂だけをこちらに呼んだのじゃ。本来の世界は時間停止されておるから安心するが良い」
「はぁ…」
呼ばれたと聞いて少しだけ何でと考えてしまい、久しぶりに会った老人に何か話があったような気もするのに何故か言葉が続かなかった。
「約束通りお供えをしてくれて感謝しておるぞ。その中でもこの酒はダントツじゃ。この酒をあの霊獣の神気が分かる者に売ると言う手もあるぞ。しかし神気が分からぬ者に渡すと碌な結果にならないと気をつけねばならぬぞぃ。くれぐれも気をつけるようにのぉ」
「??…」
なんだか急に威厳を持った態度になる老人が何を言っているのかまったく分からずにいた。
「金策を模索しているのであろう。神社仏閣の位の高い者にならこの酒の価値も分かるであろうぞ。売るのもよい手だと思うがのぉ」
「あぁ、なるほどです」
瓢箪で作られるお酒が売れるとは思ってもいなかった美咲は、教えてくれた老人にお礼を言うのも忘れ一人納得していた。
そして神様や老人がこれほどまでに喜ぶお酒なのだからさぞかし高値で買って貰えるだろうとつい卑しいことを考え少々自己嫌悪に陥った。
「かぁぁ~っ! 旨い!! それにしてもお主は表情がコロコロ変わるで本当に見ていて飽きないのぉ」
さっそくお酒を飲み始めている老人が何気に楽しそうに笑うのを見て、美咲は老人に聞きたかったことを漸く思い出した。
「グリとパピにはレベルがあるのに何で私には無いんですか?」
「それは儂の管轄ではないから返事はできんのぅ。じゃが、レベルが欲しいのならプライベートダンジョンにレベルを授けようぞ」
「プライベートダンジョンにレベル? レベルアップすると何が変わるんですか!」
美咲自身のレベルのことを軽く流されたことよりも、プライベートダンジョンがレベルアップしたら何がどう変わるのかについ興味を持ってしまった。
「そうじゃのぉ、まずはダンジョンの広さを変えられるというのはどうじゃ?」
「……広くなったからって何が変わるの?」
今現在のプライベートダンジョンはだいたい直径で二キロメートル位だろうと熊の探索に出かけた時になんとなく感じていた。
それがもっと広くなったら当然街中にもプライベートダンジョンの影響が及ぶことになる。しかしそうなったとして何がどう変わるのかを考えてみるが、ぶっちゃけどんな利点があるのかまったく思いつかなかった。
寧ろ探索に時間が掛かって厄介なだけなのじゃ無いかと思ってしまう。
「これから先本来のダンジョンに挑むこともあるじゃろぅ。広さを変えられればそのダンジョンもまるまるプライベートダンジョン化できて他の探索者を気にせずに済むぞい」
「あぁ、なるほどです」
「何じゃそのあまり納得してませんみたいな表情は。嬉しくないのかのぉ」
「いえ、他のダンジョンに挑むかどうかまだ決めていないので実感が無いというか何というか…」
正直生まれてすぐからずっとプライベートダンジョンで生活してきた美咲は、今さら下界で生活したいという意識も薄く他人と交わることも少し怖かった。
なので別にこのままプライベートダンジョンの中に引き籠もっていても良いかとさえ少なからず思っていた。
「じゃぁそうじゃのぉ…。他にはプライベートダンジョンに出る魔物を選択できるというのはどうじゃ。なんじゃったらお主が戦いたがっていたスライムとやらも選択肢に入れておくぞぃ」
「スライムですか!」
それはちょっと楽しみかも知れないと美咲は咄嗟に反応していた。
(転生したからには一度はファンタジーな魔物とお目に掛かり戦ってみたいと思うのは仕方ないことだよね。この爺さんホント上手いところを突いてくるわね)
「今度は納得してくれたようじゃのぉ。良かった良かった。儂も提案した甲斐があったというものじゃ」
「それで一つ確認なんですが、プライベートダンジョンのレベルはどうやったら上げられるんですか?」
スキルであるプライベートダンジョンのレベル上げとなったらやはり使えば使うほどってことかとも考え、そうだとしたらもう七年も籠もっているのだから当然かなりのレベルが上がるのかと美咲は内心で取らぬ狸の皮算用をしていた。
それに万が一今までの経験が反映されないとしても、このままプライベートダンジョンに籠もり続ければ、これからはレベルが上がり放題かと何気に期待を大きくしてしまう。
そして当然レベルが上がれば上がるほど選択できる魔物も増えるだろうし、他にも何か面白い効果が付くのではないかとも考えていた。
(もしプライベートダンジョン内に自宅を設置できて畑を作れたら、旅をしながら自宅の管理もできるってことよね。それだったら旅をするのも悪くないかも…)
「それは当然儂への貢献度じゃのぉ」
「貢献度って何よ!」
美咲としてはゲームのようにはっきりとした数字で判断できるとばかり思っていたので、貢献度と言ういかにも曖昧な判定基準を提示され期待を外された気がして思わずガックリする。そして同時に納得できないという思いから少しばかり怒りを覚えた。
「これからも美味しいお供えを期待しておるぞぃ。ふぉふぉふぉ」
美咲が《なによそれ》と言う叫びを発しようとするより早く、悔しいかな東屋から意識は遠のいて行くのだった。




