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転生少女のプライベートダンジョン  作者: 橘可憐


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1/13


気がつくとそこは不思議な世界だった。


明るくもなく暗くもなく何も見えていないのに恐怖を煽るものは無く、春の日だまりのような暖かい場所を重力すら感じさせずに漂っているような、そんな空間にただ自分の意識だけがある。


「夢か」


そうは思うがいつも見る明晣夢とはどこかが違う。


明晰夢と言っても夢を自由自在に操れる訳ではない。だが、毎夜見る夢は年を追うごとに映像が鮮明になり、夢に色が付き、白黒テレビ放送が4K放送になったようだった。そのうえ最近では匂いまでも感じることがある。


登場人物も見たことも会ったこともない人であっても知っている人のようだったり、既に亡くなった人が元気で居たりしてどこか懐かしく感じたり、好きでも嫌いでもない芸能人が出てきたりといつも色々だ。


時には空中を泳いだり、高いとこから飛び降りたり、得体の知れない何かに追われたり、映画でも見たことのないような超ビックウエイブに乗ってみたり、激しい雷雨を降らせたり(?)


夢の中では自分はいつも少し離れた位置からまるでテレビドラマでも見ているようでもあったり、自分が何かをしているようでもあったりだったが、今日はまたどこかが少し違うようだ。


なぜなら今までは夢の中で気温など感じたことがない。たとえ海の中を泳ごうが吹雪の中であろうが寒いと感じたこともなければ、真夏の夢であっても暑いと感じたことなど一度もなかった。


それがどうだ。ここでは気温を感じている。とても心地よいと。できることならこのまま芝生に寝転びうたた寝をしたいと思うくらいに。


そう考えた瞬間、不思議なことに辺り一面が草原に変わる。まるで世界が一気に色づき始めたようだ。


「おや、珍しいこともあるものじゃ。ここを訪れる者など随分と久しぶりじゃぞい」


「!?」


突然の声に驚いていると、少し離れた場所に東屋が現れ、そこでは一人の老人がこちらに体を向け佇んでいる。


腰に届くほどの長い白髪のサイドをトップで纏め、同じく長い顎髭も白く、顔の皺が深いせいで目があるのかないのか分からない、そもそも長い眉毛で目が隠れているのかも知れない。


着ている物もなんだか見たことの無いデザインで、器用に体に布を纏わせているだけのようでもあり、まるでどこかの仙人のようだ。


「折角の久しぶりの訪問者じゃ。ゆっくりしていくが良いぞ」


こっちへ来いと手招きをする老人に誘われるように東屋へと足を踏み入れると、東屋の中央に突然テーブルが現れお茶のセットも乗っていた。


「まぁ取り敢えず掛けなさい」


いつの間にかテーブルの傍に椅子が用意されていて、そこに座れと言っているのだと気がついた。


「それじゃ、お言葉に甘えまして」


目の前の老人が何者なのかなどと警戒する必要もない。なぜならこれは夢なのだから。私は椅子を引き、そこに座ると湯飲みに淹れられたお茶を遠慮なく口にした。


「なんだか不思議な味…」


日本茶でもなければ烏龍茶でも紅茶でもない、今まで飲んだことのない初めてのお茶だった。

苦くも渋くもなく若干の甘さがあり、色は琥珀色なのに紅茶のように香り高くはない。要するに美味しいとまでは言えない優しい味のお茶だった。


「ここにはこれしかないからのぉ。儂も他のものを是非飲んでみたいのじゃがここに居ては無理じゃな」


「ずっとここに居るんですか?」


「そうじゃのぉ。ずっとここに居る。今はここにしか居られないと言うのが正しいのかも知れないがの」


「退屈じゃないんですか?」


「退屈か。そんなことを聞かれたのは初めてじゃ…。言葉とは不思議なものじゃのぉ。今までは退屈を意識することもなかったのに、言われてみると途端に意識し始める。儂は退屈を覚えたといったところかのぉ」


なんだか不思議なことを言う人だと思いながら、どう返して良いのか上手い言葉が思い浮かばず咄嗟にお茶を啜りその場を誤魔化した。


「良ければ儂の退屈に付き合ってお主の人生を語って聞かせてはくれぬかのぉ」


「私の人生ですか? 面白くも可笑しくも無いですよ」


「別に面白可笑しい話を聞きたい訳じゃないぞぃ。ここを訪れることができたお主に興味があるのじゃ。是非聞かせて欲しいのぉ。ふぉふぉふぉ」


老人の声は笑っているようだが顔の皺が深すぎて表情ではまったく分からない。ただ長い眉毛が動いているのできっと笑っているのだと思えた

そしてまたその不思議な笑い声は、この場にあった緊張みたいなものを解きほぐして行った。


「それじゃぁお茶のお礼にせいぜい目覚めるまでお付き合いしましょうか」


私は自分自信の人生を古い記憶の順に呼び起こし語り始める。

ネグレクトされていた幼少期。兄弟が増え《お姉ちゃん》と言う呪縛に囚われ、幼いながら家事育児を熟すようになり、中学の頃には禄に学校へも行かず家族のために働いていた昭和時代。


そして家族を養い家族の作った借金を返していたバブル時代。


子供を授かり助けが欲しくて結婚したはいいが旦那は女好きで浮気が絶えず、結局借金は減るどころか増える一方で、仕方なく子供は兄弟に預け働いて働いて働いた。

私が家族と呼んだ両親は亡くなり、兄弟も自分の家族を持ち離れて行った後借金は無くなった平成時代。


しかし気付くと旦那は他界し子供も家を出て行って独りになった令和時代。


自分はどこで間違えたのか分からない。でも若い頃はこのまま苦労しながらも大家族で賑やかに暮らしていくものだと信じて疑っていなかった。

いや、寧ろ子供が増え孫もでき曾孫にまで囲まれ、賑やかに幸せに暮らして行く未来を思い描いていた。


半世紀程前はとても不便で不衛生で不道徳な暮らしをしていたが、できることならあの頃からやり直したいと思った事も何度もあった。


でも今はこれが自分が歩んできた人生の末なのだとどこか納得した気持ちである。とても寂しいが人生を悲観してばかりはいられない。


「最近では誰かに看取って欲しいなんて考えもないのよ。ただ誰にも迷惑を掛けずに死んで、骨はお墓になんて入れないで散骨してもらい、風となって世界中を吹き抜けるか海の藻屑になって世界中を漂ってみたい。そんな風に願ってるの。まぁそれだって誰かに頼ることになっちゃうのが問題なんだけれどね」


自嘲気味に笑ってみせるが自分でもそれが本心かどうかの確証はない。ただ今の自分はそう考えているだけで、正直自分の気持ちすら良く理解できていないのだ。


「では人生をやり直してみるかの? 興味深い話を聞かせてくれた礼じゃ。そのくらいの事ならしてやれるぞぃ」


「それって時間を巻き戻してくれるってことですか?」


夢とは言え随分とファンタジーなことを言ってくれるものだ。

やり直せるなら中学生の頃からがいい。今度はちゃんと高校へも行って、水商売になんて足を踏み入れることをせずに真面目に働いて、家族に借金をさせずに堅実に生きる事ができればきっと人生も変わるだろうか。


「さすがに時間を巻き戻すのは無理じゃのぉ。だから別の世界に転生させてやると言ってるのじゃよ」


キタコレ。夢のファンタジー展開だ。でも本当に転生できるのだとしたらちょっと嬉しい。これが夢だとしても希望が湧いてくる。


「別の世界ですか? 同じ日本じゃダメなんですか?」


「それは無理じゃ。お主がどこから来たのか儂には分からんでのぉ。スマンのぉ」


「地球の日本ですよ。って言うかここがどこなのかが私は知りたいです」


完全にいつもの夢だと思って話をしていたが、もしかしたら本当に明晣夢を見られるようになり、自分の都合良いストーリーを作れるようになったのじゃないかと思い始めていた。

妄想好きの自分が最近読み始めるようになった異世界転生モノに影響されて作っている夢なのじゃないかと。


それならそれでもっと都合良くストーリーを作れるのだろうか。

例えばチート能力をもらって異世界を無双して歩くとか、異世界の大商会の家に生まれて現在知識チートするとか、王族に生まれて政策チートするとか。


「ここは観測所じゃ」


「観測所?」


残念なことに望んだ展開にはどうやらならないようだ。と言うことは明晣夢じゃないってことかと溜息を吐く。


「ここの外に広がる数多の世界を観測するだけの場所じゃ。新しい世界が生まれまた散っていくのをただ記録するのが儂の役目じゃ」


「へ~ぇ、それは凄いですね」


何がどう凄いのかなんて考えることもなく咄嗟に思ったままを口にしていた。

自分に都合良くストーリーを作れないのなら深く考える意味も無い。正直もういい加減目覚めても良いとさえ思い始めている。


「気のない返事じゃの。すっかり興味をなくしたと言うところか。じゃが儂も一度口にしたことは違えん。お主を今儂が観測している世界へ転生させてやる。どうせお主の世界に戻ってももうお主の人生は終えているだろう」


そんな予感はしていた。自分でもそろそろお迎えが来て見ている夢なんじゃないかと。まぁそれならそれで転生というのも悪くないかも知れない。本当にできるのだとしたらだけれど。


「本当に転生できるのだとしたら記憶を持ったままが良いわね。それにどうせなら私に特別な能力をくださいませんか」


「特別な能力じゃと?」


「無理ですか?」


「内容によるの。何しろ全知全能とはいかんのでのぉ」


残念。この老人は全知全能の神ではないらしい。これが物語の中なら転生を勧めてくる以上創造神とか全知全能の神だとかそういう存在だと思ったのだけれど…。


でも折角だから今一番欲しいものを言ってみようか。ダメ元ってヤツだ。それに最初の要求は高く、そして徐々に下げて行き、貰えそうなチート能力を探るとしよう。どうせ夢なら楽しんだもの勝ちだ。


「プライベートダンジョンが欲しいです」


「プライベートダンジョンとな」


「ええ、私だけが利用できる超絶私にだけに都合の良い私の為だけのダンジョンが欲しいです!」


今まで私が生きてきた人生は家族や他人を気遣ってばかりの人生だった。

しかしその思いは通じることはなく空回りして、結局最後は独りになったということは、私は人と上手く関われない人間なのだと思う。


ならば今度は一人で完結できる人生が良い。誰に頼ることも誰かに頼られることもしない人生だと初めから割り切っていれば、きっと今より楽に生きられる気がする。


それに自分に都合の良いダンジョンがあれば、仕事を探さなくても食べて行ける筈。

好きな時に起きて好きなときに寝て自由気ままに暮らし、お金が無くなったらダンジョン探索をしてお金を稼ぐ。

なんならダンジョンに引き籠もる生活でも構わない。と言うかスローライフが可能なら寧ろそうしたい。


誰かに雇われ誰かと一緒に仕事をしなくて良い人生はきっとパラダイスだろう。それに仕事を探すのも面接を受けるのももう懲り懲りだ。


「う~ん…。ダンジョンのぉ……。まぁ良かろぉ。ついでに儂の加護も与えるじゃで、上手いお茶でも供えてくれれば儂のところへ届くようにしておく、ギブアンドテイクとやらじゃな。頼んだぞぃ」


まさか聞き入れられるとは思ってもいなかった。でもまぁ夢だしね。


それにこの老人と話しているのがちょっと楽しくなってきた。溜まっていた愚痴をすべて吐き出せているようで、なんならもう少しここに留まり夢を楽しんでいたいと思い始めていた。


「本当に願いが叶うならお供えくらい当然しますよ。お茶と言わず美味しいものを見つけたらじゃんじゃん送りますからどうぞお楽しみに」


「そりゃ楽しみじゃ。それじゃダンジョンのある世界に送るでのぉ。まぁ頑張るんじゃぞい」


「えっ、ちょっとまっ」


もう少し話していたいと思っていたら突然中断され意識が徐々に遠のいて行く。まぁ夢なんていつもそんなものだ。


そして続きを見たいと寝直してもなかなか続きを見る事なんて叶わない。楽しい夢ほどそんなものだ。


「言っておくが夢じゃないぞぃ。お供え忘れんでなぁ~」


「えっ、まさか…」


これは本当に夢ではないのかと確認しようとした瞬間、意識は完全にブラックアウトした。



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観測記録神の加護に付属品のお供えものBOX?
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