第4話
(喉、凄く乾いてる?…痛い?カサカサな気がする…)
カーテン越しに差し込む光。
夏場のそれは、レースカーテンというフィルターを通してもなお、明るかった。
きっとそれは未来の暗示。この頃の空にはとても信じられない話だが。
蒼のグラスに水を注ぎ、飲み込む空。
さながら全てを受け入れるが如く。
口当たりの良いガラスから唇へと伝わるは温くも、空の喉に潤いをくれた。
少しずつ少しずつ鮮明となる感覚はまだ少し遠い。
時計を見れば十四時過ぎだった。
寝起きは良いのに、今の身体は重く、布団へ戻ろうとする。
三分の一捲れた布団に疑問を抱き、更に捲る。
そこにあったモノは無慈悲に空へと突き刺さる。
よくある出刃包丁。
一瞬にして理解する空。瓦解する自身。
記憶が、その奔流が、心を体を糾弾してくる。
その悍ましさは今まで経験したことのない暴力だ。
「わ、たし…なんて、ことを…!会社を…それも、無断で!」
自分を殺そうとした事では無く、会社を休んだ事の方が辛いのか。
まともな精神状態では無いのは誰でも分かるだろう。
「どう、しよう…私は、どうしたら…」
続く言葉は「赦されるの?」
赦される事なんてこの先無い。そもそも会社は心配こそすれ、空の様に責める者等居ないのだから。
寝ている間に母親が会社に連絡をしてくれていた。
後に聞かされた言葉は
「兎にも角にも今はゆっくり休ませる様に」
だったそうだ。
空と周りとで空への評価や対応が著しく解離しているのは、何故なのか。
性格?気質?根本的な原因に対して、それらは霞む。
しかし理由を空は知らない。
この約壱拾年後に空は自嘲の笑みを浮かべ
「知らない方が幸せだったかも。私」
確かにその通りだ。
「長月」の名を持つ私達を空が知らなければ、あんな事にはならなかった。
しかし同時にそれは、この物語の静止を意味する。
社内事故、無断欠勤、自殺未遂…
これらはこの物語の肝では有るが序章も序章。
ここから空は復職に向けて多くに出会い多くを学ぶ。
得たモノから空は強くなっていく。
後に会う尊敬する先輩からは
「大人になってもズル休みってして良いんだよ」
ずっとお世話になる心理士からは
「それは空さんが今迄築いて来たモノでもあるのですよ」
多くの言葉を始め、沢山の【縁】が空も周りも助けてくれるようになる。
そして尊大なる、ある【野望】を抱いた少年【冬馬】と出会い、【長月 空】として自身も大きくなる。
その名に籠められた願いに相応しく【自身を保ったまま全てを受け入れ、やがては大空へと羽ばたける大きな存在】へとなる為に。
これはそんな【長月】の名を持つ者達の壮大な闘いの物語である。




