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第8話

「おはようございます。髙木部長」

「おはよう。長月さん。じゃあ早速向かおうか。後ろで良いかな。乗って」

「はい、よろしくお願いします。失礼します」

 髙木の指示に従い、運転席から互いに見える位置の後部座席へと座る空。

 前回とは異なり、スーツでは無く私服である。何でもその人の素が出しやすい格好の方が良いのだとか。

 言われれば確かに、と通勤時の様な蒼系の半袖にダーク系の長ズボン。

流石にカーゴパンツは気が引けたのでカジュアル過ぎない物を選んだ。


 道中、相談所が本社から離れた少し不便な場所に有る理由を聞いた。

「本社だと他の人の目も有るから気になって来づらいでしょ?だからあの場所なんだ。もう少しで着くけど、帰りは駅まで一人で行けるよね?」

「はい。遠くは無いので」

 と笑みを浮かべる空だが、ここでも悪い癖が出ている。

 空は自他共に認める究極の方向音痴なのである。お得意のポーカーフェイスだ。

 川崎市にある高校から、友達の家の鹿島田駅付近を経由して子安駅方面へ行こうとし、気が付いたら日吉の学生の列の後ろにいたなんて事もあった。

 方向音痴の逸話が絶えぬ彼女は初めての場所へ行く際、所要時間を計算して二時間前に辿り着く様に出発する。

 心配性な割に自分の進む道が間違っているという発想に至るまでが壊滅的に遅く、選ぶ道が悉く正反対なのだから冗談を疑うが本人は至って大真面目。始末に負えないと思う。

 偶に気まぐれか機転を利かしたつもりか、思う方と逆を進んでみる事も有るのだが、それすらも外れるのだから単なる方向音痴とは種別が異なるのかも知れない。

(まぁ帰れなくなったら、いつもみたいに駅へ向かうバスを追うか、現在地から円を描いて少しずつ広げればいつかは着くし。今日は平日だから会社員ポイ人とか追えば大丈夫だよね)


 人を助けるのは好きなのに、助けてもらうのはトコトン苦手な空は、変わらず今もその悪癖に振り回されている。


 程無く相談所付近の駐車場に留まり、遠くてごめんとの謝罪を受けながら或るビルの或る階へ。

「○○会社 社員健康相談室」

 と書かれた扉を開けて髙木が中に入る。

 後に続くと数名がこちらを見て、挨拶をしてくれる。

「一時から前田先生とお約束頂いている○○会社総務部髙木です。ウチの相談者を連れて来ました。面談のお時間を頂戴できればと」

 女性が奥に行くのを見て空の方へ振り返り

「長月さん。さっき話した通り前田先生と君を会わせて自己紹介を済ませたら、俺は次の仕事に向かうからね」

 未知の静かな密室によって緊張していた空はコクッと頷いた。

「お待たせしました。髙木さん。本日はお越しいただき~」

「ご無沙汰しております。前田先生。こちらが先日お話しした長月です。本日よりよろしくお願いいたします」

「○○会社の長月と申します。お世話になります。」

「○○会社社員健康相談室の前田です。よろしく。髙木さん。本日は一度一緒に入られますか?」

「いえ。私はここで。長月をよろしくお願いします。」

「かしこまりました。では失礼します」

「長月さん。ではこちらへどうぞ」

 と応接室の様な所へ案内される。

 前田の後に続いて、部屋の前で失礼しますと一礼し中に入った。


 先生と呼ばれた三、四十代の男性と対峙した。

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